毎日連載する小説「青のかなた」 第56回
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「もしかして、今日はルンビン?」
テーブルの上に並ぶ惣菜を見た風花の目が、パッと輝いた。
「やった! 私、これ大好き!」
「風花さんも食べたことあるの?」
風花は「あるよー」と、ちょっと沖縄訛りを感じる言い方だった。
「スーがパラオに来たばかりの頃、作ってくれたんだ。懐かしいな」
「そう。あの頃、僕はまだこれほど日本語が話せないから、風花も僕も英語で話していたけど、ルンビンを食べて一緒にレッドルースターを飲んだら、すぐ仲良しになれたね~」
潤餅(ルンビン)は、日本でいうおかずクレープのようなものだった。小麦粉や片栗粉などを混ぜた生地を薄く焼き、そこに温野菜や豚の角煮などの惣菜をのせて、くるっと巻いて食べる。
食卓についているみんなは、それぞれ自分の好きなものを生地にのせて巻いていった。光は「はじめてだから、僕がやってあげるよー」と、思南が巻いてくれたものを食べた。
「おいしい……!」
一口かぶりついて、光は思わず声を上げた。温野菜が入っているかと思えば、生のまま刻んだパクチー。スパイスの効いた角煮に、粉状になるまで細かく砕いたピーナッツ。あちこちの方向を向いているように見える食材が、生地に包まれることでギュッと一体になり、お互いになくてはならない存在になる。
素朴な食材しか使っていないけれど、パクチーや角煮に入っているスターアニスの香りが、台湾のあの熱気をしっかりと思い出させてくれた。いくらでも食べられてしまいそうだ。
「うん。これは本当においしいね」光の隣にいるレイも言った。
「大量の野菜もぺろっと食べられるのが、すごくいいよ」
「よかったー。台湾では、潤餅を朝ごはんに食べるよ。あと、毎年来る、チンミンジエにも食べる」
「チンミンジエ?」
「なんていうのかな、えーと」
思南はキッチンからメモ帳を持ってきて、そこに何か書いてみんなに見せた。
――清明節。
「シーミーね!」風花が声を上げた。
「台湾にもシーミーがあるんだねえ」
清明(シーミー)は、内地で言うお盆のような日だ。毎年、春分から二週間ほど過ぎた時期に訪れる。沖縄では、親族が集まってお墓の掃除をしたり、ウサンミという重箱料理をお供えしたりするのが習わしになっている。毎年、シーミーが近くなると県内のスーパーではそのためのお菓子や惣菜が店頭にずらりと並ぶのだった。
「清明節はご先祖さまに心を尽くす日」
思南が言った。
「台湾もカクカゾク? のおうちが増えてしまったけど、清明節はファミリーがみんなで集まってお墓に行くよ。そうして、みんなで潤餅を食べる。潤餅のいいところは、野菜がたーくさん食べられるところ。そして、みんなで一緒にくるくるして、楽しく食べられるところ」