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読書録

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ミステリが好き! 自分の読後録と,心に刺さった読書感想をあつめています。三年半かけて「芥川賞ぜんぶ読む」,ひと月一冊は読んでるものの文字おこしが遅々として進まず...。
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2021年3月の記事一覧

『クララとお日さま』 カズオ・イシグロ (著), 土屋 政雄 (翻訳) 直近イシグロの追い求めるテーマ連続性の上にある、本格的重量級のイシグロ・ワールド全開の大作です。(と同時にオスカー・ワイルド『幸福な王子』を想起させる、寓話性に満ちている。)

『クララとお日さま』 単行本 – 2021/3/2 カズオ・イシグロ  (著), 土屋 政雄 (翻訳) Amazon内容紹介 「ノーベル文学賞 受賞第一作 カズオ・イシグロ最新作、 2021年3月2日(火)世界同時発売! AIロボットと少女との友情を描く感動作。」 ここから僕の感想 おそらくベストセラーになり,そうしてから手に取る人も多いだろうと思うので、極力、内容に触れないように書こうと思いますが、それでも書いているうちに、ある程度、触れてしまう。あらかじめ、お断り。

十二人の手紙~3月の読書。

 井上ひさしである。「手紙」の小説である。面白くないはずがない。  スマホはなくパソコンもない。電話はあったが毎日使うものでなく、伝達手段の役割だけでなく長い話や内緒話に「手紙」が生きていた頃。昭和の高度成長期、十二人の人生である。  出生届から死亡届まで書類のみで薄幸の女性の一生を描く「赤い手」、見えない差出人に恋する「泥と雪」など、女性の悲しみが際立つのは古今から「手紙」は女性からしたためたからだろう。 若い女性の危なっかしい文章から、聾唖の老年画家の文章までを書き分け、

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。2月の読書

 平穏死ってなに? という立ち位置だったのはわずか1年前。去年の12月は税務署までよっこらしょ、と言う母を連れて、確定申告に行ったものだ。その母が一年間に五度の骨折し重篤な容態となり、先月は介護施設から断わられ病院は退院迫ってくる、という絶体絶命ポイントだった。転院先決まらんかったらどうするの?自宅に引き取り看るの?それとも私が実家に戻るの?高額病院で座敷牢みたいに閉じ込められるの?あぁどうすりゃいいの?! 状態だった。  悩みの沼にはまっているとき、友人が貸してくれた町医者

レイラの、最後の10分38秒

 亡くなる最期の瞬間に、ひとは何を思い出すのか。 走馬灯のように過去がフラッシュバックするというのは本当?  思い浮かべるのは家族?それとも友人の顔?  怖くはないの?痛くはないの? それらの問いのかたわらに、レイラの物語がある。  最初の1分、5分、10分…と物語はランダムに過去をたどり、のちにマブダチとなる仲間のエピソードや自由のため、いかに闘ってきたかが語られる。  さて、残り10分の項あたりでちょうどページの半分あたり。38秒がそんなに長いのだろうかと疑問に思って