書評「医療現場の行動経済学 −すれ違う医者と患者−」
「行動経済学」を耳にしたことがない医療関係者は少なくないと思われる。経済学(例えば投資戦略)の話はハードルが高く感じられる読者でも、医療現場で頻繁に経験する意思決定を主要なテーマとしている本書は、手に取りやすい。
本書は一貫して医療現場の意思決定について論じている。
医療現場での意思決定の支援は、パターナリズムやインフォームド・コンセントに代わって、シェアード・ディシジョン・メイキングが推奨されるようになってきている。
人間は適切な医療情報が与えられれば合理的な意思決定ができるのか?インフォームド・コンセントはそのような人間像を前提としているが、人はさまざまな認知バイアスによって不合理な意思決定をしてしまう。
本書の第1部では、そのような認知バイアスを医療現場での具体例で説明している。
第2部・第3部では、より現場に即したテーマを論じており、「どうすればがん検診の受診率を上げられるのか」「どうすれば高齢者に適切な意思決定支援ができるのか」は、リハビリテーションと関連が深い。
例えば、がん検診を受けることによる利得は遅れて発生するために、それに先立って発生する損失が大きく認識されてしまう。これは「がん検診」を「自主トレーニング」に読み替えても成り立つ。自主トレーニングが実行されない原因のひとつはここにあるのではないか。
本書ではリハビリテーションに関する記述はないが、今後リハビリテーションの分野でも行動経済学の重要性が広く認識されることを願いたい。
大竹文雄 平井啓 編著(2018年)