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読書録

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ミステリが好き! 自分の読後録と,心に刺さった読書感想をあつめています。三年半かけて「芥川賞ぜんぶ読む」,ひと月一冊は読んでるものの文字おこしが遅々として進まず...。
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2022年8月の記事一覧

【読書録】『春にして君を離れ』アガサ・クリスティー

今日ご紹介するのは、アガサ・クリスティー(Agatha Christie)の小説『春にして君を離れ』。原題は、"Absent in the Spring" 。 私が持っているのは、中村妙子訳のハヤカワ文庫版(冒頭の写真、右)と、原文である英語のペーパーバック(HarperCollins、写真左)。 アガサ・クリスティーは、世界的に有名な推理小説作家。名探偵ポアロやミス・マープルの生みの親として知られる。ご存知の方も多いだろう。 しかし、この作品は、推理小説ではない。アガ

「三つ編み」著者の新作「あなたの教室(仮)」はまさに映像的だった。

死ぬまでに必ず訪れたい国。 IT大国であり、複雑な香辛料を魔法のように使いこなし、2024年には世界一の人口国となる、魅惑のインド。その南インドの貧村が物語の舞台だ。 フランスからインドへ導かれたレナ、 薄倖の少女ホーリー、そして女戦士プリーティ。 出身も出自も異なる三人の女たちが南インドで出出逢い、大空をゆく凧のように絡まり合って、たったひとつの教室をひらく物語。 Girl … NO SCHOOL 「女の子、学校いらない」と教育を阻まれ、低階層への差別、児童労働と搾

芥川賞をぜんぶ 中上健次「岬・十九歳の地図」

芥川賞をぜんぶ読む Vol.2 和歌山県は関西地域の中で、もっとも立ち位置が微妙だ。東日本のひとには思いもよらないだろうけれど。 古都の奈良や京都、商業の街・大阪や神戸港と六甲山脈をもつ兵庫、琵琶湖を内包する滋賀、に比べ(個人の主観だが)知名度低めな気がする。南高梅の梅干し、世界遺産・高野山、捕鯨漁など、秀でた産業があるにも関わらず、マイナー感は否めないのだ。 そんな土くさい和歌山を描いた、中山健次。 以下ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。 十九歳の地

無月の譜。見えない名月のしたで。

私の祖父は囲碁をたしなむひとだった。 座敷で祖父が友人と一局対戦しているときは、祖母をはじめ子供の私もそぉっと歩き、思考の邪魔にならないよう、家族みながぴりぴりしたものだ。 その立派な足付碁盤と白黒の碁石は祖父が亡くなり、相次いで父や祖母も亡くなりどこかにいってしまった。昭和時代(大正時代かも)の工芸品はひとつひとつ手づくりで職人の技量と手間がかかった逸品だった。つやつやの黒い石と白い石は子供のおはじきにも似て、じゃらじゃらさせて遊びたいのだが、さわるだけでもひどく叱られた記