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たまに短歌 はるまげどん

縁側の蚊遣の先にはるまげどん
誰かと囲む食後のスイカ

えんがわの かやりのさきの はるまげどん
だれかとかこむ しょくごのすいか

株式相場の暴落暴騰の後は大地震で、南海トラフがどうとかこうとか不穏な様子になってきた。地球内部でマントルが対流し、地殻プレートがそこに浮くように乗っかって移動している。日本列島は複数のプレートの辺縁にある陸地で構成されている。じっとしていられるはずはない。相場だって動かなければ機能しない。値上がりしたり値下がりしたり、動きがあればこそ、市場として機能する。自分の思惑に合わないと「暴落」とか「暴騰」などと、それが正常ではないかのような物言いをするが、スケベ心満々の市場参加者が取引の当事者なのだから、ちょっとしたことがきっかけで相場が暴走するのは当然と言えば当然だ。昨日と同じ今日はないし、その先に何が起こるかなんてわかるはずがない。相場も地震もそれ以外の変化も、そこで自分ができることをするより他にどうすることもできない。

noteを開くと「今日のあなたに」というコーナーがある。そこにテレビドラマ『すいか』のことを書いた記事が上がっていた。まだ家にテレビがある暮らしをしていた頃、毎週欠かさず観ていた。

2003年の夏の番組だ。私は気に入っていたが、視聴率は低かったのだそうだ。このドラマの舞台は三軒茶屋の下宿屋だ。賄い付きで、食事は食堂でいただくようになっている。たぶん、風呂とトイレも共同だ。そういうところで下宿人たちが互いの領域を尊重し合う一方、一つ屋根の下で暮らす者どうしの緩やかな連帯感が感じられる、という現実にはありえないような絶妙の人間関係の距離感が観ていて心地良かった。

このドラマの主人公が中学生の頃にハルマゲドンの話を聞くというところから物語が始まったらしい。そのあたりの記憶は無いのだが、森野しゑにさんのnoteによると、そうらしいのだ。はるまげどん、何か丼物か、と思うじゃないか。

春巻丼
厚揚丼
丸髷丼
丸投げ丼
春曲丼
………

一体どんな丼なんだか。しかし、ドラマの主人公は「ハルマゲドン」の何たるかを理解していたらしい。身構えていた1999年7月の「ハルマゲドン」は何事も無く、2003年の日常からドラマは始まる。主人公にハルマゲドンを語った双子の小学生の片割れが、このドラマの舞台となる下宿で暮らしていて、たまたまその下宿にやって来た主人公と再会する。しかし、ハルマゲドン自体は物語とはあまり関係が無い。それどころか呑気な雰囲気だ。尤も、登場人物はそれぞれに危機感を抱えていて、内心は呑気どころではない。何事か切羽詰まった人が他人からは「呑気でいいねぇ」と見えるところにリアリティがある、気がする。

20年以上も前のことなのに、記憶に残る場面がいくつもある。このドラマのことに限らず、忘れてしまっていいことなのに記憶にいつまでも留まっていることなんていうのはたくさんあって、たぶん、人というのはそういう何でもないことの塊だ。

ドラマのほうは、主人公が勤務している信用金庫で、主人公と親しい同僚が3億円を横領して逃亡する。それでもたまに主人公のもとへ連絡がある。ステーキ用の上等の牛肉が下宿近くの掃溜めに置かれていたり、一緒に行こうと航空券が送られてきたり。牛肉は下宿の食材に供されるが、高飛びには付き合わない。当たり前の判断と言ってしまえば身も蓋もないが、そういう節度は生きる上で大事なことだ。

3億円を横領した同僚は、それを使い果たしたらしい。使ってみて、そんなもので人生は変わらないと悟ったらしい。カネがなければ暮らしは立たないが、カネがあるというだけでは生きてはいけない。当たり前だ。

『すいか』というタイトルは西瓜を食べるスタイルに因んでいるのではないかと思う。西瓜は、たとえ小玉であっても、適当な大きさに切り分けて大皿に盛り、それを囲んで複数の人が食べるものである、気がする。もちろん、文化によっては一人一個というところもある。しかし、ここでは下宿の人間関係を象徴するものとして、みんなで「すいか」を囲む風景が想定されているのではないかと思うのである。尤も、個人の断片化が進行する現代にあって、西瓜を囲んでどうこうということが世の中で風化しつつある。わずか20年ばかりで、社会というものはずいぶん変わるものだ。

3億円といえば、「3億円事件」というのがあった。1968年12月10日、そぼ降る雨の朝、東芝府中工場の社員に支給するボーナス約3億円を積んだ日本信託銀行の行員が運転する日産セドリックが府中刑務所近くの道路上で白バイ警官に扮した人物に止められ、「ダイナマイトが仕掛けられているとの通報がありました。危険ですからすぐに降りてください」と言われて行員が車を降りたところ、その白バイ警官が車に乗って走り去ってしまったという事件だ。行員たちは「勇気のあるお巡りさんだなぁ」と雨の中で走り去る車を眺めて感心したらしい。その3億円事件は1975年12月10日に時効が成立したが、その前日、中学生だった私の学級で、朝、黒板に大きな文字でこう書かれていた。

3億円事件明日時効。熊本熊どう出るか!

当時、私は3億円事件の犯人のモンタージュ写真に似ていると言われていた。事件発生の時、私は6歳だったので犯人であるはずはないということは、念の為、指摘しておきたい。

出所:時事通信社

見出しの写真は、ニチレイフーズの商品情報サイトにある「パリパリの春巻き」にあるもの。おいしいよ。食べたことないけどね。

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熊本熊
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