病みかける心を救う『考えない練習』
会社員の頃、口をひらけば愚痴と呪詛を吐いていた時期があった。今思うと「私も私だな」という反省点もたくさんあるのだけれど、そうせずには居られないほどいろいろなことを押し付けられ、理解されず、話が通じない人に囲まれていた時期があった(と、少なくとも私は感じていた)。
ただ、愚痴れば愚痴るだけ、やけ酒をすればするほどメンタルの調子は悪化。「何もかもがうまくいかない」「もう、考えたくない……」と感じるようになった頃、タイトルに惹かれてある本を手に取った。それが小池龍之介さんというお坊さんが書いた『考えない練習』(小学館)だ。
正直なところ10年ほど前に読んだ本なので詳細は覚えていないのだけど(現物は人に貸したまま返ってきていない)、この本に書かれていたことは私の人生を大きく変えたのでぜひお伝えしたい。私なりの解釈なので「確かこんな感じ」とまとめた話になってしまうけれども、効果は絶大なのでよかったら読んでいってほしい。
・脳は、刺激が好き
お坊さんが書かれた本ではあるものの、ほぼ脳科学の話に近かった。
ざっくり言うと「脳は良いことも、悪いことも、とにかく刺激的なことが好き」という話だ。すごくハッピーなことも、死にたくなるほどショックなことも、脳には区別がつかず、どちらも大好物。脳にとっては「刺激」でしかなく、繰り返すと「もっともっと!」とおかわり癖がつくのだそう。
当時、私はどうしても納得のいかないことを繰り返し繰り返し考える癖があった。「次はこう説明してみよう」「ああ言えばわかってもらえたかもしれない……!悔しい!」「あの人、なんであんなこと平気で言えるんだろう……!」などと、「二度と同じ目には遭うまいぞ!」と装備を強化しているつもりだった。
がしかし、これは脳にとってご褒美状態だったわけだ。刺激が好きな脳は、「もう1回!またそれ(つらいこと)考えて!」と大喜びしている状態であると知って愕然とした。脳の裏切り者ー!
・「思い出すこと」は自分で追体験していること
これは、他の本にもたまに書いてあるが、「1回殴られたこと」を100回思い出すのは、自分で自分を100発殴っているのと同じなのだそうだ。相手はそんなことを言ったことすら忘れているかもしれないのに、延々と繰り返し思い出すことで、自分で自分にダメージを与えていたとは……。言われてみれば確かにそうなんだけど……ぐぬぬぬ。
・解決策は考えないこと
で、結局どうすればいいかっていうと「考えないことが一番の解決策」とのことだった。自分が苦しくなるほど何度も考えても、現実が変わるわけではない。もちろん、解決策を考えて動くことは大事だと思うけれど、繰り返し繰り返し思い出すことは自分を苦しめているだけ。
……ざっくりこんなことが書かれていたので、「えええーそんなこと言ってもさあーー」と思いながら、とりあえず試してみることにしたのだ。
私が具体的に取った行動は、「はい、考えない!この話は終了!」と口に出すこと。お風呂に入っている時や通勤中など、一人でいるときに反芻しまうことが多かったので、考え始めたら口に出して「終了宣言」することにした。そして他のことを考えるために、「さあ、今日の晩御飯は何食べようかな〜」とか「週末は誰と遊ぼうかな」といったことも実際に口に出して思考を遮断するよう努めた。
口に出すのが結構大事だと思う。大丈夫、一人の時なら変な人とは思われません。
で。これがびっくりするほど効いたのだ。
アレ、ナンカ、心、カルイ?
そう実感したのは、結構すぐだったと思う。「たったこれだけで?」と思うかもしれないが、「考えない」「思い出さない」ことがこんなにもダイレクトに気持ちを軽くすると思わなかった。なんというか、なみなみと注がれたコップの水(ストレス)が半分くらいになった感覚に近い。
もちろん、考えなくなったからといって問題が解決するわけではない。ただ、逆に言うといくら思い悩んだところで解決する問題でもなかったわけで。どちらにしろ解決しないなら、自分の心と体を痛めつけるようなことはしないに越したことないなと思うようになったのだ。
さらに、この心の軽さは癖になる。あの、毎日呪詛を唱えていた頃にはもう戻れない。戻りたくない。
もちろん、今でも時々は愚痴ることも、死んだ目をするようなこともある。ただ、それが過ぎる時には「はい、終了!」と唱えることで、悪い刺激を与えて脳が喜ばないように心掛けている。
この体験以来、思い悩んでいる人から相談を受けると、「騙されたと思ってやってみて!」とこの話をするようにしている。実際、トライしてくれたかはわからないが、いよいよしんどいという時にでも思い出してくれたらいいな、と思って伝え続けている。
これを読んでいるあなたも、もしつらい状況にあればぜひ試してみてほしい。「考えない練習」は、きっと生きていくのを少し楽にしてくれるから。