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100円玉を眺めながら 第688話・12.11

「さっきから何見ているの?」「100円玉」鶴岡春香の問いに、同居している交際相手の酒田洋平は小さくうなづきながら数枚の100円玉を眺めている。

 2021年はふたりにとって、劇的な1年であった。これはふたり以外の誰も知らないことだけど、まさかの宝くじ高額当選。人生を変えないようにふたりは今まで通りの生活をつづけながら、唯一そのお金で新しく家を建てることを決めた。こうして丘の上の見晴らしの良い土地を購入。先月ついに家が完成して引っ越し。今は新居にいる。

「急にどうしたの?」「100円玉貯金をしようかなと思って、最近100円玉を集めているんだ」と洋平は数枚あるうちの100円玉の一枚を手に取り眺める。
「わかる、あの奇跡的な出来事で私たちの生活が変わらないよう、堅実的に生きるためにも必要ね。100円玉専用の貯金箱買ってこようか」「その前に100円玉ってこうやってゆっくり見ていたら不思議だなあ」洋平は100円玉を眺めながらつぶやく。

「どういうこと?」「これ桜だよな」「え!」洋平の前に置いていた100円だだまを春香が眺める。「ほんとだ。あんまりコインの柄とか見たことない」「改めてこんな図柄なんだとかおもってさ、それからさ、100円玉って銀色しているけどこれ銀貨じゃないんだよな」「え?」洋平が意外過ぎることを言い出して春香は戸惑う。
「昔は銀貨もあったそうだけど」「そんなこと言ったら、銀ではないけど銀色しているものって結構あるんじゃない。これだって」と春香は自分の指を見せる。それは洋平が今年の春香の誕生日に購入したプレゼント。

「プラチナの指輪ことか」「よく考えたらこれも贅沢させてもらったけどね」と嬉しそうに春香は指輪を眺める。「いいよそれくらい。それにあのお金とは無関係、俺の稼ぎなんだけど」洋平はそう言って笑った。

「じゃあ貯金箱買いにでかけようか?」洋平は百円玉をポケットにしまって立ち上がる。「ねえこれ良くないかな」春香はスマホを洋平に見せた。

「10万円か、どうせなら100円玉で100万円貯めたいな。そういうの無いかな」「うん、探してみよう」「おう天気もいいしな。出かけよう」
 ふたりは身支度を整える。

「洋平、その前にあそこに行こうよ」「春香わかっているよ、この前まで住んでいたところだろ。もう関係ないけど気になるな」玄関を出居たふたりはそのまま手をつないだ。

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シリーズ 日々掌編短編小説 688/1000

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