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マイナスをイチにする病院の仕事。

クリエイティブな仕事に就いていたら——と想像していた時期がある。

病院の仕事は基本的に「マイナス」からのスタートだ。病気や怪我で、当たり前の日常が当たり前でなくなっている状況である。「ワクワクする」とか、「楽しい」とか、そんな気持ちで病院に来る人はほとんどいないだろう。例外を挙げるとすれば、赤ちゃんが生まれる時くらいだろうか。基本的には不安で、苦痛で、痛くて、辛くて「どうにかしてほしい」という状況だから人は病院に行く。

だから病院で働いてると、毎日誰かの苦痛や不安を聞かねばならない。それだけでなく、治すために行う行為でさらに苦痛を与えることもある。その結果がゼロに戻ればいいが、時にはマイナス10にもマイナス100にもなってしまうという恐ろしさもある。

そんな中、やっと一人退院しても、また次の苦しみを抱えた人がやって来るという状況が繰り返される。「マイナス」からのスタートがひたすらリピートされるような気がしてくる。それで「クリエイティブな仕事」という選択肢が、脳裏に浮かんでしまうのかもしれない。実際に何人もの仲間が医療から離れていった。もっとストレートに誰かを笑顔にする仕事を目指したくなるんだと思う。

でも「マイナスをゼロにするのが病院の仕事」だと考えるのは、2つの理由から間違いだと言いたい。

一つは、ゼロになっているように見えて、患者さん自身の歩みによって「イチ」にもなるし、それ以上にもできるからだ。確かに体のことだけを考えれば、不自由さが残ってしまうかもしれない。それでも制約の中で新しい生き方を見出したり、生きることの素晴らしさを思い出したり、新しい自分を好きになって再スタートできることもあるのだ。体だけを見れば人間は弱いが、心の強さは計り知れない。

もう一つは、医療に携わる人自身が、ゼロから「イチ」になるということだ。毎日が命の危機、生活の危機、そういった人生の変化点を間近で感じながら、共に乗り越えるという体験の連続だ。そのような仕事はなかなかないと思う。患者さんと共に乗り越える一つ一つの体験の中で、自分の生き方をゼロから「イチ」に変えるような「気づき」があるのだ。

医療はマイナスをゼロにする仕事に見えるかもしれないし、目に見えるものを生み出すことは出来ないと思われるかもしれない。しかし、「目に見えない大切なこと」を生み出すことはできる仕事だと思う。

そういう意味で、医療は「マイナス」を「イチ」にする仕事だと感じているし、そうなるように誰かの苦しみを理解して、共に乗り越える役目を果たしていこうと思う。

そして「気づき」が、ちゃんと「イチ」として生み出されるように、今日も明日も書いていく。





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