月例落選 俳句編 2023年1月号
角川『俳句』に投函したのは9月29日。今年も10月に奈良へ出かけたが、その直前のことである。
題詠のお題は「朱」。「朱」という文字を見て思い浮かぶのは赤い色だ。例えば、朱肉、朱印、朱鷺の顔、寺社などの古い建物の外装。「朱に交われば赤くなる」という諺もある。今回は奈良へ出かける直前だったので朱雀門、それから、家人の実家が新潟なので朱鷺で詠んだ。
名月や趣味の再建朱雀門
朱鷺が鳴く運動会の声がして
平城京跡で平城宮内の歴史的建築物の再建がコツコツと続いている。朱雀門、大極殿、南門が姿を現し、それらを囲んで更地になっているところを見ると朱雀門は近鉄の線路のすぐ傍だ。線路は平城宮内、南門と朱雀門の間を横切る形になっている。これを朱雀門の南側に移設することになったらしい。ガクモンの方では平城宮を再現することに何か意味があるのだろうが、圧倒的大多数の下々にとっては、それがどうした、という感じのように見えなくもない。
朱鷺は周知の通り絶滅危惧種だ。種保存のために佐渡にいた数羽を捕獲して飼育に努め、中国から保存増殖事業で贈られた個体で人工増殖が成功し、なんとか放鳥個体が存在できるようにはなった。9月の終わり頃、運動会の歓声が響くところで朱鷺も鳴いていたら面白かろうと思った。
団栗に足を取られて五十肩
タワマンが夜空に伸びる秋彼岸
虫の音やスマホ片手に文句言い
40代でいわゆる「五十肩」を二度経験した。40代だから「四十肩」なのだろうが、世間では「五十肩」の方で通っているような気がするのと、どちらでも構わない類の話なので「五十肩」とした。あれは突然襲ってくる。何がきっかけになるかわからないようなことで突然来る。9月の終わり、住まいがある団地内の路上に団栗が散らばる頃、それに足を取られてバランスを崩した弾みに、なんてこともあるかもしれない。幸い、今年はそういうことはなかった。
住まいのベランダから近所のタワマンが見える。都心に林立するのと違って、郊外に唐突に立っている。文字通り突っ立っている感じだ。それが夜になると大地から空に向かう光の柱のように見える。この世とあの世を繋いでいるかのようだ。
住まいの周りの薮では盆を過ぎた辺りから彼岸過ぎくらいまで虫の音が賑やかだ。近頃は誰もが携帯端末を手にするようになって、世間に文句ばかりが賑やかに溢れるようになった。なんとなく、秋の虫の音に似ている気がした。
先月届いた『角川俳句』に定期購読継続の案内が入っていたが、継続はしないことにした。