私にとっての、はじめての三浦春馬君。 / JR東日本東北新幹線新青森開業キャンペーン「MY FIRST AOMORI」
今日は、トーキョー、君のことを思うよ。
2010年、JR東日本・東北新幹線の八戸~新青森間開通に伴い、大々的に展開された広告、新青森開業キャンペーン「MY FIRST AOMORI」。
そのキャンペーン広告に、新米駅員・トーキョー役で出演した三浦春馬君。
私の記憶の中の、一番若い春馬君は、このトーキョーだ。
MY FIRST AOMORI ヒロイン募集
このテレビコマーシャル・シリーズは、まずはこれから始まる。
▲ 上の広告会社のページにはグラフィックやプロダクションノートみたいなものも載っているので、是非そこにも飛んで行って見てみて欲しい。
2010年4月に放映されたというこのヒロイン募集のコマーシャル、見たことがあったような、ないような。青森出身もしくは在住の女の子が対象だったので、青森だけで流されたのか。首都圏エリアではなかったのかもしれない。
夏のはじまりに、三浦春馬が君に恋をします。
ぅくぅ~~~~~~っ!これは衝撃だ。三浦春馬がこの夏、恋をするってよ。どうする、三浦春馬が自分に恋したら!?当時の私は、既に良い年した大人なので、流石に行動には移さないだろうが、もしも春馬君と同じ位の年頃だったとしたら、ちょっと興味を持って応募要項のページを検索するぐらいはしてみたと思う。だって、三浦春馬が「君に」恋するって言ってるんだもの。このコマーシャルには春馬君の姿はなく、名前が出てくるだけなのだけど、それだけでも何と心躍るのだろうか。後に、ドラマに名前だけ出てくることもあるのだが、やはりこの時代のイケメン若手俳優の代表としての三浦春馬の名前のインパクトたるや否や、半端なかったのだろう。そうか、今年の12月には新幹線が青森にやってくる。そして、この夏、青森を舞台に三浦春馬の恋物語が始まるんだな。バックに流れるのは、槇原敬之の「素直」。この曲がこの先のストーリーを予感させるではないか。この夏から始まる新幹線の物語を早く見せてくれ、そんな気持ちにさせる素晴らしいイントロダクションだ。
このキャンペーンは、2010年4月から青森で先行して展開され、首都圏エリアでは9月からの開始だったという。ヒロインのオーディションの模様も青森ではテレビで放送したと言うし、首都圏の人は知らない、青森だけの様々な広告展開がなされていたのかもしれない。12月の開業までの約9カ月間、このキャンペーンによって、青森県民の間では「いよいよ新幹線が来るぞ!」と期待感は盛り上がっただろうし、そんな思いを抱かせたこのCMに対する思い入れも強くなっただろう。それに出演している春馬君に対する親近感の芽生え方も尋常ではなかっただろうと思う。何なら「三浦春馬が東北新幹線を新青森まで延伸した!」ぐらいに思っている人もいるのではないか。「新幹線がやってくる!」と春馬君と一緒に開業を心待ちにした9カ月、それは青森県民だけが持つ春馬君との思い出だ。羨ましい。
MY FIRST AOMORI vol.1 トーキョー篇
人を出身地で呼ぶ先輩社員。そんな先輩から「トーキョー」と呼ばれ、春馬君扮する駅員の彼が東京出身であることがわかる。何の用事で呼ばれたのかわからないまま、先輩に着いて行くトーキョーの表情は初々しい。ダジャレが好きそうなこの先輩は、喋り方からして青森出身だろうか。
「お前、青森好きか?」
「はいっ!」
「そっかぁ…。」
空を見上げながら、元気よく返事するトーキョーの笑顔がとてつもなく爽やかだ。青森が好きかと、改めて確認するのは何かの意味があるのか。
はじめての青森、始まる。
トーキョーは青森にやってきた。トーキョーにとっての、はじめての青森が始まる。2010年12月4日には、東京~新青森間が最短3時間20分で繋がる。他の多くの人にとっても、はじめての青森が始まる。
