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地学がすき 第1017話・11.9

「まずは肉眼で月食をみてそのあと望遠鏡」この言葉の通り、夜になって皆既月食を見るために家を出た。近くにある視界が開けた場所に来れば、見事にまで、赤く輝く皆既月食状態になっている赤い月が見える。最初は肉眼で見たが、このとき持ってきた片手で持てるよう小さな望遠鏡を手にしていたので、次は望遠鏡を通じて拡大して月を眺めた。

「肉眼と望遠鏡とはこんなにも違うなんて」当たり前の事ではあるが改めて実際に眺めるとその違いに驚く。何度もうなづいて満足したので、このまま夜道を帰ろうと思った。
「せっかく外に出たからもう少し」だが、普段籠ることが多いためか、久しぶりの外に気持ちが不思議と高揚した。だから夜道をまっすぐに帰らずに寄り道することにしたのだ。

 少しは雲があるがこの日は晴れていた。ふつうは月食についつい興味が注がれるが、空を見上げれば、月の他にもいろんな星が夜空を輝かしているのがわかる。むしろ月がいつもの光を放たない分、星が良く見えるような気がするのだ。

 こうしてしばらく星を眺めた。このときは望遠鏡を使わない。夜空に輝く星は一部を除いて遠い恒星だから望遠鏡で見ても大きく見えるわけがないから、むしろ肉眼でじっくりと見る。すると最初は見えないような小さな星が見えてきた。あたかも視線が空に吸い込まれるような気になる瞬間が好き。結局、予定よりも30分近くも夜道を過ごすことになる。

「予定は、仕事も終わったし、ま、いいか」実は自宅のパソコンの前でIT関係の仕事をしていた。仕事の合間に休憩する際もパソコンの前で色々調べる。
 とにかく地学が好きで、仕事以外のもので調べるといえば、天文学やら地球のシステムに関する内容ばかり。
 とにかく好きなのだ。だから終日パソコンとにらめっこしているのだが、今日は天文ショーだから途中で抜けてきた。
「そのままでもいいけどな」と思いつつ、手がマウスを通じて自然とパソコンの電源シャットダウンを選択した。いったんパソコンの電源を落としてから外に出てきたのだ。

「夜の方が本来の地球がわかる気がするのは、気のせいか」とっぴなことを考えてみた。時間に束縛されないこのタイミングは、頭の中からあれこれ想像できる。いつもこんな時間があればいいのだろうけど、世の中そうもいかない。
「地球の内部を肉眼で見た人はいないんだけどな」地面を見て考えた。内部にあるコアというところはもちろん、その周りにあるマントルと呼ばれるところすら人は到達していないのだ。
「いろいろな方法で観測してわかるといいてもな。実際に見ていないものだから本当はどうなんだろうねえ」いつの間にか児童公園の前まで歩いていた。この日は公園内で同じように月食を見に来ている人がいる。だけど見ているのは大人たち、連れてこられた子供たちは月食には興味がないようだ。だた黄色い歓声を上げ、いつものようにシーソーで遊んでいるのが見えた。

「ちょっと座ってみようか」開いているベンチに腰掛ける。ちょうど月が見える位置。もう一度月を眺めている。しばらくは赤い月だったが、突然光るもの見えた。「ああ、月が出てきたなぁ」

 こうして月食は終わろうとしている。赤い月がどんどん光り輝く月にとって代わろうとしていた。まさかこの瞬間までいるとは思っていなかったから、寄り道したのはラッキーだったのかもしれない。もう一度肉眼と望遠鏡で見比べる。

「さて、帰ったらもう少し調べ物をしてもいいかな」天体ショーを存分に楽しんだので家に戻る。家に戻りパソコンの電源を入れようとしたが、ここで手が止まった。
「仕事はもうしない。あとは、そうだせっかくだから」パソコンの電源を入れずに寝室に入る。「たまにはITの世界から離れよう」普段ならずっと座っているのに、今日はたまたまその場所を離れた。だから久しぶりのアナログの世界に戻ってもいいと思ったのだ。

 ということで、寝るまでの数時間はベッドに横たわって読書をした。それもスマホで電子書籍を見るというのではなく、紙で書かれた本に眼を通す。「アナログの本だから古い情報にはなるんだけどな」と思いつつ手に取った本は、月と地球をモチーフにした物語。
  内容は物語を通じて地球や月に関する知識が学べるようなもの。10日ほど前に購入したものだったが、結局パソコンの前につきっきりだからほとんど目を通していない。

 こうして読書を始めた。半分以上読み終えたところで就寝時間となる。「さて寝よう」このときに思った。今日は珍しく数時間パソコンから離れていたこと。パソコンどころかスマホもほとんど見ていていなかった。それだけアナログで書かれた本が面白くて、集中できたのだろう。「ITデトックスができたのかもな」
 と思いつつ、「もう一ページだけ」と、次のページをめくる。そこの文脈の中に「断食」というキーワード。「だんじきか、今日のはデトックスというよりITの断食かもな。明日からまたパソコンの前に戻る。今日はもう寝よう」
 こうしてスマホのチェックもすることなく、ベッドに入り眠るのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 1017/1000

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