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利用者からの暴力やハラスメント

現状

介護施設や障害者福祉施設に勤めていると,少なからず利用者からの暴言や暴力.あるいは女性の胸やお尻を触ってくる高齢者の方,その逆もしかりですが,そうした行為に遭遇することがあります.
また家族からは介護事故について恫喝されたり,いつまでも執着されて精神的に追い込まれるケースもあると言います.また訪問介護でも家族の方がずっとアダルトビデオを大音量で流すなどのセクシャルハラスメントをうけるということも話題になっていました.
相談業務でも,窓口で謝罪を執拗に要求されたり,心理的に追い詰められることもあると言われています.
こうした利用者からの暴力やハラスメントは,現在,カスタマーズハラスメント,通称,カスハラと言われています.

こうしたカスハラの調査は,あまりされていませんが,2018年に日本介護クラフトユニオンが組合員7800人を対象に調査.そのうち74.2%がハラスメントを体験し,91.3%が精神的ダメージを受けているという調査結果を公表しています.相談業務では副田あけみ先生が2019年に調査した986名の内,55.6%が過去一年間に利用者や家族からのハラスメントがあったと回答しています.その中でも精神科の看護領域では数多く研究されており,3割以上が過去一年間で職場内で暴力を受けて,そのうちの6割以上が良くあるとする認識を持っています.

要因

暴力に至る要因を,北野さをり先生は,①暴力をする側,②暴力をされる側,③環境の三側面から分析しており,暴力をする側の要因としては,「疾病や症状から生じる暴力」「患者の社会的・心理的側面」「個人的背景」によるものとされています.
②の暴力をされる側としては,「性差,年代,職位の違い」「介護技術の未熟さ」「対人援助の未熟さ」「暴力に耐えている職員」とされています.
③の環境は「物理的要因」と「人的要因」が挙げられています.
これまで利用者からの暴力などは,その人の疾病や症状のせいとされ,問題解決のために,薬を増やしたり身体拘束が安易に使われる危険性がありました.また,職員の技術のなさが引き起こしたとされると,暴力を受けても仕方が無いとする風潮によって,被害者であるにもかかわらず責められることになります.それは,その職員を追い詰めることになり,離職につながったり組織的にも問われることになります.

対応

カスハラや暴力に対しては,通常それが継続性や悪質性が高い場合は法律的に訴えるとことが可能となっています.①刑事事件,②民事事件に分かれます.
刑事事件としては,脅迫罪,強要罪,暴行罪,傷害罪,不退去罪,監禁罪,強制わいせつ罪,準強制わいせつ罪,偽計業務妨害罪,威力業務妨害罪,名誉毀損罪などです.
民事事件としては,差止訴訟,損害賠償請求訴訟,SNS等への書込みの削除を求める訴訟,居室等の明渡を求める訴訟などがありますが,裁判にかかる費用や証拠集め,あるいは弁護士を立てるなどの準備など相当な手間を要します.それでも,こうした方法があるということを知っておくだけでも心理的には安心できると言えます.

もっとも現実的なのは,カスハラの被害に遭ったときの組織的な対応がしっかりと整えられていることです.サービス契約の際にしっかりとカスハラについての組織としての見解を盛り込んでいること.あるいは,被害に遭った場合の上司によるフォローといえます.
かつて利用者からの暴力やハラスメントは,仕方のないこととして不問とされた時代がありました.そして,被害に遭った人が逆に対応が悪かったからだと責められてもいました.
しかし,今やそうした対応によって精神的に傷つけられ,うつ病に陥ったり,離職したりとすることが問題となっています.組織として,こうしたカスハラにうまく対応するように取り組むこと.それは,その組織や個人の力量の向上にもつながると言われています.

現在,社会福祉サービスは,利用する人との対等な契約関係に基づいて提供するとする思想が一般的です.利用者の権利意識の向上はまた,そこには自己責任が伴うとする発想が生まれて当然と言えます.しかし,その一方で社会福祉のサービスを必要とする人々の置かれている状況を鑑みると,福祉サービスは生命や生活の命綱とも言えます.利用者が暴力をふるったという事実の一点で福祉サービスの停止や退所となれば,本来の社会福祉の機能の低下が問われることにもなります.なぜその利用者が暴力や暴言をふるったのか.その背景への理解を踏まえた対応もまた必要であると言えます.

参考文献

北野さをり(2021)「患者・利用者から職員への暴力に至る実態に関する考察」『四天王寺大学大学院研究論集』(15),43−60 https://cir.nii.ac.jp/crid/1520009409750390528
副田あけみ(2019)「介護職・相談援助職へのクライエントバイオレンスに関する質問紙調査報告書」http://www.elderabuse-aaa.com/download/report_201903_a.pdf
金子知子(2023)「暴力とハラスメントを伴う[関わり困難事例]の理解と対応」『ソーシャルワーク実践研究』18,28−36
介護現場でのカスタマーハラスメント(カスハラ)を訴える!具体的な方法を解説 https://kaname-law.com/care-media/complaint/customer-harassment-legal-action/


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