Vol.8 石黒啓一郎|運良くかろうじてここまでアカデミアでやってこれた博士
1.どのような研究をしていますか?
"減数分裂"という、精子や卵子を形成する際に起きる特殊な細胞分裂現象の研究をしています。特に生殖細胞が、「どのような仕組みで体細胞分裂から減数分裂に切り替わるのか?」という研究に取り組んでいます。あるとき、減数分裂が開始されるメカニズムは、世界中のどの生物種においても、ほとんど研究が行われていないことに気がつきました。このような基本的な問題が未解明なことは不思議でしたが、体細胞分裂している生殖細胞が勝手に減数分裂を開始するわけでもないため、そこには必ず減数分裂開始のトリガーがあると思い、この未解明な現象に切り込みはじめました。現在は、生殖細胞のタンパク質解析から、減数分裂の開始を担う”MEIOSIN”と名付けた因子を発見し、基礎生物学の学術的価値の創出に貢献できたと思います。
2.どんな人生を経て、熊本大学に?
10代の頃は物事に熱中するタイプでした。それと、テレビっ子でした。大阪ではサンテレビというローカルTV局で阪神戦が試合終了まで途切れることなく放送されるのですが、ずっとかじりついて見ていました。外野の自由席を取るために、よく前日から場外チケット売り場の列に泊まり込みで並んだこともあります。プロレスも好きでしたし、ガンプラも熱中していました。高校では、社会も理科もどれも好きだったので、理系なのか?文系なのか?も、はっきりしてませんでした。大学入学後、「生物学は数学や物理と違って天性の才能とは関係なく、自分でも熱中して何かできそう」と思い、生物系を志しました。
私は、ポスドク、助教、講師という、いわゆる任期付き研究職を長年経験して参りました。そして今現在も、タイミング良く職や研究費を得ていますが、研究を継続していくことの難しさを強く認識しております。私は大学院で博士号をとった後、米国で5年間ポスドク、日本に帰国後は学振研究員3年を経て、30半ばを超えた頃に初めて大学の正規の助教職に就きました。5年ごとに再任のある職でしたが、4年目にさしかかったある日、上司の教授から「再任しないので外で職を探すように」と宣告されました。アラフォーの年齢に差し掛かった私にとって辛いジョブ探しの始まりでした。そして、任期の期限がまじかに迫ってきてどうしようもなくなり、他の大学でポスドクで拾ってもらうことになりました。助教からポスドクになったので、 履歴上は誰が見ても降格です。あの当時は正直、まぢで「研究者終わった」と思いました。その後、これぞまさに「僥倖」というタイミングで、運良く2016年に熊本大学発生研でPIとして採用してもらえることとなりました。自分の妻と子供を横浜に置いて熊本に辿りつきましたが、単身赴任の寂しさを感じつつも、研究を楽しみながら上手く進めることができています。
3.人生の中で、心に残っている言葉は?
ドイツの社会学者マックス・ウェーバーの著書「職業としての学問」(訳:岩波文庫)に出てくる一節で、「若い学者にとって、職業としての学問は就職および昇進において”僥倖”に支配されている。・・・・・」「僥倖」?、漢文???、見たこともない漢字で読み方も知りませんでしたが、「ぎょうこう」とよぶことを知りました。その著書では、当時の大学制度において、職を得ることは思いもかけぬ偶然によって支えられていること。また、同僚の就職や昇進をよそ目に己の精神を如何にコントロールし学問に没頭できるかが、職業としての学問を続ける上での資質であると説いています。今から100年も前に記されたものですが、「僥倖」という言葉は、奇しくもこれまでの自分を取り巻く境遇と相重なるものを感じます。その一節が、私の研究者としての生き方に少なからず影響したと思います。
▼所属研究室▼
▼紹介記事1▼
(編集担当:前田龍成、赤池麻実)
(Kumadai-Hub事務局 :kumadaihub@gmail.com)
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***ポスター展について***
日時:12/1(日) 12:30~18:00
場所:熊本大学工学部百周年記念館
ポスター演題登録:~11/1(金)
事前参加登録:~11/30(土)
参加費:無料 *懇親会は別途必要
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