蚊との格闘 第575話・8.20
「あ、これ、一番いやな奴」夜中に目が覚めた摩耶は、露骨に不快な気持ちになった。
夏の夜になるとすぐに隙間から入ってくる虫たち。夜になれば明かりを求めて接近。しかし大多数の虫は、その存在を視覚的な直感で、不快になる程度に過ぎない。
だが夜眠っている耳元で羽音を立ててくる奴。ある一定の周波数を、羽を起用に動かしながら響かせるメロディ。奴を演奏者として見れば、空間と距離感を前後して上手くメリハリをつける。だから耳との距離で、はっきり聞こえたりわずかに聞こえたりした。そして高すぎず低すぎない音。
だがこの音は多くの人にとってはトラウマだ。なぜならばそれを聞くだけでも、過去の忌々しい思い出がよみがえる。そんな聴覚に嫌な気持ちを十分にもたらすだけでも害虫だ。
だが奴はそれだけではない。それがこの音を最高レベルに不快なものとして人に嫌われる行為。つまりある絶妙なタイミングを狙って人の肌どこかに立ち止まると、自らの針を肌に向かってジワリと突き刺す。
こいつは別格的に不快である。なぜならば針を突き刺して、勝手に人をの血を適量奪い取るだけでなく、その後人に対し『かゆみ』なる副反応を引き起こすのだ。
「もう、うっとうしい奴。こいつ結構素早い。コリャ!」摩耶は必死に手を動かし、耳元にいるであろう奴を追っ払う。だが奴は知能が良いのかどうかわからないが、摩耶が力いっぱい振り続けた手を上手くかわして飛び回る。そして摩耶が油断をしている隙に、特定の肌に止まり、自らの体から針を出して突き刺し、血を奪うのだ。
もちろん、その行為をする間、奴と言えども油断する。意外に注意力がない事があった。針を刺して血を吸いとる為に、全神経を尖らせるからか、明らかに動きが鈍くなる。逆にそのタイミングで平手を素早く投下。こうして一撃で圧死という結果はよくあること。そのような不幸に満たされた蚊は、それまで吸い取った血を体内から大量に放出し、人肌の半径1cm未満を赤く染めて絶命する。
「いやん、やられた」だがこの日は、摩耶が負けた。途中から再度眠りに入ったらしく、その間に血を吸われる。朝、目覚め、肌の特定部位がやけに痒いと思っていたら、その部分が刺されて血を吸われ、イボのように腫れあがっていた。
「これが無ければ夏は最高なのに」摩耶は悔しそうな表情を見せる。そして虫刺されの薬を探し出すと、患部に塗り付けた。
(本文1000文字)
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シリーズ 日々掌編短編小説 575/1000
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