未確認飛行物体の愛と献身
このエッセイも今回で11回目となるが、アイデアと情熱に枯渇した日々を送っているので毎週ネタに困っている。
とXで助けを求めたところ、フォロワーさんから「UFO」「海の生き物」「新幹線」などはどうか。とDMをいただいた。なので、有り難くネタを頂戴し今回は「UFO」即ち「未確認飛行物体」について書いてみようと思う。
「UFO」「未確認飛行物体」と言えばまず思い浮かぶのはカップ焼きそばか空飛ぶ円盤のどちらかである人が大半であろうと思う。私もそうであった。しかし私は、元来カップ焼きそばにも空飛ぶ円盤にも蒙昧である。そこでまずは「UFO」「未確認飛行物体」と検索し知識を得ようと試みたのだが、そこで一片の詩に出会い深く感じ入った。
その名もずばり「未確認飛行物体」である。
「未確認飛行物体」というスマートで謎めいた語感に対しての「薬缶」!
あの、ずんぐりむっくりした胴体に象が鼻をもたげたような注ぎ口のついたあの薬缶!!
「水の入った薬缶が」とあるが、夜間は毎晩水でいっぱいなのだろうか。そうでないとするならば、薬缶はまず台所を抜け出し、自ら蛇口でも捻り(或いは道中の河川かどこかで水を調達して)そっと長い夜間(薬缶)飛行へと旅立つ。
息せき切って、飛んで、飛んで、でももちろん、そんなに速かない。一生けんめいに飛んでいるのに、そんなに速かないそうだ。
しかし私はここで首を傾げた。いくつもの町を、天の河や渡りの雁の下のみならず人工衛星の下までをも飛行し、遠い砂漠の大好きな白い花に水を全部やって晩の内に帰ってくる薬缶……。
結構、速くないか?
とすると、もしや(でももちろん、そんなに速かないんだ)というのは薬缶の独白ではないのだろうか。だとするならば随分と謙虚である。それとも、薬缶には「あんな風にもっと速く飛べたら……」と思わされるような対象があるのか。
それか、もしかすると薬缶には大好きな白い花に水を全部やりきったがすぐ帰路につかなければ朝までに台所へ戻ってくることができないのかも知れない。
もっと速く飛ぶことができたならば、大好きな白い花と過ごす時間を取ることもできるだろう。とすると、人目には高速で夜間飛行を試みる薬缶が自らを(でももちろん、そんなに速かないんだ)と謙遜したくなる気持ちも分かる。
しかしそれでも、そんなに速かなくとも、薬缶は夜毎、砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花、大好きなその白い花に、水をみんなやって戻って来る。
なんという愛と献身だろうか。謙虚な薬缶からすれば自らの意志により好んで水をやりに行っているわけだから「愛と献身」などというと「そんな大それたものでは」とその注ぎ口を横に振られてしまいそうだが、やはり私にはこの薬缶の行動は「愛と献身」からなるものに思えて仕方がない。
白い花についてはこの詩の中では「砂漠のまん中に一輪咲いた淋しい花」としか描写されていないが、夜毎長の旅路を経て水をやりにくる薬缶のことをどう思っているのかは気になるところだ。薬缶のように自我のある存在なのか、それとも自我を持たない本当のただの「花」なのか。
どちらにせよ、薬缶の献身が報われることを願うばかりだ。水のやり過ぎで根腐れを起こして花が枯れるようなことがないよう祈りたい。薬缶に幸あれ……!
とここまで、詩「未確認飛行物体」の「薬缶」に思いを馳せてきた私だが、この作品の描く世界観や薬缶のいじましさに心を打たれると共に、自身が書きたいと思うBL小説というのはこの「薬缶」のような攻めの出てくるものであるなあ。としみじみ自覚した。
高性能でスタイリッシュなケトルでなく、実家の台所の奥に眠っているような、冴えない薬缶。そんな薬缶的攻めが大好きな白い花的受けに、少々ぶきっちょながらそれこそ「一生けんめいに」愛と献身の限りを尽くす。そんなBLが私は好きだ。
無論、昨今のメインストリームとは真逆であることは重々承知である。商業では今は上記したような攻めキャラの作品は受けないどころか、企画も通らないに違いない。
なのでもし筆を取り作品を発表するとしたらWEB上か同人になるだろうが、いつか「薬缶的攻め」作品を完成させるべく、今はひとまずモチベーションアップに努めたいと思う。早く帰って来い! おれのアイデアと情熱!!
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