当時、この第1話を見て、若手の男性俳優が主人公、しかも駅員か!と意外に思ったのを覚えている。それまでの新幹線コマーシャルに出演してきたのは女優が多く、それも乗客として登場することが多かったからだ。東北新幹線、新青森駅開業。そのストーリーの主人公は新人駅員の三浦春馬君。このコマーシャルはJR側の視点が主なのか。私はそれまでの新幹線コマーシャルとの大きな違いをこの第1話で知っただけでも、もうワクワクが止まらなかった。それまで春馬君の作品を観たこともなく、ただ知っているという程度だったが、この第1話の溌剌としたトーキョーを見ただけで、「何、このえっらい爽やかな駅員さん!イイじゃない!どんな新幹線の物語を紡いでくれるのよ!」と、早くもトーキョーは私の気になる存在へ。このコマーシャルに対する期待がぶち上がった。これが春馬君の存在を強く意識した、初めての瞬間だったのだろう。
(この第一話については、JR東日本のプレスリリースにも詳しく書かれているのでどうぞ。)
MY FIRST AOMORI vol.2 恋篇
自転車通勤のトーキョー。通りが掛かった乗客と挨拶するところから見ると、トーキョーはこの駅の駅員として乗客から認知されているということだろう。しかも、自転車に乗っているトーキョーは駅員の制服を着ていない。都市部だと、自分の家の最寄り駅の駅員さんの顔は覚えていないし、駅以外の場所ですれ違ったとしても、声を掛け合うことなんてまずない。制服を着ていない駅員さんを、駅以外の場所で駅員と認識することはほぼ不可能だろう。それが青森だとそうではなくて、乗客と駅員の距離が近く、駅員のことは誰もが知っていて、気軽に話せる存在なのかもしれない。だから、次々と乗客がトーキョーに聞く、皆の関心ごとの「新幹線はいつからなのか。」と。食堂のようなところで女性から話しかけられるトーキョー。質問を受けている最中は驚いたような表情なのだけど、一呼吸「はっ」と入れてから、「12月です。」と微笑みながら答える。こういう表情とセリフの言い方、他の作品でも春馬君よくやる。この時の春馬君は二十歳。歳を重ねるとともに変わっていく演技も良いが、変わらない演技も良い。建設されたばかりの新青森駅だろうか、ホームの下からのアングルでのカットが一瞬だけ入り、そして、衝撃の出会いが訪れる。
「すいません、新幹線いつからですか?」
「……、あっ、12月です。」と答えるまで少し時間が掛かってしまう。答えるまでの間、何を考えていたんだよ、トーキョー!瞬きが可愛いぞ。「その声は罪だ。」と思ってしまうくらい、その一言は、その声は、その姿は、トーキョーの心をぶち抜いたのだろう。恋に落ちたな、トーキョー!
MY FIRST AOMORI Vol.3 ねぶた篇
デートだろうか。ねぶたラッセランド(ねぶたを製作する大型テント)を訪れた二人。青森の魅力を伝えつつの第3話。白シャツ姿のトーキョー、色付け前のねぶたを見上げた時の笑顔が眩し過ぎるぜ。デートに誘ったのはトーキョーからか?彼女のことを見るも、口を一文字に閉じて、何かぎこちないトーキョー。何だか、トーキョーのピュアさが滲み出る。そこに少年が登場し、
「言葉にしねえと伝わんねーぞ。」
「姉ちゃん、人気あんだぞ。」
と言葉を浴びせられ、「あっ…。」と声を出すトーキョー。ラッセーラッセーラッセーラー!の掛け声とともに、途中に差し込まれる、ねぶた祭りのカットの数々。祭りで太鼓を叩いているのは先輩では。ねぶた祭りって、若い子の間では、好きな子を誘っていくような、ちょっと特別なイベントだったりするのかな。このねぶた祭りのシーンは、このデートの前の出来事か後の出来事かわからないけど、トーキョーは見てしまったんだよね、彼女が誰かと一緒に祭りに来ていたところを。少なくとも、彼女の両サイドに居たのは男性だった。咄嗟に顔をそらしてしまうトーキョー。テントから出てからも、「どうした?」って彼女から聞かれても、「あ、いや…。」ってしか言わないトーキョー。何だよトーキョー、まだ彼女に自分の気持ちを伝えていないのかよ!もどかしい。言葉にしないと伝わらないぞ。でも、トーキョーの気持ちも分かる。そう簡単に気持ちなんて言葉にできない。このトーキョーの心の内が、30秒の間にもよく伝わってくるのは、春馬君の細やかな演技の賜物だ。
MY FIRST AOMORI Vol.4 居酒屋篇
冒頭の、電車の中で本を持った女性は彼女かな。居酒屋にて、先輩とトーキョーの、こんな会話のやり取りが。
「トーキョー。」
「はい。」
「お前、来月から新青森だ。」
「……、えっ。」
「新幹線だ。」
「……、やったあ~!先輩は?」
「変な気、使うな。」
