ポストトゥルース芭蕉
「サステナブルサステナブルって、うるせえな」
「続けることばかり言いやがって何をやめるかも大事なんじゃねえの?」
コカコーラゼロを流し込んだのち、のりしおのポテトチップスをかき込んだ。唇も手ものりまみれだ。けれども鏡なんか見たくない。どうせ黒い斑点が増えているだろう。もう間がない。スッスッとスマホをスクロールする。フリック入力は手慣れてしまった。油まみれの手でスマホの画面がべたべたする。ティッシュボックスの紙がない。マツキヨに行かないと特売が終わってしまう。
賞味期限が短いだって?このど阿呆。
理解不能。平行線。勘の鈍い。水と油。
無駄だと知ってる。
けれども相入れないやつらには真実をわからせてやらねばならない。
「多様性がなんだ。甘み、酸味、複雑な味を兼ね備えてこそのうまみだと?甘さが正義だろうが。糖度21%をなめんなよ」
オレンジのやつ。「人生は酸味こそあれ」なんて下手な詩集出しやがって。和歌山にでもひきこもってろ。雑誌で特集されたからといってお高く止まってんじゃねえよ、最近のブドウ。「ラグジュアリーな体験を」だと?路線変更も甚だしい。お前は俺と同じ庶民派だろ。っていうか、むしろ俺は明治時代では手に入らなくて貴重だったんだからな。あとな、なんでもコラボコラボ言ってるりんご!お前は芸がないな。祭りの屋台だってりんご飴よりバナナチョコの方が人気なんだからな。正直に言うが飴と合ってねえよ。チョコと俺の方が親和性高いぜ。
どいつもこいつもわかってねぇ。
ネットに書き込んで煽ってやる。扇情的に昂らせて、論点をずらして論破してやる。「煽り耐性なさすぎワロタ」「マジレス乙」「必死だなw」相手の怒りを引き出したら勝ちだ。能面の顔で書き足すコメント。私利私欲、承認欲求、邪念同士のぶつかりあい。
黒い画面に文字がピコンと浮き出てきた。
「バナナくん」
スマホに映し出されたメッセージは、幼馴染のよっちゃんイカからだ。
「あのね」
「言いにくいけどさ......おやつにはやっぱり入らないって、君」
「他のフルーツより優れてるアピールはわかったけども、そういうことだから」
「明日行ってくるね」
俺は、明日の遠足に行けなくなってしまった。
愕然とうなだれた。
いっそ雨でみんな台無しになってしまえ。おニューの靴がどろどろになって靴下まで染みろ。
あぁ、また黒点が増えていく。
望んでいないのに熟れていく。
お前じゃなきゃだめだって
一度でも言われたことがあるっけな。
声にならない声を叫んだ。
余計な情けはいらぬ。
南国の風が吹く夢は今夜も続く。
まぶたの裏からまばゆい小さな光を感じた。
思わず手を伸ばしたが紙がない。
完熟と傷みのはざまで揺れながら、俺はマツキヨに向かった。