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WKW4K「花様年華」愛の記憶とおとなの純愛

ウォン・カーウァイ監督の映画は記憶を軸にしている。
記憶は本当にやっかいだ。記憶に居座り続ける愛と、忘却のかなたに去っていった愛。思い出は時間が経てば経つほど、美しく上書きされてゆくのか。

さて、今回は二度目だから、私は劇中にチャン夫人の夫探しをした。
チャン夫人の夫は冒頭引っ越してくる時から不在だ。その声は深くてセクシー、たぶんすごく艶気と包容力のある男性と世帯を持ってしまったのだろう。張曼玉マギー・チャンを妻に、孫佳君ポーリン・スンを恋人に、どちらからも愛情も注がれるなんて、この香港いち幸せなモテ男は一体どんな男性だったんだろう、ぜひ拝顔したいもの、と思ったがやはり後ろ姿の影しか見えなかった。

※ここから先はネタバレになります。未見の方はご注意ください。


チャン夫人の涙

さて物語は、同日に引っ越ししてきた二組の夫婦の、妻チャン夫人と、隣人の夫チャウ。互いの連合いが不倫関係とわかり、徐々に親しくなるふたり。愛が深まっていく過程はみな万感せまるものがあるだろうから、私の好きなマギー(チャン夫人)が涙するシーンを紹介する。

たとえば、突然ドキリとする会話劇がはじまる。
「あなた、女がいるでしょ」夫の不実をなじるチャン夫人。
そんなものいないよ、と否定しながらも、追及され本音を漏らしてしまう。
許せない(バシッ) 男の頬をビンタ…
(後ろ姿の男は旦那の声?)
ここで、カメラがひき、男の後ろ姿が夫ではないと分かるのだ。ロールプレイングなのに、しくしく泣き出す彼女。夫役を演じるトニー(チャウ)、この時点ではまだ夫の裏切りを悲しみ、気持ちは夫側にあった。

数日後、夜道で急に「別れよう」と切り出される。「嫌よ、お願い」。
またもロールプレイングかと思いきや、今度は大泣きするチャン夫人。暗がりで涙がどんどんあふれ出す。ただの隣人だったチャウに本気になってしまったのだ。愛情は夫からチャウにうつってしまっている。

そして、三段階目のいさぎよい涙については後述する。

チャン夫人のドレスと履物

それにしても、1960年代の長い立襟のチャイナドレスとピンヒールが美しい。この映画はお衣装だけでも目の保養。どんなチャイナドレスが登場するか、ふたりの愛についてはこのnoteに詳しいからどうぞ。

私はエメラルドグリーンの手描き花っぽいもの、また、大島紬風の泥染め縞生地スタイルが気になったわ。大御所レベッカ・パン姐さんの堂々たるドレス姿もお見事でした。

また、チャン夫人がラスト近く、トニーの部屋へそっと入り、部屋ばきスリッパだけをそっと持ち帰るところ、いいなぁ。夫人の奥ゆかしさと、もう二度と会うまいの決意が表現されていた。「欲望の翼」でも彼女のスリッパが意味深な小道具だった。WKW監督は靴フェチに違いない、きっと。

そして数年後の同じアパート。大家レベッカ・パンも移住してしまった。チャン夫人は思い出深いあの場所にたたずみ、”もしもあの時、彼の手をとっていたら…”と頭によぎるが、かたわらには子供の姿、結局夫とは別れなかったのがわかる。
手に入りそうで手放してしまった愛を、忘れられず、一筋の涙を流すチャウ夫人。記憶と決別した涙だった。

一方、なぜかカンボジアの遺跡に佇むトニー(チャウ)。独りきり。
彼が木の穴にささやいた秘密とは…  

謎めいて解釈を観客に委ねるところが、WKW監督の手練手管。憎いよなぁ。

美しいチャイナドレス・コレクションの写真は上のリンクでどうぞ ↑

ところで、50代になって再鑑賞すると、おとなの恋ごころに、より深く共感できる。年を重ねて嬉しいことのひとつは、不可解だった映画や小説が深い霧が晴れるようにわかってくること。自分自身の若かりし頃の「花様年華」:アオハルはもう戻ってこないとしても。

シネマート心斎橋での正装上映会に飛入り参加


余談だが、花様年華の曲は、トニー・レオンとアンディ・ラウ主演の「インファナル・アフェア」(2002)プロローグで、潜入捜査官と警察潜入ヤクザの2人がその音楽に惹かれてすれ違う、重要なシーンで使われていたハズ、よう知らんけど。...間違っていたらごめんなさい。
※TOP写真はミニシアターのWKW4K展示を載せています。

花様年華  In the mood of love 
★★★★★
(2000年) 香港・フランス
監督・脚本:王家衛
出演:梁朝偉(トニー・レオン)、張曼玉(マギー・チャン)
撮影:クリストファー・ドリル
美術:ウィリアム・チョン

#WKW4K #香港映画 #ネタバレ

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