双子で作るチョコレートケーキ
「里美どうしたの?」里美そっくりの双子の片割れ、美里が心配そうに話しかける。
「うーん、こまったなあ」里美は小さなため息を何度もついてうつむき気味。「そんな暗い表情して、何か悩み事があるの?」
「私、昨年のクリスマス前ぎりぎりになって、ようやく彼が出来たでしょ」
「うん、私もほっとしているわ。ひとりで幸せなのを見せてばかりで、悪いなと」
「康友さんのこと? 私から見たら夫婦みたいに息がぴったりだから、全然足元にも及ばないんだけど」「何言ってんの。里美のところも、そのうちそうなるって」
「だといいけど。今度バレンタインデーがあるじゃない。だから彼へのプレゼントどうしようかって」里美は困り果てた声を出すとまたため息。
「あ、何だそんなこと! それならやっぱり手作りが良いって!」正反対に元気な美里。
「え、手作り? 何を」「そりゃあ、やっぱりチョコレートケーキよ」
「え、ケーキって私あまり器用じゃないんだけど」
「わかってるって、同じような顔をしているのに里美は不器用で、私が器用なのくらい。だから一緒に作ってあげる。作り方覚えたら」
たまにある美里の不用意な一言で、いつも里美は一瞬不快を感じる。顔をしかめたが、数秒以内に忘れるのですぐに表情が元に戻った。
「そう? あ、今時間あるわね。じゃあ美里、一緒にチョコレートケーキを作ってくれるのね」美里はゆっくりと頷く。
こうして美里と里美は材料を買いに、近くのスーパーに向かった。
「さて、薄力粉と卵、それからペーキングパウダーもいるわね」
「え! 美里ひょっとして。スポンジ生地も作るの?」「うん、なんで?」
当然のような反応をする美里に里美は慌ててあるものを見せる。
「それはあるものでいいと思ったから、これにしようかと」
あ、カステラ。そうね里美は不慣れだからそれでいいと思うわ。そしたらチョコレートと生クリーム。それと、あとなんだっけ」
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「さて、作るわよ!」やけに張り切る美里。里美は材料を見て腕を組んで難しい顔をしている。「里美、作る前から何悩んでいるの。こんなの大体わかるから、私のを横で見ておいて」
黙って頷く里美。「さてと、スポンジ作る必要がなくなったから、まずチョコレートを砕きましょう」
買ってきたのは市販の安物の板チョコ。それを粉々に壊すことから始める。要するにカステラの上にチョコレートのクリームを塗ろうということであった。
粉々にしたチョコレートをお湯で湯煎をして溶かしていく。料理やお菓子作りも得意という美里は、手際よく材料に手を伸ばしていった。里美は横で呆然と見ているだけ。
「さて次は生クリーム」里美は見ているだけではまずいと思い、慌てて生クリームのパッケージを開ける。「はい、どうぞ」低姿勢で美里に手渡すことくらいしかできない。美里はそれを受け取るとボウルに入れて泡立てていく。その後チョコレートを加えた。
こうして作られたチョコレートクリームをカステラの上に、均等に流し込む。卵色した黄金ボディ、上の部分だけが茶色いカステラは、チョコレートの液を流されると少しずつ色が変わっていった。
「できれば何回かに分けて塗っていったほうが良いわ」美里は独り言をつぶやきながらひとりでチョコレートケーキのコーティングを続ける。
「さ、こんなところかな。あとは」
「あ、これ」里美は慌てて上に添えるための、ブルーベリーやラズベリーを用意した。
こうして完成した双子(というよりほとんどが美里)が作ったオリジナルチョコレートケーキ。さっそく試食タイムに入る。里美が慌てて持ってきたのはオレンジジュース。今日は完全に雑用係だ。
美里はナイフを手に、でケンカにならないように目分量で半分に切った。それぞれの皿に盛りつける。あとはフォークで食べるだけ。
さっそく里美は食べてみた。銀色のフォークの一刺しで分離された一口サイズのケーキの欠片。外側の部分はチョコレートの茶色となっているが、内部になっていくと、カステラに特に何も手を加えていないためか、途中から黄金色が残っている。
「あちゃ、内部が。ちゃんと生地から作ったほうが良かったね」美里はそれを見て納得のいかないため息。
「いいって、どうせ私作れないし」と、静かに言い終えると口を大きく開ける里美。そのまま口の中に含む。
チョコレートコーティングの甘い部分とカステラのスポンジ部分。最初はハレーションを起こしているかのような別々の味。しかし噛んでいけばおのずと交わり、調和のとれた美味しさとなる。
そしてトッピングで同時に口に入ったブルーベリーによる、果実特有のかすかな酸味が、隠し味として発揮。3つの味の相性がばっちりだ。
「うん、美味しい」「自分たちで作ったからね。そうなると割り引かないといけない。でもさ、やっぱり彼からしたら、彼女に手作りで作ってもらえるのは嬉しんじゃない。里美、頑張らないと」里美以上に嬉しそうに笑う美里。
「そしたら康友さんも」「うっ、え、あ、ま、まあね」美里は思わずむせかける。「か、彼はどうなんだろう。反応は薄いけど、多分喜んでいるのかな?」美里は途中から照れ笑いを浮かべて、オレンジジュースを口に含んだ。
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「そう、今日って私たちの日らしいわ」「え、里美何? その私たちの日って。誕生日は5月2日よ!」驚きのあまり美里は目を大きく見開く。「そ、その顔!」里美はそれを見ながら思わず口を開けて笑う。
「いや、じゃなくて今日2月5日は双子の日なんだって」「へえ、誕生日の月と日が逆の日か」
「うん、でもあと12月13日と11月11日もらしいけど」
「いっぱいあるんだね双子の日。だったらちょうど良かったわね。双子の共同作業。本番のバレンタインデーまであと9日。今度はひとりでチョコレートケーキ作るの頑張ってね」美里に励まされてうれしそうな里美。ここで彼女のスマホに彼からのメッセージが着信する。
「あ!」それを見た里美の顔色が変わった。
「どうしたの、彼と何かあった」
「ごめん、美里。悪いけどやっぱ彼にはチョコレート以外の別のもの渡すわ」
「なんで? せっかく一緒に作ったのに」
「じゃなくて」と首を数回横に振る里美。「そうだったのよ。よく考えたら、彼は一流のショコラティエになるために日々研鑽をしていたんだ」「え! ちょっと。ショコラティエって、もっと早く行ってよ」
「ごめん、まだ付きあったばかりで、そのことを考える余裕がなかった。
今送られてきた画像。これ見で彼の職業思い出したの」と言って、彼の作品を美里に見せる里美だった。
こちらの企画に参加してみました。(テーマ:チョコレート)
「画像で創作(2月分)」に、ぺんぎんさんが参加してくださいました
noteではいろんな創作をしたくなる雰囲気がありますが、その背景に迫った内容。夕焼けを眺めつつ、自らの創作につながっている物・存在とは?いろいろと想像力を働かせて読めるエッセイです。ぜひご覧ください。
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シリーズ 日々掌編短編小説 381
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