089 つながる本棚(2)

 紙の本や書店が街からなくなっていく時代に、紙の本での読書を通じて手触りのある交流をつなげていければと考えています。

 先日、「つながる本棚」プロジェクトでインタビューにお伺いした三宅美奈子さん(映画監督)を撮影した大小田直貴監督の映像を見ていると、三宅さんがオススメ本をどれにしようか考えている表情や、心に残ったページを繰るときの指使い、一度選んだ本をこれは違うと戻すとき、、、本や本棚にまつわる行動には、ネット上の書籍や書棚データでは伝えられない思いがたくさんあふれています。

 それは、まちの本屋でも同じですね。決まった本を買うだけなら簡単ですが、どれにしようか惑い、考え、探し、語る、、、そんな大切な時間を残しておけないかなぁと思っています。インターネットやスマホに代表されるITコミュニケーションツールも必要ですが、紙と印刷、言葉、交流ってコミュニケーションの基本ですよね。それに、目の前で迷うことも。ワンクリックで簡単に個人的な激情を世界に公開してしまわないためにも。

 我々人類がここまで到達できたのも過去の遺産を継承できる本があってこそ。。。現在の深く・複雑な分断を見ていると、その「ここ」が問題なんだということもいえますが。

 でも、世界が今後も継続していくためには人と人の交流が必要で、そのためのかけがえのない場所が「まちの本屋」であり、「まちの映画館」だったりするのではないでしょうか。(なぜか哀願調になってますね。。。)

 日本の書店はこの20年ほどで半分くらいに減っています。同様に減る一方だったアメリカでも、最近少し増えているという記事を読みました。カフェや朗読会、読書会、展示など交流スペースが一緒になった個人経営の書店が見直されているそうです。

 九条Tokyoは書店ではありませんが、そんな交流点(店)の一つでありたいと常に思っています。

 そして、そんな思いから始めたのが『つながる本棚』プロジェクトです。

#1 本棚が語りかけることは、実に多彩で慈悲深い
 本棚に並べられた一冊一冊には無数の本の中から選ばれた固有のストーリーがあり、その並べ方にもこだわりがあるはずです。それを見たい、という単純な興味と、この広い世界のどこかに同じ本を大切に本棚に並べている人がいる、そんな奇跡を目の当たりにしたくて、ボクは「つながる本棚」というプロジェクトをはじめました。
 紙の本や、まちの本屋が消えていこうとしている時代だからこそ、今しかないと思ったのです。

 でも、そんなきわめてプライベートなスペースを公開してくれる人っているのだろうか。最初に思い浮かんだのが、友人の河村でした。先日、その約束が果たされることなく突然逝ってしまった彼の本棚を、初めて覗かせてもらいました。

 カントや論語注釈など哲学書やビジネス書に並んで、ボクが今まさに読んでいた『教養としての「地政学」入門』や『人新生の資本論』がありました。大きな喪失感に打ちのめされていたボクは、彼の本棚に癒される思いがしました。

 数少ない文庫本の中に、中島敦の『山月記・李陵』がありました。ボクの大好きな一冊を見つけることから、この本棚をめぐる旅は始まりました。
(➡ この稿については、086「つながる本棚」で書きました)

#2 内に秘めた激しさが、ふつふつと湧いてくる小説や詩が好き
「わたし、読んでいて映像が浮かんでくる作品が好きなんです」
 という三宅美奈子さんは映像作家です。最新作「Dal Segno」(2021年)はパンデミックで街に出ることを制限された現代社会を覆う閉塞感を彼女らしいタッチで描いた短編映画です。

 彼女の本棚には、映像関連に混じって若い歌人の歌集が何冊も。
「たった三十一文字の中で、ここまで自由に表現できるのかと。ギリギリまでチャレンジしているところが面白いなぁと思っています」
 若い世代の歌人たちの自由な表現に触発されているのでしょうか。

 同世代の女流作家に混じって、谷崎潤一郎や安部公房、辻邦夫なども。どれも読んでいて映像が浮かんでくるそうです。

 たくさん並んだ本の中に中島敦『山月記・李陵』も。
「高校時代の教科書に載っていて、ちょっと衝撃を受けました。その時は難しいなぁと思っていたのですが、大人になってから何回も読み直しています。人にすすめて貸したりして、何回も買い直しているんですよ」

 無理を承知で今だからこそ読んでほしいおすすめを3冊あげてもらいました。
「水沢なおの詩集 『美しいからだよ』 に、[私を戦わせて]というのがあります。女性の内に秘めた激しさがふつふつと湧いてくるような小説や詩集が好きです」

◆三宅さんが選んだ「今こそ読んでほしいオススメの3冊」
①金原ひとみ『アンソーシャル ディスタンス』
②小林秀雄『モオツァルト・ 無常という事』
③水沢なお『美しいからだよ』

◆インタビュー動画はこちらから (大小田直貴監督作)
https://youtu.be/xTFpVNR22Vo

★「つながる本棚」シリーズ★は、本棚の写真を撮らせていただきながら、読書や本棚についてお聞きする連続インタビューです。
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①#つながる本棚(SNS上) でインタビューの一部を紹介
②九条Tokyoの店内に撮影時の本棚写真
③店内ミニ図書館にオススメの3冊を常備
④取材時のインタビューが動画で (大小田直貴監督 撮影・編集)
 *動画は全員分ではありません
⑤ある程度まとまったら、インタビュー記事全文と本棚写真が掲載された書籍の刊行を予定(来年初旬)
 *10月か11月に高山市に取材に行く予定ですので、それが終わるまでお待ちください。それに、前著『足はいつだって前を向いてるじゃん』がもう少し「はけない」と置き場所に困りますので。
『足はいつだって前を向いてるじゃん』 のお求めは
https://kujotokyo.stores.jp/

⑥よかったら、あなたの本棚写真とオススメも「#つながる本棚」でアップしてみませんか。

 紙の本や書店が街からなくなっていく時代に、紙の本での読書を通じて手触りのある交流をつなげていければと思っています。
 私の本棚も取材に来て~、というのも大歓迎。すべてにお応えできるわけではありませんが。。。

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