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支援のはざま(1)

支援のはざまとは

ソーシャルワークは様々なハンディキャップを持つ人からの相談を受けて,多くの機関と連携したり,制度を横断的に活用したりして,相談者の不利益な状態の改善ないしは解決を目指すことにある.
しかし,時には相談者の不利益/不利な状況の解消に対応する制度がないとか社会資源がないとか,連携するべき組織との意思疎通がうまくいかずにサービスが提供できないと言ったことがある.
つまり支援をするべき人に支援が届いていない状況のことを「支援のはざま」という.今回はいくつかの先行研究からこの支援のはざまの要因を取り上げ,ソーシャルワークをする上での参考になることを目的とする.

支援のはざまを生み出す要因(1)

支援のはざまは例えば,難病でも制度の対象内になるものと対象外になるものがあるように,制度は救済するべき範囲を決める以上,同じような病気や障害であっても,Aがサービスの対象でありBは対象にならないといったことが起こりうる.
そのためBは本来支援を必要とするべき人であるが,その問題やニーズに対応できないといった事が起こりうる.これが支援のはざまと言える.
まさに制度それ自体が排除を生み出すことがある.

本来,社会福祉の歴史を遡れば,かつては狭間そのものが福祉支援の対象だった.様々な問題を抱えながら社会制度から排除され,生活困難に呻吟する人々を救済することが社会福祉の使命とされてきた.それは,今日でも社会福祉の基調でありながら,狭間を埋めるはずの社会福祉が支援の届かない狭間を生み出していると言うことは,社会福祉の根源に関わる深刻な事態であると言えよう

平野(2015:19)

支援のはざまを生み出す要因(2)

支援のはざまを生み出す要因が先に見たように制度の範囲(枠組み)によるものの他,機関や組織の運営方針や援助者の姿勢や視野によっても生み出されるとされる.
つまりサービスを提供する側による選別や援助者の無知などによって本来提供できるはずのサービスが提供されない状態に陥ることがあるとされる.
もっとも機関や組織自体も制度に依存しており,また援助者の判断根拠が制度や法律である以上,制度のミスマッチそのものがそのまま機関や援助者の判断に現れ,支援のはざまを生み出すと言える.
このことはまず制度ありきで,支援を必要とする人々を視野の外に置いて「安閑」として良いのかと言うことが問われている.
その意味で援助者が制度の枠組みだけで「業務」をこなし,内省的思考をせず利用者の生活課題を矮小化した支援をすることは,むしろ支援のはざまを生み出すのではないか.
また困難事例と言われる人々を集団や他の利用者の迷惑になるからと言って遠ざけたり,サービス利用の拒否をする組織もまた支援のはざまを生み出していると言える.あるいは,無責任なキャッチボールをして難しい利用者を押しつけ合うなど事例には困らない.

支援のはざまを生み出す要因(3)

(2)でも言及したが,組織間の連携にあり方では,一つに守備範囲の相違によって受け入れる対象が定められ,同じような生活課題があっても対象外になり得る場合がある.そうしたミスマッチを防ぐために,適した機関へのつなぐ,連携することがある.例えば18歳までは児童福祉の対象だが,18歳以降は成人のサービスへの移行をするなど.
しかし,責任の棚上げ,仕事の押し付け合い,連携を敬遠する機関などで,次の機関につながるまでの「時間の隙間」が生じることがしばしばあり,そのため提供されるべきサービスが円滑にされないことがある.
連携の時間の隙間によって把握されるべき利用者が行方不明になるなどもあると言われている.

おわりに

このように,(1)では制度自体が,(2)では個人や組織自体が,(3)では組織間の連携によって支援のはざまが生み出されることを述べた.
そももそも社会福祉の対象者は社会的に排除されている人々を包摂ないしは,そうした人々の生活課題の解決にある.この社会的排除の形態は機会を改めて言及したいが,こうした社会的排除を支援する側が生み出しうることを述べた.
ソーシャルワークは生活課題を持つ人々への相談支援であるが,そもそも生活課題を持つ人々は,積極的にサービスにつながることは少なく,社会の中で不可視化しているとされる.援助者は間違った支援を行うことでも,不可視化してしまうことを肝に銘じるべきだと言える.
次回は,支援のはざまの形態について述べていき,その解決策についてへと展開していきたい.

参考

平野方紹(2015)「支援の『狭間』をめぐる社会福祉の課題と論点」『社会福祉研究』122,19-28,鉄道弘済会.
川向雅弘(2017)「『狭間』に取り組むソーシャルワーカーの『越境』の課題」『ソーシャルワーク実践研究』5,12-21.
栄セツコ(2010)「『連携』の関連要因に関する一考察」『桃山学院大学総合研究所紀要』35(3),53-74.(PDFあり) 
渡邊宣子・井上智洋(2016)「精神障害者の地域移行についてー生活保護受給者の地域移行を阻害する者」『ソーシャルワーク研究』42(1),44-52

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