ひとりひとりがみんなと自由に!子どもの村のミーティング〜きのくに子どもの村学園の実践から その③〜
ようやく夏休みに入りました。いやー、4月から怒涛の日々。長かったです。夏休みだけは残業もなく、家事や勉強、自分のやりたい事に時間を費やすことができます。心身に余裕があると、怒ることも少なくなり、生きたいように生きれているような気がして、幸せだなぁーと感じられます。夏休みになるといつも思うのですが、日々の暮らしにもこれくらいのゆとりがあればなぁーと。夏休みが明けても、この感覚を忘れず、子どもたちの幸せのためにも、まずは教師自身が幸せで、心身ともに健康でいられるような学校にしていきたいと思います。
さて、かなり久しぶりのブログになりました。しばらく、仕事やプライベートが忙しく、なかなか記事を書く時間が取れませんでした。今回は、子どもの村のミーティングについての実践について書きたいと思います。
その前に、「自由な学校」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか?子どもの村が考える自由な学校とは、子ども自身が何をするかを決められる学校です。ただ、何をしてもいいよ、自由にしていいよと言われると、子どもはどうしていいかわからなくなり、結局不自由になってしまうことが多いようです。例えば、何を作るかということについて、「どんなものでもいいよ。」と言われると、何を作っていいのかわからない子や決められない子が出てくるそうです。でも、「〇〇を使って、××しようか。」と言われると途端に色々なアイディアが出てくるというのです。一定の枠があり、選択の幅が制限されないと、むしろ自由の深度が浅くなるとカトちゃんは言います。自分で自由に決めるということも選択肢に入れながら、大人が3つ以上の選択肢を用意するのがいいとのことです。
世界一自由な学校として子どもの村がモデルにしているイギリスのサマーヒルスクールは、実は校則の数がとても多い学校です。その決まりは、良いことがより多く、嫌なことがより少なくなるものなので、決まりがある方が得だから守るのだそうです。楽しく快適な学校に欠かせないものは、子どもによる自治です。だから、子どもの村ではミーティングがとても大事にされています。
子どもの村のミーティングが開かれるのは、トラブルが起きた時が多いそうです。一人の困ったも、みんなが当事者になって考えると言うことです。また、子どもを真ん中にするなら大人が上から話してしまっては台無しになるので、対等に話すことを心がけておられます。学校のルールを決める時も、イベントも、委員会も子どもたちが司会進行をし、内容も子どもたちが考えます。子どもの村では、子どもも大人も同じ一票です。人間として対等に話し合うという姿勢が素敵だなと思います。夏休みが終われば、運動会シーズンですが、運動会も子どもたちが全て決め、当日の運営まで行います。公立学校でやっているような炎天下で何度も同じことをするという練習はありません。地域の運動会のように、当日好きな種目に出て、楽しむといった感じです。今、国が子どもをまんなかの社会を実現すると言っていますが、当事者の子どもや子育て、教育に携わっている人々は置き去りです。特に子どもが。学校でも、そんなキャッチフレーズが飛び交っていますが、実際は子どもたちの意見は学校運営には反映されていません。
それは、ひとまず横に置いておいて、そんな子どもの村のミーティングに、受講者から様々な質問が寄せられていたので紹介したいと思います。
①意見が出ないということはありませんか?
A:初めはそんなものです。小さい子は寝てしまうこともありますが、その場に参加しているということが大事だと思います。無理には入れません。
②大人の手助けが必要ではありませんか?
A:大人の指示に従う時間が長かった分、時間はかかります。子どもの村でもサッとミーティングが始められるようになるまで何年もかかっています。大人が寛容に受け入れ、待つことで自己効力感が育ち、子どもに決定権を保障することで自己有用感が育ちます。自分の意見には価値がある、自分は決められると子どもの内側に素地が育つのを待ちます。
③大人に忖度する子がいたり、自分たちで決められない、決めるのが面倒になることはないですか?
