人殺す小説(冒頭)
「助けてください、このままじゃ私……人を殺させそうなんです!」
と、交番に駆け込んで来たのは自称小説家の田島佳奈という引きこもりだった。
一応は本名という話だが、身分証明書が持って無いので確かめようもない。それになんと言ったか……
「殺したんですか?」
「違うんです!殺させそうなんです!」
「殺しそうではなく?あなたではなく他の誰かが、誰かを殺しそうって事ですか?」
「さっきからそう言ってるじゃないですか!なんで分からないんですか!?」
それはこっちの台詞である。これだから引きこもりは、とは顔に出さない様に気をつける。
「……どういう事か教えて貰っても良いですか?」
小説家ならもっとまともな説明をして欲しいところだ。これが自称小説家……もとい引きこもりなのだろう。
とりあえず話を聞くとこの度小説を書き終えたのだが、誰もにも見せない内に処分するつもりだったと言う。しかしその小説を担当が勝手に持って行ってしまった。
そして問題はその中身だとか。
「それで読み終わると人を殺してしまう衝動に駆られると……間違いないですか?」
「そうなんです」
担当は勿論出版社に電話しても誰も出ないし、もしかしたらもう読んでしまったかもしれないから困って交番に来た。
「……そうですか……そうですね、とりあえずこれに息吹きかけて貰っていいですか」
「酔ってないです!」
「念の為なので。深く考えずにお願いします」
「飲んでないです」
一悶着ありつつも検査する事には成功した。しかし、ほんの少しも反応は無い。飲んでいないのは間違いないようだ。何やら視線を感じるが無視する。酒ではないとして感覚的にクスリの類ではない。となると純粋に……
「分かりました。こちらから調べておきますので、再度お名前ご住所等お聞きしても良いですか」
「ちゃんと調べてくれるんですか?本当に洒落にならないんですよ」
「はい、本官が責任を持って調べさせて頂きます」
「……」
名前は同じく田島佳奈、住所はここから徒歩5分圏内。職業は……一応無職としておこう。出版社は聞いた事のあるようなないような、大手とも言い難いところだった。念の為電話を掛けてみるが、なるほど彼女の言う様に繋がらない。
「繋がらないようなので、また時間をおいてかけておきます。進展あり次第か明日連絡しますので」
と帰そうとした時、電話が鳴った。