開業する新青森駅への異動を告げられるトーキョー。新幹線の新駅の開業のタイミングからその駅の業務に携われるのは、トーキョーにとっても憧れだったのかもしれない。そして、そのポジションを先輩はトーキョーに譲ってくれたかのような雰囲気を醸す。そんなことをしてくれたのだとしたら、そりゃ、おやすみなさいって頭をしっかり下げるわな。トーキョー、嬉しかったんだろう、開業前の新青森駅の駅舎、自転車で見に行っちゃったんだね。先輩から「新青森」と言われて何のことかピンと来ていなかったり、憧れの仕事に就けることの喜びだったり、先輩の今後への気遣いだったり、自分に譲ってくれた先輩への感謝の気持ちを、春馬君は表情だけの演技で表現する。新しい自分の職場である新駅舎を眺めて、トーキョーは何を思ったんだろう。その眼差しの先に、何か決意したことがあったかな。
はじめての青森。
ここで、トーキョーのはじめての青森が始まるんだ。
ちなみに、2010年当時、私はこの第4話になるまで、この先輩が吉幾三さんだということに気づかなかった。ちゃんと第1話も第2話も、先輩がいることは認識していたし、見ていたのだが(第3話のちょっとだけ映っているのは全く気付いていなかった)、先輩の駅員姿がナチュラル過ぎて、あの演歌歌手の吉幾三さんだとはわかっていなかった。この居酒屋のシーンで、お顔が大きく映って初めて「吉幾三じゃん!」と驚いたのを覚えている。そして、振り返って第1話、第2話のあの演技をしたのも吉幾三だったのかと、更に驚いたことも覚えている。
MY FIRST AOMORI Vol.5 新青森駅篇
この第5話から、BGMが槇原敬之の「林檎の花」に変わる。トーキョーは新幹線の新青森駅に配属になり、若い先輩(新井浩文さん)からの質問にも「2年目です。」とはきはき答える。若い先輩のセリフが、あまりよく聞き取れないが「駅長とこさ、挨拶行ぐから。」って言っているように聞こえる。この先輩も青森出身という設定なのだろう。緊張しながら駅長(泉谷しげるさん)にご挨拶。すると、向かいのホームには先輩がいるではないか。
「トーキョー、やっときたか。」
これは私の勝手な解釈だが、この先輩のセリフは、トーキョーが新青森駅にやっと異動になった、という意味と、東京(から新幹線)がやっときた、という意味のダブルミーニングなのではないかと思っている。この駅長とトーキョーの握手も、青森と東京が繋がったことの暗示だったりするのかなと勘繰る。「はい!」と元気よく返事する、トーキョーの決意と希望に満ちた表情に、見ているこちらも胸が熱くなる。
新青森、いよいよ。
そう、いよいよ、初めての青森が始まる。青森は東京を受け入れる準備を着々と進めているのだ。
MY FIRST AOMORI Vol.6 開業篇
コンコースを歩き、階段を上がる。中には心を弾ませ、走っていく者もいるようだ。駅員ら、職員がホームで整列する。視線のその先には新幹線。ホームの横に入ってくると、一同敬礼にて迎える。このコマーシャル・シリーズの中で、この第6話が私は一番好きだ。何らセリフも無いのだが、泣けてきてしまう。遠くで光る新幹線は、ただの新幹線ではない。JR東日本が、国鉄時代も含め、東北新幹線の整備計画から費やしてきた39年間の月日と、それに携わってきた人々のドラマをこの新幹線は乗せているのだ。39年もかけて、ようやく東京から新幹線が青森にやってきた。ここまでどれだけの人々が力を尽くしてきたことか。JR東日本の悲願が、今、ようやく達成されるのだ。そして、それを迎え入れる駅員たちの覚悟に満ちた表情。JR東日本の「新幹線を青森に持ってきたぞ!」という気概と誇りが、このシーンで一気に表現されているようだ。この第6話は、新幹線全線開通という社会的にも大きな意義のあることを達成した、JR東日本を称えることに終始したい。
MY FIRST AOMORI Vol.7 デート篇
トーキョーは彼女に気持ちを伝えたのかな。半袖を着ている頃から、ジャケットを着る頃になるまで、二人で青森の色々な所に出かけたようだ。奈良美智のあのデカくて白い犬は美術館だろうか。電車に乗ったり、スワンボード漕いだり、お茶したり、リンゴ狩りしたり、春馬君とのそういうデート、いいなぁ!青森には素敵な所がいっぱいある。トーキョーは青森の色んな所を訪れて、様々な「はじめての青森」を体験したのだろう。先輩のお誘いも断ってでも、彼女に会いに行く。「お待たせっ!」って春馬君に言われてみたいよなーっ!
