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蛇足1 『すべての、白いものたちの』

 何年も過ぎた後、生命—再生—復活を意味するその花咲く木の下を通り過ぎながら、彼女は思った。あのとき自分たちはなぜ、白木蓮を選んだのだろう?白い花は生命につながっている?それとも死?インド・ヨーロッパ語では、空白blankと白blanc、黒blackと炎flameはみな同じ語源を持つということを、彼女は読んだ。闇を抱いて燃え上がる、がらんどうの、白い、炎たち——三月につかのま咲いて散る二本の白木蓮は、それなのだろうか?

ハン・ガン 著 斎藤真理子 訳 『すべての、白いものたちの』 河出文庫 99頁 「白木蓮」

blancとblackは同じ語源であるとのことだが、英語(ゲルマン語系)のblackの語源がフランス語(ラテン語系)のblancだという。語源としては「色がない」ということで、ないことを白で表現するか黒で表現するかという違いだそうだ。

見出しの写真は佐賀県小城市にある須賀神社だ。撮影したのは2015年12月3日。国立民族学博物館友の会の学習会で甘味の日本伝来を考えるという企画があり、主に佐賀県内を巡った時のものである。この写真を撮影している立ち位置に村岡羊羹本舗があり、代表取締役の村岡安廣さんが同会での案内役だった。この風景は『男はつらいよ』の第42作『ぼくの伯父さん』のラストシーンに登場するので、そちらで記憶されている人もいるかもしれない。羊羹や寅さんもいいが、小城といえば「ブラックモンブラン」も欠かせない。

竹下製菓株式会社のウエッブサイトより

似たようなアイスは全国区のメーカーからも発売されているので、このアイスそのものに特段の何かがあるわけではないが、やはりネーミングが印象的だ。「ブラック」な「モンブラン」って、と思うではないか。黒なのか白なのか、ってツッコミたくなるではないか。その名の由来については製造者である竹下製菓のウエッブサイトに詳しいが、要するに時の社長の思いつきらしい。

3代目社長であった竹下小太郎がアルプス山脈の最高峰「モンブラン山」を目の前に眺めたときに感じた、
「この真っ白い雪山にチョコレートをかけて食べたらさぞ美味しいだろう」との思いを、佐賀に戻って商品化したものが「ブラックモンブラン」です。
「モンブラン山のように、アイスクリーム界の最高峰を目指すぞ!」という想いを込めて、アイスクリームの名称にも取り入れたそうです。

竹下製菓株式会社のウエッブサイト

しかし、実は、竹下小太郎はblackとblancが同根であることを知っていて、blackなblancという哲学的普遍性を想い、自社製品、いや、自社そのもの、自社と顧客の全て、ひょっとしたら人類全体の限りない展開を願って名付けた、かもしれないではないか。そう考えると、なんだか楽しい。やっぱりちょっと笑ってしまうのだけれど。

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熊本熊
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