「ハットリくん」が教えてくれたこと
2022年 4月 7日に、漫画家の藤子・A・不二雄こと安孫子素雄氏が亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。氏の代表作の一つである「忍者ハットリくん」は、1981年にTVアニメ化され、2004年にはSMAPの香取慎吾氏が主演の劇場映画が公開されています。実はそれらの前に、白黒のTVドラマが(1966年:東映京都テレビプロ:全26話)放送されていたのです。続編として「忍者ハットリくん+忍者怪獣ジッポウ」(1967年:東映東京テレビプロ:全26話)も制作され(今でいう「シーズン2」ですね)TVドラマとしては「大成功」の部類に入ります。この二作でメガホンを取られた島津昇一監督の回想録が、「宇宙船」という雑誌に寄稿されました。80年代の話です。
ハットリくんが二階の屋根から飛び降りるシーンは、ポーズをつけたハットリくんの写真を切り抜き、大きく引き伸ばした家の写真を背景として、少しづつ動かしながら一コマづつキャメラのシャッターを押す「アニメ撮り」の技法で撮影されました。忍者怪獣ジッポウがカンシャクを起こして自動車をひっくり返す場面では、まず35㎜フィルムを使う映画用キャメラで着ぐるみのジッポウの芝居を撮影し、その動きを一コマづつ印画紙に焼き付けて写真に起こします。(フィルムのサイズが同じだから、写真用の機材が流用できるのです)
さぁ、面白くなってきましたよ。「島津流」の演出を熟知したスタッフは、次にミニカー(トミカなんかないから、ブリキ製の結構大きな玩具と思われます)を少しづつ動かしながら、色々な角度で何十枚も写真に撮ります。ミカン箱を机代わりに(段ボールが普及していなかった時代は木製の箱が便利に使われていました)総出で写真を切り抜き、ジッポウの動きに合わせて重ね、16㎜のTV用キャメラで一コマづつ撮影して「動画に戻す」のです。
このようにして完成した映像について、島津監督は次のように語ります。 「その部分だけ見るとギクシャクしていかにもぎこちない。そこで全体の調子を整えるため、他のシーンでも「コマ落とし」(いわゆる早送り)のチャカチャカした動きを多用することにした。結果として、アニメとは違う意味で漫画的な表現ができたと思う」 当時、8㎜フィルムで自主映画を撮っていた特撮小僧の私に、この言葉はガツンときました。映像作品には様々なジャンルがあります。明るい作品、暗い作品、カッコいい作品、怖い作品、どうすれば「そういう風」に撮れるのだろう。「全体の調子」とは何か。それを「整える」とはどういうことか。深く考えずに脚本を書いてキャメラを回していた私にとって、映画ゴッコが「遊び」ではなく、自分にとっての「創作活動」なのだと考えるキッカケになったのです。
回想録では、島津監督が手がけた高倉健主演の戦争映画「殴り込み艦隊(1960年)」の裏話にも触れらていました。 特撮シーンの試写を見た監督は 「どうにもスッキリしない」 という印象を受けたそうです。 「海の波がザブーン、ザブーン、と来るところを、ザブーン、ザッみたいなタイミングで切っている。どうも特撮班が『これ以上見せるとミニチュアだとバレてしまう』と判断して、勝手に編集してしまったらしい。 『切るのはコッチでやるから、とにかく全部見せろ』と、私は言った」 大切なのは「ミニチュアを本物と見間違えること」ではなく、「人間の生理的なリズムに合わせてカットを繋いだ方が、観客が映画の中にスッと入っていける」ということなのです。近年では技術が進歩して本物そっくりのCGが作れるようになりましたが、「見るのは人間だ」というところは何も変わっていないような気がします。
現在、「忍者ハットリくん」は一部を除いてフィルムが現存せず、(ネガはあるという噂)「忍者ハットリくん+忍者怪獣ジッポウ」のみが全話DVD化されています。これを投稿したらちょっと探してみようかな。若い頃の小林稔侍(!)が出演している「海賊あらわれるでござる」の巻なんかおススメですよ。ではまた。
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