僕は青森に恋をしていた。
ここは、トーキョーが青森という土地そのものを気に入ったという意味もあるだろうが、僕=トーキョー、青森=彼女ってことでもあって、トーキョーが彼女に恋をしていたという意味もある。更に、トーキョーは東京の擬人化表現なのではという気もする。東京と青森が繋がって、東京が青森の事を知れば知るほど、青森は魅力的なところがあるとわかり、東京は青森のことが好きになる。きっと新幹線で二つの街が繋がって近づけば、東京は青森に恋をするよというメッセージと受け取った。
MY FIRST AOMORI Vol.8 旅立ち篇
トーキョーと彼女、言葉少なに在来線に揺られ新青森駅へ。青森の彼女が、新青森駅から東北新幹線に乗って、東京へ行く。それを見送るトーキョー。
彼女が東京の大学に行く。大丈夫。東京なんか、全然近い。
思いっきりのやせ我慢だ。寂しくないわけがない。手をぎゅっとしたくなる気持ち、わかる。この二人が手を繋ぐシーンは、新幹線が繋いだ青森と東京を象徴するものだろう。二人なら、きっと大丈夫。東京から青森へ来たトーキョー、青森から東京へ行く彼女、これからの二人の間は東北新幹線が繋いでくれる。たったの3時間20分だ。喜びも寂しさも、二人の間のドラマを新幹線が運んでくれる。
「間もなく、11番線に、はやて12号、東京行きが到着いたします。」
この時は、まだ「はやて」が主流だったのだろうか。今は「はやぶさ」があるから、東京・青森間に掛かる時間は3時間20分よりも短くなったかもしれない。
日本語文法的には「全然」の後ろには否定文が来るものだが、「遠くない」とは言わずに「近い」とトーキョーは言う。青森と東京は遠くないのではなくて、近いのだ。だって、東北新幹線があるのだから。トーキョーは、寂しさよりも覚悟を決めたかのような表情だ。
大丈夫。東京なんか、全然近い。
短編映画のようなテレビコマーシャル。
どうだろう。泣くっ!!!何て良いコマーシャルなんだ!まるで超短編映画を観たかのような、そんな気持ちにさせてくれる素晴らしいコマーシャル。この広告は、広告業界でも権威のある賞の、TCCグランプリ、ACCゴールド、ギャラクシー賞選奨などを受賞した作品で、ACCの審査委員からは以下のようなコメントも出ている。
「東北新幹線 新青森開業/MY FIRST AOMORI」は初めて東北に赴任する若い駅員を通して青森を描くというフレームが秀逸だった。まるで大河青春小説のよう。
全くその通りで、たった30秒×8話=240秒の物語なのに、そうとは思えない観終わった後の満足感。トーキョーを通じて、メッセージの全部がちゃんと伝わってくる。広告の世界では映画と違うから無いのだが、春馬君には、勝手にその年の「広告最優秀主演男優賞」をあげたい。東京から青森へ、東北新幹線に乗って行ってみたくなる。というか、実際、私はこのコマーシャルの影響を受けて、放映された数年後、東北新幹線に乗って新青森駅まで行ってしまった。広告は人の行動変容を起こし得るもの。まさにこのコマーシャルが私の行動変容を起こしたわけで、広告としては大成功、広告冥利に尽きるというものだろう。とにかく、とてつもないインパクトをこのコマーシャルは私に与えたのだ。新青森に行った時は、「春馬君がいたあの駅に!」というよりか、「あの名作CMのあの駅に!」という気持ちが強く、「春馬君が見た景色はこれか?」と言うよりも、「新幹線はこっちの方向から入ってきたのか。」とか、「駅員の皆さんがどこらへんに立ったか?」とか、新幹線CMオタクの観点でしか見ていない。こうなってしまった今となっては、もう1回、「MY FIRST AOMORI」の旅をやり直せねばならないと思っている。コロナ禍が落ち着いたら、トーキョーが最初に勤めていた駅や、彼女と一緒にデートした場所、改めての新青森駅など、このコマーシャルのロケ地巡りをしてみたい。もちろん東北新幹線に乗って。ついでに手には「日本製」を携えて、青森以外の東北各県も併せて周るのも楽しいかもしれない。
「トーキョー」は林檎の花のような人。