A:大人が強い意見を言うと違う意見を言いづらくなります。また、大人の意見が通ることが多ければ、子どもたちの自治力も下がり、面倒くさいとか、虚しいという気持ちになると思います。大人が、ちょっとこれは・・・と思っても、一度任せてみる。失敗してもフォローできる範囲であればやらせてみる、失敗する権利を奪わないことが大事です。多数決は少数派に歩み寄る手段として使います。例えば、AとBがあり、お互いが納得できる第3の意見Cを見つけていくということです。多数決で決めてしまうのは良くないということも教えていきます。
④意見を言う子が決まってきませんか?
A:意見を言えない子を消極的な子だと決めつけないことです。うなづいたり、手をあげたりして意見を持ってそこにいると認めていきます。意見を言いたがる子は、まずその子の意見を遮らずに最後まで聞きます。そうすることでその子は安心することができます。世の中では人の話を聞きなさいと言われますが、あなたの意見はどうなの?とまずは聞くことからです。
⑤民主的な態度を身につけてもらうにはどうすればいいですか?
A:学校はこれを身につける場だと思います。話を効率的に進めようとせず、いちいち遠回りをして、対話を根気強く続けていくことが大切です。民主的であることは、非効率的でもどかしいものです。でも、みんなにとってやさしい手続きをとること、そのプロセスそのものが民主的な態度を醸成します。
⑥大人として気をつけていることはありますか?
A:楽しいテーマはじっくり、嫌なテーマはあっさりを心がけています。次にユーモアです。大人はさりげなく気の利いた発言をし、ときには子どもを挑発することもあります。発言は少なく、短く、わかりやすく、よく通る声で、議論を整理するための質問をしていきます。そして、なるべく後ろに座ります。不適切な決定になっても焦らず、なるべく子どもたちの意見を優先します。でも、責任を子どもたちに押し付けることはしません。何より対等でなければ対話は成立しません。年齢や地位に関係なく、お互いの意見を言い合えることが大事です。
⑦1週間分の学習よりも週1回のミーティングの方が価値があるのでしょうか?
A:楽しいことも、困ったことも共有し、お互いの思いを調整し合い、納得するまで話し合うことで、自分の居場所をカスタマイズしていくことができます。サマーヒルスクールの創始者のニイルは、「感情が自由であるならば、知性はひとりでに発達するだろう」と言っています。
最後に、民主的な態度を育てるための10の仕組みについての話がありました。
1.子どもと大人が話し合う機会を増やす。
2.自由にアイディアを出し合える場をつくる。
3.ルールの決定に子どもが参加できるようにする。
4.学校運営に子どもが参加できるようにする。
5.自分たちが学ぶ内容を決めたり、選択できる。
6.イベントは子ども主体で企画する。
7.子どもと大人が対等な立場で。
8.自己決定を尊重する。大人は権威を捨てる。
9.子どもと大人の意見が違っても、寛容な態度をもって子どもに接する。
10.相手の意見を理解する大切さを伝え促す。
今の子どもたちは、競争や比較にさらされることで、このままの自分ではダメだと自己否定感をもっています。カトちゃんたちが目指すのは、自分で幸せになっていける人を育てることです。他者との交流や対話を通して、自分の存在を実感し、体感して、自分自身を理解し、自己実現を追求できるようになると、ドイツの社会心理学者エーリッヒ・フロムは言っています。また、ニイルは「私たちは、自分自身の魂の船長にならなければならない」とも言っています。自由とは実は孤独なことで、でも自分一人でもいられるということです。学園長の堀さんの言葉で言えば、「一人ひとりがみんなと自由に」。みんなの中にいても、自分自身でいられる、自分自身が役に立つ、自己実現ができるということが、真の自由だということです。もしも、このような人が育っていけば、一人ひとりが自律し、誰もが幸せで、生きやすい洗練された社会になるのではないでしょうか。
今、巷には様々な教育書、教育メソッドが溢れていますが、子どもの村の実践は、マニュアルではなく、深い洞察と実践に基づいた哲学のようなものを感じます。日々の教育活動の中で、試行錯誤しているところですが、今回は何か本質のようなものを感じられた講座でした。