2021
「そうか、山名宗全(やまなそうぜん)と細川勝元が。ん、 足利義尚(よしひさ)将軍になったのか。あれ、正平地震!」
相模愛美がスマホ片手にひとりでつぶやいている。横にいる根来銀次はそれを見て苛立った。
「おまえさっきから何? わけのわからないこと言ってんだ!」銀次のほうに振り向いた愛美は嬉しそうににこやかな表情。
「え、あ、今年西暦2021年よね」「ああ、今更だが令和3年だな。だから何?」
「それがさ。たとえば仏暦と皇紀と合わせたの」愛美の言葉に銀次の苛立ちがさらに募る。「はあ? 仏暦とか何それ? そんなのやってたの。おまえ、わけわかんないよ」
「いいから聞いてよ!」愛美は真顔になるが、銀次はあきれた笑いを浮かべる。
「それって、歴女のお前に嫌というほど聞いた気がするな。その暦ってつまり神武天皇とか釈迦とかが始まる歴史だろう。今時そんなこと考えうる奴なんて、普通いないだろう」
「そんなことないよ。だって西暦なんてキリストの生誕か何かじゃん。私はもっと日本的なの考えたら皇紀とか仏歴って大事じゃないと思うんだけど」
それを聞いた銀次は苛立ちを超越して不貞腐れる。ついにそれが蓄積されたか? 突然口角を威圧的に尖らせる。
「やっぱわかんねぇな! だって普段生きている生活に関係ねぇよ。それってさ、大事なこととか絶対に思えねえんだけど。いい加減そういうのやめろよ!!」
「銀次君ってほんと、つまらん奴ね」突然愛美が逆襲する。「な、なに、お前そんなこと言うなよ」
「だってさ、歴史って面白いよ。例えばさ、今年仏歴だと2564年なんだ。それを逆算というか、仏歴の2021年がどんな時代とか興味ない?」
「はあ? 知らねえよ。てか、それ知って何になるんだ。 ホント意味わかんねえ」「いいよわからんでも。実は仏歴の2021年って、西暦の1473年なんだ」
「だから、それがどうしたっていうんだ。もういい、その話題やめようぜ」 明らかに嫌がる銀次。だがここまで来ると、愛美の欲求が止まらない。
「わかった。でも5分だけ聞いてね。 この年は室町時代の戦国時代だ。しらべたらすごいことがあることを知ったんだ!」銀次は熱く語る愛美に折れざるを得ない。
「じゃあ、愛美、何知ったの?」
愛美は口元を緩ませる。意味深な視線を銀次に送ると、ことぞとばかりに語り出す。
「応仁の乱って知ってるよね」「ああ、知っている。それくらいわな」
「その乱の首謀者が、西軍・山名宗全、東軍・細川勝元との争いだ」
「おう、それも知ってるぜ。それ10年やったんだっけ」
「そう、でもそれでいったん和睦したんだけど、その首謀者のふたりが同じ年に死んだんだよ。それが1473年。すごくない」
銀次は愛美のペースに見事に巻き込まれた。ただ何度もうなづく。
「あ、それはミステリーっぽいよな。それはある意味すごいと思うよ。でもどうでもいいんだけど。それ知って何になる?」
「何にもならないよ」と、そっけない愛美。
「けど。あと、皇紀。こっちもその2021年調べたの」
「ちっ。わかった。じゃあ。それは何?」銀次は話が終わるのを待つことにした。
「それは、1361年になるんだって。皇紀は紀元前660年だからね」「その、何、神武天皇が生まれた年だっけ」「違う。即位した年ね」
「で、何があったっていうんだ?」
「皇紀の2021年って、西暦1361年で南北朝時代だけど。正平地震があったんだって」
「地震かあ。まあ日本は地震大国だからな」
「その地震が、南海トラフ沿いなんだって」
「南海トラフ... .... 詳しく話知らんが。それってなんとなくやばそうだな」と言って銀次は腕を組む。
「ね、これだけいろんな事件があるの。 2021年てすごくない」
「い、いや全然なんだよな」「何で?」 愛美は銀次に真顔で迫る。
「何でって、今も567という厄介なのがいるだろ。みんなそっちが注目なんだよ。だからそんな室町時代のこと言われても別に。としか言いようがない」
「何それ、銀次ってホントつまんない奴。それって私もつまんない奴と思ってる」愛美は不機嫌に口を膨らませる。
「い、いや、つまんないって。話からはそう思うことはあるのは事実。だけど、その愛美そのものはつまんなくないよ。それってわかよね」
「うんわかる! だから銀次のことが」「そ、そう、だろ。もうそれでいいよ」といいながら、真昼間なのに、突然抱き着くふたりであった。
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おまけですが、次の案内が来ました。
これには驚きました。昨日の作品が、note公式のお気に入りマガジンに選ばれたようです。これはnoteを初めて、今までなかったので驚きました。
そもそもこういうものとは無縁と思っていましたし、さて1000本小説書いてしまうと、どうなるのかなとくらいに思ってたのですが、まさかの358本目で来ましたね。
まあ、いろんな条件が重なった結果だとは思いますが、少なくとも「継続は力なり」ということわざを身を持って体験しました。
こちらもよろしくお願いします。
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シリーズ 日々掌編短編小説 358
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