春馬君のトーキョー役。どういう経緯で春馬君が選ばれたかは知らないが、最高のキャスティングだったと思う。このトーキョーを演じる男の子は、東京出身という設定だけど、醸す雰囲気が都会派過ぎてもいけない。なぜなら、トーキョーは青森の人に受け入れられて、好かれなければならないのだから。スレてて粋がってる男子ではダメで、素朴さと愛嬌と素直さがあり、青森の色に染まる余地のある男の子でなければならない。また、一方で駅員として、東北新幹線全線開通の時を迎え、将来への希望に満ちた若者を、強く演じる必要もある。春馬君がぴったり過ぎて、他の俳優が演じたら?と想像することさえできない。春馬君は、このコマーシャルを通じて、新幹線の開通に対する皆のワクワク度を格段に上げてくれた、青森の魅力的なところを沢山伝えてくれた。トーキョーに対しては、もう好感しか抱けない。今見返してみると、このコマーシャルの全体のトーンとマッチした春馬君のトーキョーは、この「MY FIRST AOMORI」が広告作品としての優秀さを引き上げるのにも一役買っただろうし、このコマーシャルを見た一般の人たちに、東北新幹線開業というマイルストーン的な出来事を強く印象付けるにも大きく貢献したのだろうと思う。
林檎の花って、こういう花なのね。まるで、トーキョーみたい。
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新幹線の広告はドラマティック。
とてつもなく余談だが、私は10代の頃から「広告批評」という月刊誌の愛読者で、その雑誌の主宰の天野祐吉さんを心の師匠として崇め、また、2013年に天野さんが亡くなるまで、天野さんが朝日新聞にて書いていた「CM天気図」を毎週読むことを楽しみに生きていた、大の広告好きの人間だ。この記事の書きぶりも、春馬君の、というよりも広告オタク要素が強いのはそのせいだ。そして、これは私の勝手な見解だが、広告好きの人間には新幹線のテレビコマーシャル好きの人間が多い。というか、新幹線のテレビコマーシャルは名作が多いので、どうしたって新幹線のテレビコマーシャルを好きになってしまう。新幹線のテレビコマーシャルに名作が多いのも、そもそも、乗客一人一人にドラマがあって、その乗客と共にその人たちのドラマも一緒に運ぶのが新幹線だからで、新幹線はエモいもの。だから、そのテレビコマーシャル自体がえっらいドラマティックになってしまうのは仕方のないことなのだ。とかなんとか、新幹線CM好きとなる理由を色々言うが、とにかく、私はこの広告「MY FIRST AOMORI」が大好きで、この広告に出演したトーキョーのことも大好きだった。
これも新幹線CM好きの私の勝手な考えだが、タレントとしてJRの広告に起用されるって、例えるならば、NHKの朝ドラに起用されるような感じに似ていると思う。すごく重くて大きい仕事。その後の知名度は格段に上がり、タレントとしてのその後のキャリアに必ずや影響を与える仕事。逆に言えば、そういうポテンシャルが高いタレントが起用されるということでもある。若手の俳優がJRの広告に起用されるのを見ると、私みたいな広告好きの人は、「あぁ、この人はこの先ブレイクするんだな。」と思うもので、案の定、新幹線のコマーシャルに起用された他のタレントと同様、春馬君もその後の活躍は目覚ましかった。
新青森駅、開業の日に。
この記事が公開される2020年12月4日は、新幹線の新青森駅が開業してからちょうど10年になる日だ。10年前の今日、駅員の姿の春馬君が、敬礼のポーズをして新聞の広告に載った。朝、新聞を広げてこの広告を見て、少しはっとして、それまでの「MY FIRST AOMORI」のテレビコマーシャルも見てきた私は、「トーキョー。そうか、いよいよか。」と思った。家のどの場所で、どの方向に向かって座って、どの時間帯にこの新聞広告を見たか、その新聞広告の周りの景色も含めて10年経ってもいまだに覚えている。それほどの強烈な印象をこの広告は残した。それまで八戸までは開通していた東北新幹線が新青森まで延伸され、漸く全線開通となった。