静かな街
「短歌入門」の最終回第5回目の課題は2020年3月末に投函。コロナがいよいよ大騒ぎになっていた。詠んだのはいずれも身近なことばかり。
コロナ禍で心も勝手に自粛して歌が浮かばぬ週末の夜
コロナ禍の街に燕やって来て妙に静かな青空を舞う
春の雪行手遮るその先もコロナ禍の中押し黙る街
今のほうが感染者数ははるかに多いのだが、これらの歌を詠んだ頃のほうが世間の緊張感は強かった。どれも説明はいらないだろう。燕については少し説明が要るかもしれない。
私が暮らしているのは東京都下で、緑が多かったり、多摩川やその支流が近い所為か、鳥が多い。鳥といってもカラス、鳩、雀、だけではなく、アジサシ、オナガ、そして極め付けがカワセミだ。そして、たまに鳩などを駆除する目的で鷹匠がやって来る。カワセミは警戒心が強い上に動きが俊敏なので、なかなかじっくり眺める機会には恵まれないが、「あっ」ということはちょいちょいある。綺麗な鳥だ。オナガも綺麗な鳥だが、鳴き声がもう少しなんとかならないものかと思う。稀にどこかから逃げてきたのか、放されたのか、インコがやって来ることがある。その時の他の鳥たちの騒ぎようが凄い。たくさんの鳥が互いを意識しているのかいないのか、普段は何事もないかのよう行ったり来たりしてるのに、そこにインコがやってくるとその周りから遠ざかるのである。それも大騒ぎをしながら。インコは堂々たるものだが、鳥の世界では反社系なのかもしれない。
それで燕だが、春先にやってきて、営巣して卵を産んで、子育てをしてどこかへ飛び去るのである。よく見かけるのは、最寄駅の近くのマンションの1階の軒に営巣しする一組の番なのだが、さらに郊外へ向かって少し歩いたところにある大型スーパーの近所は燕だらけになる。昔、東海道本線を「つばめ」という特急列車が走っていたが、燕の飛ぶ姿はカッコが良い。流線型という言葉は燕のためにあるのではないかと思うくらい、速く、美しく、飛ぶ。
今年は下界の人間のほうはコロナで例年にもまして右往左往していたが、燕たちにはそんな下界の変化に気がついただろうか。外出自粛で静かになった街に、今年も燕たちがやってきて、賑やかに過ごしてここで生まれた子供たちを引き連れてどこかへ飛び去っていった。
添削後はこうなった。
コロナ禍で心も勝手に自粛して歌が浮かばずきのうも今日も
コロナ禍の街に燕飛来して妙に静かな青空を行き交う
春の雪視界遮り降りつづくコロナ禍の中押し黙る街に
今回は奈賀美和子先生。