「#旅のようなお出かけ」企画に参加してくれた、南葦 ミト さんの「歩いて初めて見えるもの」を読んだ感想。
今回の企画を通じていろいろ反省すべき点もありました。そのひとつがどうも「旅・お出かけ」をテーマにした小説というのは、想像以上に難しいものだったようです。
私は好きな旅をして、そこで撮影した写真を見て適当に想像力が浮かんで前後に得たもの。それを適当につなぐと自然にストーリーができてしまうので、そんなに難しいイメージがなかったのです。
だから「そういうものか」といろいろ考えさされられました。どうしても他人のすべてがわかるわけではありませんから、この辺りは企画を建てる側としては難しいと思った次第です。
ということで、三十三弾目になりますが、小説にしようとしたけれど期限までに間に合わなかったという南葦ミト さんのこちらの作品。伝えたいことは伝わる「半小説」のような物語です。
1.移動そのものを楽しむのも悪くない
引っ越しがきっかけで気づいたというのが今回のテーマ。旅にせよお出かけにせよ、必要不可欠な移動にせよ、移動先の目的地である行為を行うために移動するから、短縮することが大切。確かにその通りですね。
深夜バスのように格安というというのもあるとはいえ、基本は早いほうがいい。例えば海外でも韓国あたりだと船でも行けますが、それよりは飛行機で行くほうが早くて便利ということです。
ところがあることがきっかけで移動という行為を楽しむことに目覚めたのです。それは引っ越し。それも遠くではなく同じ自治体内の移動でした。
2.市街地から離れる
今まで歩いていた場所に車で行くのは負けた気がするという意味不明な意地
意味深な言葉ですが、要するに歩いて移動することへの心がけを書かれています。ガソリン代の問題も、もちろん含まれています。ここで具体的に、それまでと新しい場所とを比較した際の移動の差が書かれています。おおむね倍かかる場所のようですが、郵便局に関しては5倍の所要時間になるとのこと。事情があるにせよ正直うんざりするのがわかります。
3.徒歩という贅沢
ここからがエピソードの本番で、住民票を取りに行った時の話。ベビーカーに乗った娘との徒歩でのお出かけです。歩けますが安全性を考慮してのことでした。速度制限がある道なのに、ここでそれを順守する人などいない。
それを気にしながら見ていると、テント屋、大手企業の借地、半世紀を過ぎたと思われる家が並んでいます。沈丁花の咲くおうちでは、香りが感じられました。
さらには地域の集会所のことや小さな公園など、初めて知ったものばかり。徒歩をしたからこそ知りえた世界が広がっていたのでした。
4.もしこの作品を私が書いてみたら
これは小説になりえなかった作品。私みたいに小作品を量産するタイプであれば、あまり深く考えずにさっと作って出してしまいます。
しかし今回の作者である南葦ミト さんは、12万文字の大作を執筆されるような方。実際に読ませていただいたことがあります。
ここのようにコンテストでもなければ賞金も出ないような、緩い企画でも中途半端なものを出したくないという思いが強かったのでしょう。それは創作者それぞれの考えかだから、是非もありません。
でもせっかく企画に参加してくださいました。だからここでは私がこの半小説作品を小説化したらどうなるのかというのを、半ば実験的にやってみることにしました。
※このことで不快な思いをされるかもしれません。もしそうであれば先に謝罪しておきます。
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「今日は楽しかったの。実は片道30分かけて役場まで行ってきたわ」
と、私が戻ってきたばかりの夫に伝えたら、夫は目を大きく開いて驚いた。
「え、役場まで何で歩いたの?車使えば早かったのに。移動時間を短くしたら、できることももっと増えるというのに、本当に物好きだね」
