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パリテキサスと,声の記憶

ナスターシャ・キンスキーの顔が好き。
ライ・クーダーの哀愁漂うギター大好物。
なのに 【パリ,テキサス】 は不思議と見逃していて,現在に至っていた。



テキサスからロスアンジェルス州まで, 砂漠の砂埃が続く中,差し色として鮮やかに目に焼き付くのが赤い野球帽,そして元妻の真紅のセーター,ほかにも8歳の息子のトレーナーの赤。
観たひと達がほぼほぼ語る,意図的な“赤”の効かせ方が印象的だった。

しかし裏テーマは「声」に違いない。

--ここからネタバレ含みます--
冒頭の,一言も喋らず荒野を彷徨うトラビス。4年ぶり再会した息子と会話したくて車道を真ん中に左右に分かれ,ジェスチャーで心を通わせていく。

(ここまでは声はどちらかといえば添え物)

元妻探しに,息子とトランシーバーで会話し追跡する。
そうして,探し当てた元妻は覗き部屋に身をやつしていた。顔は見えずとも声で解るはずとポツポツ話しかけるが,彼女は愛する夫の声を忘れていた...
彼女は言う  “ここに来る客の声がぜんぶ夫(トラビス)の声に聞こえるの”

深く愛するがあまり,浮気を疑ったり,仕事が手につかなかったり,というのは男のワガママに過ぎない。もう一度やり直そうとしてもうまくいかないとわかってしまった以上,
自分が立ち去るしかない,と勝手に息子を預けて消えるのもワガママだろう。つまり,トレビスと一緒に暮らしても幸せにはなれない,そこがつらい。たとえテキサス州パリスの土地を自分たちで耕したとしても。

(中盤以降は声の存在がとても大事)

さて現実社会で,
顔は覚えていても「声」の記憶はどうだろうか。数年ぶりの友人との再会に,声だけでどこの誰かわかるだろうか。私には自信ない。

振り返るナスターシャ,ロビー・ミューラーの絵画みたいな風景撮影,それだけでも十分エモーショナルなうえに,むせび泣くライ・クーダーのアコースティック・ギターが流れ,映画が終わっても,しばらく余韻に満たされてしまった。

Psris,Texas
1984年 西ドイツ,フランス
監督:ヴィム・ヴェンダーズ
出演:ハリー・ディーン・スタントン
ナスターシャ・キンスキー


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