東北新幹線の全線開通はJR東日本の悲願であったろうし、それが達成されたこの日、万感の思いがするだろうと、この新聞広告を見た時に、勝手にJR東日本の社員の気持ちを想像して涙ぐんだような記憶がある。下のページにも記載があるが、新幹線は社会のインフラであって、東北新幹線の全線開通はそのインフラ完成という社会的、歴史的にも大きな意味を持つ出来事だ。春馬君が新幹線の線路用地の買収交渉をしたわけでも、工事をしたわけでもないけれど、その重要な社会的な出来事に、春馬君が広告宣伝の立場から携わったということは、とても貴重な経験であっただろうし、一連のテレビコマーシャルや新聞広告に出て、新幹線の全線開通を世に印象付けたことは、春馬君自身にとっても栄えある仕事だったのだろうと思う。
▼ 下のページ中ほどに、開業日に新聞に出稿されたグラフィックあり。
▼ フォトグラファーの方のウェブサイト。中ほどに「MY FIRST AOMORI」で使われた写真あり。
それから時を経て、今では、青森から青函トンネルを通って北海道の新函館北斗駅まで繋がり、東京から新幹線で一気に北海道にまで行ける時代になった。新青森駅開業から10年の今日、コロナ禍で盛大とはいかないかもしれないけど、青森ではお祝いイベントが予定されているようだ。トーキョーと一緒に祝えないことが悲しい。真っ直ぐな眼差しで前を見るトーキョー、あの新聞広告を見た日から10年経った今日、大好きな広告を、大好きなトーキョーを、こんな形で振り返ることになってしまったことが悲しくて仕方ない。こんなことにならなければ、きっと私は、今日、新青森駅開業10周年のニュースをどこかで目にして、この「MY FIRST AOMORI」を思い出し、コマーシャルを見直しただろう。「あのトーキョーの新聞広告が出てから10年か。トーキョーは、今や超売れっ子俳優になってしまったなぁ。でも、やっぱりね、そうなると思ってたよ。」なんて、色気を増してカッコよくなった30歳のトーキョーのことを、年の離れた弟の成長を喜ぶ姉の如く、目を細めながら思い浮かべただろう。現実は大きく異なる。
私にとっての、はじめての三浦春馬君。
7月18日、春馬君の訃報を聞いたとき、私の頭に最初に浮かんだのは、この駅員の制服を着たトーキョーの姿だった。数少ない、春馬君と私の接点を過去に向かって辿って行った先にいたのは、トーキョーだった。先にも書いたように、春馬君の演技を見たのは、このテレビコマーシャルが最初だったと思う。そういう意味では、私にとっての「はじめての三浦春馬君」は、この「MY FIRST AOMORI」のトーキョーだったのだろう。春馬君が演じた多くの役の中でも、このトーキョーに関してだけは、これを見た当時の私なりの強い思い入れがある。
「MY FIRST AOMORI」は、私の好きな新幹線テレビコマーシャルベスト5の中にもともと入っていて、そのベスト5は全部が全部好き過ぎて順位は付けられなかったけれど、今となっては、この「MY FIRST AOMORI」がぶっちぎりの第1位だ。それを抜く広告はもう出てこないだろうと思う。この広告のことは大好きだったから、私は10年もの間もこの広告のことは忘れなかったし、時折何度も見返してもきた。トーキョーのことだって忘れはしなかった。東北新幹線に乗ればいつだって、新青森まで行かなくても、この広告を思い出し、頭の中では「林檎の花」が流れ、トーキョーの顔が浮かんだ。しかし、これからは、これまでとはまた違う意味合いが加わって、私はこの広告のことを忘れないし、トーキョーのことも忘れないだろうと思う。トーキョーは、私にとっての「はじめての三浦春馬君」だ。「はじめての三浦春馬君」のことを忘れるはずがない。
さびしがり屋はいつも 僕に笑ってくれた
自分よりさびしい人が これ以上増えないように
そんな君に少しも 気が付けなかったけど
一番伝えたい言葉は”ごめん”じゃなくて
”ありがとう”
槇原敬之「素直」
この記事で、noteからCongratsをいただきました!
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