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しっくりくる仕事に出会えたら、視界が急に開けた話

 今の仕事に転職して、2年になるらしい…という事実に驚いた年末。仕事とは闘うことだった私にとって、なんと穏やかな2年間だっただろう。過去に勤めていた2社の時は、1年1年を「生き延びた」感覚があったのだが、今の会社では毎日を過ごしていたら2年経っていたという感じで、とても穏やかにここまで来られた。

 今の仕事に転職してから、仕事における時間の物差しが変わったと感じている。仕事内容のせいかもしれないし、もしかしたら、35歳という年齢のせいかもしれない。

 まずは仕事内容の面から振り返ってみたい。

 「仕事とは闘いだった」と書いたが、さて、何と闘っていたのか…。私の最初のキャリアはTV番組のディレクターだった。その中で何が辛かったかを改めて考えてみると、それは、自分では正しくない、やりたくないと思っていても、「仕事だから」やらなくてはいけないことが多かったことかなと思う。そしてそれが誰かを傷つけたり、迷惑になったり、自分や組織の信用を落とすだろうと感じているのに、そうせざるを得ないこと。その他の選択肢を選ぶ力がない自分。やりがいを感じることがあっても、そういった事態に出会うたびに、心がすり減っていたのだろう。それは職業が悪いというよりは、職業(または組織)と自分の持つ正しさにギャップがあったんだと思う。

 そもそも私が映像業界を志したのは、映画や物語が好きだからだった。ディレクターを離れて、次の仕事を考えている時、やっぱりその世界に関わりたいと思った。逃げられない思いだった。その時門が開けていたのが、アニメの制作進行という仕事だった。ネットでは、「キツイ」「奴隷」「給料が悪い」などいい評判は聞かない。調査のため、アニメ制作会社の奮闘が描かれているアニメ「SHIROBAKO」を見てみてみた。いくらか美化はされているんだろうとは思ったけど、やれる気がした。そして、自分に合っているのではないかという思いも芽生えた。そういえば、私が1番好きな映画は「となりのトトロ」なのだ。幸いなことに、求人はいくつもあった。そして、その中の一社で働けることになった。

 結果、不思議なほど穏やかに働けている。物語を作ることに携われる日々は幸せだ。先輩方の言う「修羅場」にまだ出会っていないせいもあるかもしれないが、自分の正しさと仕事の正しさの解離を感じたことはまだない。そういう葛藤に触れないまま、ドタバタだけど、心をすり減らすことのないまま2年が経ったのだ。

 これまでは、自分の職業に対して、「ここは私の居場所ではない」と言う、ぐるぐるした想いがあった。そうやって闘いながら、苦しみながら、別の居場所をずっと探していた。そして今、「ここが自分の居場所だ!」と高らかに宣言できる確信はまだないのだけど、それでも心が少しだけ「居心地の良さ」に触れたような感覚があって、「あ、ここに少しいてみよう」と思えた。その感覚が初めてだった。

 そして仕事に対する「時間の物差し」が変わったのだ。

 今の仕事に出会う前の私は、なんとなく「学校」の習慣を引きずっていて、1年とか、3年とかのスパンでしか物事を考えられなかった。そして、活躍している同世代の人や年下の人に刺激を受け、自分も早く「何者か」にならなくてはいけないと焦っていながらも、居心地の良さを感じる仕事には出会えなくて、でもそこを手ぶらで去ることも許せず、「人より短い時間で、人の倍成長しなければ」「そして、次を見つけなければ」という思いを抱えていた。

 しかし、ささやかながらも「居心地の良さ」に触れた今、あと働ける時間は30年ほどある…と言う感覚が急に芽生えた。ここで好きな仕事を日々積み重ねていく。会社が変わることはあるかもしれない。でも、これから積み重ねるキャリアの軸みたいなものは見えた気がする。2~3年単位で考えていた将来像が一気に30年に広がった。物差しを持ち替えたら、途端に視界が良好になった。

 この物差しの変化を、この文章の冒頭で「年齢のせいかもしれない」とも書いた。

 私は幼い頃、比較的できた子どもだったので、大人になってもどこかで自分を「優秀で特別な人だ」と思っている節があって、「最年少」とか「20代で」とか言われている人に嫉妬心を揺さぶられて、「私だってはやく…」という思いがあったのだ。

 ところが何もないまま35歳である。ここで何か成し遂げても、たいして早くもないし、驚きもしない年齢だ。(さらに33で未経験の転職をしてしまったので、任される仕事は新卒とだいたい同じである。) 自分が凡人だったことを痛感しつつも、何か、年齢にたいして「20代のうちにここまでやり遂げなければ」とか「あと2〜3年でここまで成長しなければ」とかいった変なプレッシャーから開放されて気楽になってしまった。

 そして凡人の最良の戦い方は「続けること」だと思うのだ。周りを見回してみる。若くて優秀な人は沢山いる。でも、みんな途中で何処かへ行ってしまう。それなりの責任を任されているのは、その世代で続けてきた数人の人だったりする。だから、今回は腰を据えて、目の前のことに全力になろうと思う。幸いなことに、日々の仕事が楽しいのだ。

 私のいる場所はここだ。周りを羨ましく思っても、「joinしましたー」って言いながらアップされる華やかな業界のかっこいい宣材写真に憧れても、ここで日々を積み重ねるのだ。そうこうしているうちに、気づいた時には、思ってもみなかった素敵な場所にたどり着いているのかもしれない。歩みを止めなければきっと。

  この文章を書きながらも、牙を抜かれたかなーとか、情熱を失ったかなーとかいった思いもよぎるのだけど、今の気持ちがそうなのだから仕方ない。(会社や業界の将来のこと、社会的な意義、収入のことなんかを考えると頭を抱えてしまいそうになるのだけど、それもゆっくり向き合っていこう。)


 一年後は違うことを考えているかもしれないけど、ひとまず2020年12月の心境として書きました。読んでくれてありがとございます。皆様良いお年を!

 

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