クリスマスと夢の後ー真澄編ー
「……これは不味いわね」
項垂れる男を目の前にして、私はそう呟いた。
この悲壮感溢れる男の名前は「江藤真澄(ますみ)」。29歳、独身、彼女無し、至って普通のサラリーマンである。項垂れ、溜息をつき、デパートの商戦に上手いことほだされ、来たるクリスマスを孤独に迎えようとしているのだった。
私は真澄の幼馴染であり、家も隣で、それはまぁ仲良しだった。家族ぐるみでの付き合いもあったし、恋の悩みを相談する仲でもあった。高校の頃に付き合う付き合わないだのと一悶着起きた事もあったが、それは遠い昔の話である。別の大学に進学してからはお互いに恋人も出来、それなりに順風満帆な人生を送っていた。
しかし、どうやら半年程前に別れたらしいと噂を聞きつけた。私はあの手この手を使って真澄に彼女を拵えようと要らぬ手を差し伸べて後押しし、初めこそ乗り気では無かったが次第にやる気を見せ、秋を前にしてある女性とデートに漕ぎ着けたのだ。それから数回のデートを重ね、順調に交際への道を歩んでいた。
だが・・・・・・だがしかし、である。
事もあろうにこやつはクリスマスイヴのディナー中に別れを切り出しやがったのである。いや、そもそも付き合う前段階なのに別れも何も無いし、私もその子もお口ポカーンである。店を予約したのはいいものの、何故か気もそぞろで、その子の方から
「何か話したい事でもあるの?」
と言わせる始末。きっとその子は告白してくれるものだ、と考えていたはずだ。しかしその思いとは裏腹に、付き合ってもないのに別れを切り出されたものだから怒るのも無理は無い。高いヒールを響かせ振り返る事なくレストランを出ていった。店内にはクリスマスソングが楽しげに流れるばかりで、寂れた商店街ですらもう少し活気を感じれるかもしれない様子に様変わりした。そそくさとレストランを後にした真澄の背中は小さく、道行く人が振り返るようなどこか陰鬱とした雰囲気を醸しだしていた。
自宅に戻った真澄は重労働をした後みたくベッドに沈み込み、暫くの間うんうんとうなされ、起きて来たのは日付が変わる前。
のそりとベッドから体を引き剥がし、押入れから可愛い紐と包装紙でラッピングされた箱を取り出した。けどよく見れば凹んで破れている所があるし、どこかで見た様な気もする。それを手に私の家に向かってポツリと呟いた。
「・・・・・・ごめん夢・・・・・・ちゃんとあの時聞いてれば・・・・・・俺たち・・・・・・こんな風になってなかったよな」
真澄の目線の先にある私の部屋に明かりは点いていない。
あれ? そう言えばいつから私は真澄の部屋にいるんだっけ? いや、そうじゃなくて・・・・・・なんで真澄の部屋にいるんだっけ?
いつもの様に真澄の家に行ってそれで・・・・・・どうなったんだっけ。