「確かにそれはそう、新幹線とか早いもんね。でも引越ししたからって安易に車を使ったら、ガソリン代もね馬鹿にならないから」と、私がわざと財布からお金を数えるようなそぶりをすると、夫は不機嫌そうに語気を強める。
「お前まだ引越しのこと怒っているのか!これは仕方がなかったんだ。それをしつこく言うなよ。俺だって、駅まで10分で行けたのが20分もかかっているんだ。その分余計に早く起きないといけないし、帰りも疲れてるのに、駅に着いてから歩く必要がある。毎日毎日のようにだな、ひと仕事が増えてんだぞ」
「そんなこと言ったら郵便局だって5倍も遠くになったのに、本当に前住んでたところと同じ自治体なのかしら」と言いかけるも、それを口の中で押し込める。
それは明らかに夫が怒りだしたからだ。これ以上怒らせると面倒になると思った私は両手を出して「まあまあ」と抑えながら話題を変えようとする。「でも本当に歩いたら楽しかったのよ。娘と一緒だったし」
「おい!お前あの道、娘を連れて歩いたのか!もし娘に何かあったらどうするんだ」とまだ怒り口調。私は謝ることで収めることにした。
「ごめんなさい。でも念のためベビーカーを使ったわ。車については平気で飛ばすけど、すれ違いさえ気づいたら大丈夫。それよりも、歩いてたらさ、結構個人でやっているお店屋さんが多いのよ」
「個人経営って。今時個人の店なんか商売成り立つのか」ここでようやく夫のテンションが収まった。
「テント屋さんなんてあったわよ。あと大企業の社宅もあったのね」「へえ、社宅かぁ。それは初耳だ」
「あと小さな公園があったわ」「お、それは良かったな。娘の良い遊び場じゃないか」「いや、ちょっと」私は首を振って否定する。
「何?」「荒れ放題であそこは... ...」
「管理する人もいないのか。仕方がない。ここは田舎だからな」と、夫は腕を組んだ。「で、でもね。この辺りってしっかり町内地図と掲示板もあったのよ。ここ地域のつながりすごいと思うわ」と私は今日のことを堰を切るように話し続ける。
「古い建物があるからこの周辺は、結構古くから住んでいる人が多いのかもね。花の香りもして本当に良かったわ。ナチュラルな香りは下手な香水より絶対にいいと思ったの。そんな建物見てたら、思わず母の実家思い出しちゃった」そういって私は視線を遠くにおいて、実家の風景を思い出した。
「そうか、今年は安易に里帰りもできないからな。落ち着いたらそっちにもゆっくりといかないといけないな」
「うん、でも、もう少し我慢が必要ね。代わりに家の周辺をもっと歩いて楽しむわ。こんな近場なのに知らないことが多かったから。散歩も旅のようなお出かけかもね」
「ハッハハハ!そりゃ安上がりでいいや。でも車にだけは気をつけるんだよ」と、このとき初めて夫が売れそうな表情をした。
「そうだそろそろあの子も歩けるし。そう今度の日曜日3人で散歩しない」と、私が心躍るように目を潤ませながら夫にうたっえかけるが、彼は一瞬目をつぶり横を向く。
「え? 俺も行くの!話聞いただけで疲れそうだな。わかった。前向きに考えとくよ」と言い放つと、夫はそのまま立ち上がってトイレに向かった。
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大変失礼いたしました。
まとめ
最近は座って過ごすことが多いためか、ある程度体を動かすように心がけています。かといって過度なスポーツやジョギングなどは出来ないので、ウォーキングをするようにしています。歩くだけでもスポーツ・運動として成立しますし、またこの主テーマにあるように歩くからこそ見えるものというのは実際にあります。
国内に限らず結構東南アジアに行っても歩くことが多く、安易に乗り物に乗らない旅を良くします。(交渉制の交通手段の相手の場合別の意味での警戒もあるのですが)やっぱり歩くと、見えないものが本当に見えるから不思議なもの。今回の作品は、移動の楽しみ方を改めて教えてくれた気がしました。
第2弾も発売しました。