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「#旅のようなお出かけ」企画に参加してくれた、三木和彦さんの「五千キロ向こうの瞳」を読んだ感想。
私が元々小説を書こうと思った理由のひとつとして、縁が合って東南アジアの諸国に旅をする機会が多いことがありました。しかしその情報をそのまま発信したとしても、所詮は短期の滞在者(旅行者)にすぎません。だからその地に住んでいる在住者の情報と比べればうわべだけの知識です。そこで小説と東南アジアのことを融合させたら面白いと思ったのがそもそもの始まり。そしてそのまま小説の世界にハマってしまい、今では別に東南アジア無関係のいろんな小説を書いています。
第7弾の三木和彦さんは、そんな現地在住の方のひとり。インドネシアの北スマトラ州メダンに在住されている方で、いつも送られている現地の写真を楽しみに拝見していました。その方がまさかの企画参加。インドネシアの雰囲気満載の物語を用意してくれました。
この小説は正しく「2020年」を象徴するようなストーリーということもあり、より臨場感がありました。
1、距離をさらに遠くした存在
この小説はタイトルに「5000キロ」とあるように、距離がテーマ。遠く離れた男女の物語です。もともと日本国内の東京に住んでいた主人公の時男。その際に出会った、運命の女性みどりは神戸在住者です。
これでも距離があるものの、まだ日本国内ならその気になれば、新幹線や飛行機を使ってでもとなります。ところが、時男がインドネシアのスマトラ島メダンに転勤となってしまいました。その距離5000キロ。
とはいえ、これが2019年以前であればまだ気持ちの上での余地があります。飛行機で海外に気軽に行ける時代。もし2020年も2019年以前の延長線上だったと思っていましたから、デートの場所を同じインドネシアのバリ島に照準を合わせます。神戸のみどりは、バリ島で時男と会えると楽しみにしていました。ところがそこ矢先、例の567が広まってしまったのです。
最悪日本国内の遠距離恋愛であれば、本当は良くないけれど、こっそりと会うことはできたでしょう。しかし国外は物理的に遮断。最近ようやく一部の国同士ではビジネスマンが渡航をする姿があります。しかしデート観光はまだまだ先の話。出口が見えない現状に、みどりは打ちひしがれます。そして時男もまた、ある決意をバリ島に向けて考えていただけに、そのショックは計り知れません。
2、ビデオレターを使った疑似旅行
とはいえ、ときは21世紀。物理的な移動が出来なくとも、論理的な移動は可能です。つまりネットでのやり取り。幸いなことにZOOMなど相手の顔を見ながらのやり取りも、容易にできるようになりました。オンライン飲み会なども流行りましたが、ここで落ち込んだみどりを励まそうと時男は、ビデオレターを使って疑似トリップを敢行します。
そこでは現地の焼き飯「ナシゴレン」の臨場感あふれる映像を流して、それを疑似的に食事をしてもらいます。実際に食べられるわけでは無いけれど臨場感あふれるスマトラ島メダンの空気が伝われば、時男は現地の人と相談をしながら必死。それに感銘を受けたみどりも、また神戸での臨場感あふれる映像を時男に流します。ここで登場したのは神戸の名物「そばめし」。どちらがおいしいとかでなく、お互いそれを見ながら想像で味覚を楽しむ。リアルに限りなく近づいた旅行が始まりました。
3、リアルでないが故の葛藤
ところがここで大きな問題が発展します。ある日みどりが送ってきたビデオレターには見知らぬ男の姿が。ふたりっきり出会っているわけではないものの、楽しくパーティをしています。ここで時男はショック。リアルで会えないが故の出来事なのかと、通信を遮断します。その後のやり取りでもお互い少し壁の様なものが出来てきました。「愛さえあればどんな距離でもと思っていたのに、やはり近くの異性なのか」時男の葛藤が始まりました。
4、スマトラでの日々に春は訪れるのか
そんな悶々とした日々を過ごしたとき、中途半端で終わっていた疑似旅行もいったんストップします。その後緑からのビデオレター。ここでいつもとは違うみどりの姿があります。例の男もいましたがすぐに退散。ここでお互いは真剣に向かい合い、インドネシア語も交えての会話。そして感動のクライマックスへと続きます。そして最後の瞬間はあえて筆を進めずにストップ。あとは読者が余韻と共に想像で結末を感じ取れるようになっています。あたかもアジア映画を見ているかのようなラストシーン。しばらくの間、ほど良い余韻が楽しめました。
5、もし私がこの小説書いたら?
そうですね。私が書くとすれば、恐らくはスマトラ島メダンの料理のことを付け加えたいです。ナシゴレンが登場しますが、あれはインドネシア全体でマレーシアにもある料理。バリ島のヒンドゥではなく、スマトラはイスラム地域ということで、御祈りのアザーンのこととか、イスラム寺院のシーンは出てきます。でもこれはジャカルタのジャワ島にもあると思われるので、スマトラ・メダン独自という意味では少し弱く感じました。
そこで「メダンの料理」のローカル食堂か屋台を出してみたい。例えば、後半のみどりに男がまとわりついているあたりで葛藤する時男。ある日仕事の帰りにメダン料理を注文して待っていると、なぜかそこに「みどり」の姿がある。目をこすると実は似た現地の人。あるいはみどりが例の男と仲良く食事をしているシーンが見えたので、時男が大声で叫ぶとそれが夢だった。そんなのを加えてしまいそうです。
まとめ
距離という問題を「ビデオレター」を通じて旅するふたり。本来ならリアルでインドネシアの空気、バリ島の空気を感じながら楽しい日々を少しでも味わいたい。苦肉の策でも楽しめるという知恵の様なものを感じました。記述には明確に出てきませんが、このふたりは恐らく結ばれるのではと私は想像します。来年か再来年かわかりませんが、ふたりが仲良くバリ島、もしくはスマトラ島メダンの地で地元の人に囲まれながらローカルな街歩きを楽しんでいる。あるいは職場でもあるコーヒー畑を見学しているかも。アジア映画のエンドロールに流れる映像のごとく、そんな想像を書きたてられながら楽しませていただきました。
※事前エントリ不要! 飛び入りも歓迎します。
10月10日までまだまだ募集しております。(優劣決めませんので、小説を書いたことが無い人もぜひ)
#旅のようなお出かけ #感想 #三木和彦さん #五千キロ向こうの瞳 #読書感想文
※おまけ
毎週ひとつは表示されるのですが、今回は3つも来ました。いったい何があったんでしょうか?
その上これは初めて。ようやく私の小説もnoteで読んでくれる人が増えたということですね。もっと頑張っていろいろ書いていきたいです。