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母の物語

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発端は2020年3月。圧迫骨折からの転院含め五度の入院、「密」に過ごした母との備忘録。
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2020年4月の記事一覧

母娘の密な時間5

母娘の密な時間5

 昨夜泣いたせいかすっきりして目覚めた。涙は浄化の作用があるという。まだ朝が明けきらないうちに支度をし出かける。今日はMRTを受けに竹子を脳外科クリニックへ連れて行けねばならず、初めて「介護タクシー」を利用するのだ。心が折れてばかりもいられない。

 介護タクシー運転手は親切だった。乗降りも補助してもらい、大変ですよねぇと相槌も打ってくれ、公園の桜の前を通ってくれたため竹子は笑顔をみせる。
「今年

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母娘の密な時間4

母娘の密な時間4

 日本もついに感染者数一万人超えた、三月の新聞一面ではイタリア医療崩壊、ドイツは感染者数に対し死者数が少ない、ニューヨークは感染爆発、と書き立てていたのに。今月は対岸の火事ではなくこの国にも火の粉が降りかかってきたのか。

 実家から自宅に戻ったウチは、二日連続、夕食あと着衣のまま寝てしまった。竹子と接する身体的疲れ、姪の幸からの会話がない精神的疲れ、シカト?30歳も年下の彼女と話すのに何を恐れ緊

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母娘の密な時間3

母娘の密な時間3

「は、は~、は~ は(ワ)?」介護三日目、竹子が訴える。「はぁ?何のこと?」口を指さす母に合点がいった。「歯のこと?どうしたん?」。竹子の上あごは総入れ歯だったのだ。驚いた、知らなかった。恥ずかしがって娘に言えず、腰の痛み止めを服用し、夜に外し朝方独りの時間にはめていたのだった。テレビのニュースでは『この週末は外出を自粛ください』と各知事が連呼していた時期、我が家ではパンツ式のオムツではなく、テー

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母娘の密な時間2

母娘の密な時間2

 竹子はしょっちゅう痛い痛いと訴える。痛み止めの坐薬を挿入するのも痛い、くしゃみも痛い、咳も痛い。ベッドから起き上がることも自力では難しく、寝返りすら自力ではできないのだ。おむつをあてがおうとする娘に悪態をつく竹子。「しゃあないやん、夜中に独りでトイレに行けないんやから」ウチだっておむつ履かせたい理由なんてない、しわだらけの母のシモをふくなんてしたくない。

 竹子の孫・長姉の娘には当事者意識がな

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母娘の密な時間。

母娘の密な時間。

 緊急事態宣言が七都府県に発出されて、二週間。母親と朝昼晩ずっと一緒にごはんを食べている。同居?否。同じ区内・自転車15分の距離から朝夕通っている。圧迫骨折で脊椎二ケ所、肋骨一ケ所をやられたため、自力でベッドから起き上がることができなくなった母、その介護に毎日外出せざるを得ない。我が”緊急事態宣言”である。

同居の長姉は心の病を患っており、その娘(姪)は多忙のため介護に消極的であり、次女の私が1

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