Kumitaliaの誕生
noteにはじめて文章を書いたのは2020年のはじまりだった。年末のマヨルカ島への旅行から帰ってきて、なんとなく悶々と書き出したのだ。いろんな思いが交錯していた。気持ちが纏められなかった。理由のない焦りが私を支配していた。幸せな生活の中に何が足りないのかと。
そして、コロナがやってきた。
いきなりの非日常のはじまり。イタリアはヨーロッパで一番にロックダウンとなり、家に閉じ込められた。私はミラノの旅行会社に勤めているが、中心地にある支店はすぐに一時閉店となり、全員在宅勤務となった。一時的かと思った大騒ぎが三か月を過ぎたころ、仕事量は激減していた。幸運にも会社の手厚い手当てと政府の援助のおかげで気持ちは落ち着いていた。何が変わったか。いきなり時間ができた。2020年のはじまりに書いた言葉に向き合おうと思った。書いた言葉を振り返る。
人に与えられるものを見つけ出す旅をはじめよう。
6月後半の月食の夜 @kumitalia というイタリア語の言い回しを紹介するインスタグラムのアカウントを作った。イタリア語の言い回しを毎日ひとつずつ紹介していくと決めた。実は何年も前からやってみたかったのにずっと自分の中で蓋をしていたのだ。
ほんの数日で、私は電気ショックにかかったような気持ちだった。私はこんなにもイタリア語を愛していた。ポストを投稿するのが楽しくて仕方なくなったのだ。泉から水が湧き出てくるように、紹介したい言い回しや語彙が出てくる。楽しいイタリア語を伝えたい、20年住んでいるイタリアを現地の目線で伝えたい。あれも、これも。それから、あの経験も!ああ、この言葉は、フィレンツェの雨の日に彼女が言ったんだったなあとか、あの言い回しはあのシチュエーションで私がこう言って、彼がこう答えたんだなあとか、20年の日々の風景が言葉と一緒に頭の中で円を描くように廻り出したのだ。
情熱。
人に与えられる物を探す前に必要だったのは、自分の情熱を探すことだった。
私の生活に足りないものは情熱だった。ヒントはずっと与えられていたのに、ずっと独りで目隠しして相撲を取っていた。これに気づいた時にふと腑に落ちた事がある。
イタリアに来て20年、フィレンツェ大学のコースを修了して、ミラノで現地就職をした。自分ひとりだけの力で正社員の座を手に入れ、ビジネスの場でのイタリア語もひとりだけで頑張った、聞くのも書くのも話すのも。旅行予約企画、添乗、モーダの買い付けオフィス、貿易事務、商談同時通訳、通販会社のリサーチ業務、企業の市場調査など、数ある仕事に恵まれた。経験が増える事が自信になっていった。でも誰もが知っているように、語学の学習に終わりはないし、ネイティブのようには一生なれない。何かの拍子に落ち込む事がやってくる。郵便局で邪険に扱われる、大切な書類の内容を勘違いしていたとか、顧客の人にイタリア人に代わってと言われるとか、対等な大人として扱ってもらえないとか。そして夫婦の間でも、何かの拍子にイタリア語について指摘されると、私はいつもワナワナとして涙が出そうになっていた。本当に泣くこともあった。外人なのに、だ。悔しい、悔しい、悔しい。
説明できないくらい悔しい事の裏には情熱が隠されていた。
その出来事自体にはもちろんだけど、私の場合その裏にイタリア語というキーワードがあったのだ。在イタリア16年にして、イタリア語の試験を受けたのも、悔しさを和らげるためだと思っていた。もう一度勉強して自分を慰めなければ。でも実際は2017年のCils C1レベルの合格は私の情熱が欲していたものだったのだ。この勉強、一生続けないといけないんだなあ。ちょっとトホホともなるけど、情熱だからね、仕方ないね。楽しいだけが情熱じゃない。
ちょっと話はずれるのだが、この時実は、同時にイタ検の1級を受けたのだけど、こちらは8点足りずに落とされた。この検定内容の違いはまた改めて書きたいと思うのだけれど、個人的にはCilsはイタリア語の実用的な力を見るもので、イタ検はテスト力を見るもののような気がする。イタ検のヒアリングは現地に住んでる人にはかなり容易だと思うけど、文法問題は難しいトリックが仕掛けてあるように思う。でもおそらく在日本の人にとってはイタ検のほうがとっつきやすい。Cilsはイタリアでのサバイバル力を試されるからだ。試験の中で、イタリア生活の中で誰もが体験する、クレームを上げるだとか、仕事のやり取りや面接に行くという能力を重視していて、答えは一つじゃないのと同時にあなたはどうやってその問題を解決しますか?という所を見られる。実際、移民の語学力を見る試験としても使われるし、ヨーロッパ中で統一された基準がある。このあたり、試験を作ったお国柄が出て面白い。でもやっぱりイタ検の1級も合格したかったし、落とされた私がとやかく言える権利もないのだけど。
話戻って、こんな風に @kumitalia は誕生した。情熱と情熱は惹きつけ合う。フォローしてくださる皆様はみなイタリアが大好きな情熱を持つ人達だ。その情熱の循環が楽しくて仕方ない。明日からこのnoteにも情熱の一端を綴っていきたいと思う。やっと見つけたから、もうぶれないように。
友人に勧められて、神様と顧問契約を結ぶ方法 yujiさんの本を読んだ。自分がやるべき事は神様から既に委託されている、そして常に、「自分が」でなく「自分を」と考えて行動すると良いという言葉に感銘した。「自分を」どう使ってもらえるか、自分のために、周りの人のために、社会のために、地球のために。エゴばかりが前にでてしまう自分への反省を込めて、「自分を」使ってもらって、人が幸せになる、環境が良くなるって考えるだけで嬉しくなってくる。委託されてることが何かに気づけて本当に良かった。
明日からはイタリア、イタリア語を中心に書いていきます。