地下鉄
高校二年の夏、友達に連れられ茹だる暑さの街中を歩き回り、無駄に冷房の効いたビルを行き来したせいもあって気分が最高に悪くなっていた。
元はと言えば私が買い物に行きたいと言い出したのだが、途中で話題のジュースを手に入れる為、炎天下の歩道で待っていたのも良くなかった。案の定日射病にかかり、買い物は中断。涼しい店内で休んだおかげである程度回復したものの、友達と帰る方向が逆だったので一人で帰る他なかった。更に運の悪い事に、帰宅ラッシュに出くわし優先者席に座る事も出来ず、満員電車の出入口にべったりへばりついていた。
最寄駅から街までは六駅と割りかし近く十五分程で着くのだが、一駅一駅が倍以上の長さに感じ、ただただ駅に着くのを待っていた。五駅目で乗客が数人入れ替わり、発車してトンネルに入ってすぐのことだった。
前駅で出て行く人の方が多かったのか、ドアと体の隙間に若干の余裕が出来ていた。あと一駅ならなんとか頑張れる、と気合いを込める意味も兼ねて大きく息を吐いて顔を上げた。
自分を見つめる男性の顔が、ガラスに反射して映っていた。
トンネルに入り外側が真っ暗になると、内側の様子がガラスに反射する。時折トンネル内の灯りで見えなくなるが、内側を反射する度に男性の顔がガラスに映り込んでいた。初めのうちはただ外を見ているだけだろうと思っていたが、目線が下にあると気付いてからは余計に冷や汗が止まらなくなった。
後ろに立っているこの男は間違いなく私を見ている。自分の体調が悪いから勘違いしているんだと思い込もうとしても、ガラスに写っているこの男は私を見ているという事実に凍りついた。
それまであった汗や胃の気持ち悪さとは別の、もっと粘ついたものが全身を包み込む。
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