ハンカチから始まるもの
「ねぇ、落ちてたよ」 ハンカチを拾った男は、すぐ目の前を歩いていた女に声をかける。
「え、そこに、わざと置いたのに。あなた一体何よ!」と女は不機嫌に目を吊り上げて、男に近づくと、奪い取るようにハンカチをとった。
「私に何か用でもあるの?まるで、まとわりつくように」女はどうも自意識過剰である。男は首を横に振りながら、「そんなんじゃない、なんて、いや 何でそんなに怒っているの?」
「別に怒ってないわよ。本当にさっきからうざいわね」
「いや、その言い方が怒っているから。ひとつだけ忠告する それで君は幸せになれるの?」
と男は言いつつ、「これ以上こいつに言っても無駄だろう」と、そのまま女に背を向けて反対ほうを歩いていく。
ところが、この男の行為に対して、突然全身が雷に打たれたようなしびれる衝撃を受けた女。先ほどと違って、今度は男を求めるように追いかける。
「ちょっと待って」しかし男は無視して歩いていく。ここでさらに大きな声を出す女「ねえ、奇跡って信じるタイプ?」それを聞いて立ち止まる男。
「これ危ない奴だ」と感じたのか、とっさに出た言葉が「ようこそ、そして、さよなら」と、あえて意味不明のことを言い放つ。そこで女は固まった。
そして男は何事もなかったようにまた歩き出す。ところがこれに対して女は苛立ちながらも男が気になって仕方がない。ついに女は走り出して男に追いつくと、目の前に立ちふさがった。
「おい!なに、俺の邪魔をするのか」
「不幸だなんて誰が決めたのよ」
「はあ?不幸。大丈夫か、僕は君が不幸かどうかなんて知らない。ただハンカチを落としたのを拾っただけじゃないか」と言って、男は無理やり女から離れようと横に動く、
しかし女はさらに前に立ちふさがって男の行く手を阻んだ。男は思わず舌打ちをする。
「私は理解したわ。あなたは私と結ばれる運命に違いないと」女はそういって、目を潤ませる。男は意味不明なことを言われたとばかりに、ただ戸惑う。
「はぁ?ちょっと待てよ。さっきから君の言っている意味が全く分からない」
「私にはわかっている。あなたとは刹那を積み重ねて永遠を創るんだ!」と大声で訴えるように男に詰め寄る。
「マジで厄介な相手だなあ」と頭の中で男は戸惑いつつもいったん腕を組み目を閉じて考えるそぶりをした。そして目を開けて深呼吸。そして女に対して次のように答えた。
「あの、一回整理しよう。僕はたまたま君がハンカチを落とした。それを拾って手渡しただけだよね。それなのに礼のひとつも言わずに突然怒りだして。それなのに突然、君とだね何で刹那とか永遠を作るって出てくるんだ。
多分僕は将来こう思うだろうな。『今でもあの日を一番後悔してる』とね。わかった。だったらどきたまえ」
しかし女は立ちふさがったまま動かない。
そして「許されたいと思うのは罪だろうか? 怒っているように見えたのは私のミス。でも人間はミスを犯す生き物。そのことについては謝罪します。だから... ... せめて優しいメッセージが欲しいの」と語りながら声のテンションが下げていき、優しく哀れな表情で訴える。
「わ・わかった。ゴメンナサイ。じゃあ君にメッセージを伝えるから、それで許してくれるか」と男はあえて優しく答えた。それを聞いた女は目を潤ませて見つめてくる。
そして男も女の目を見つめた。
数秒間の沈黙ののち、男が静かにひとこと「その瞳が愛おしくて嫌いだ」とつぶやく。呆然と固まる女はそこでうなだれる。そして男はは何事もなかったように歩き出すのだった。
※こちらの企画で再び遊んでみました
【台詞で紡ぐ 10のお題】
・ねぇ、落ちてたよ
・そんなんじゃない、なんて
・それで君は幸せになれるの?
・奇跡って信じるタイプ?
・ようこそ、そして、さよなら
・不幸だなんて誰が決めたの
・刹那を積み重ねて永遠を創るんだ
・今でもあの日を一番後悔してる
・許されたいと思うのは罪だろうか
・その瞳が愛おしくて嫌いだ
こちらもよろしくお願いします
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シリーズ 日々掌編短編小説 290
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