私たち一人一人が生ける教材
以前
記事の中でも紹介した
教師であり
宮司でもあるO先生。
先生が
他校へ異動した後も
息子は
先生を慕って
度々親友と
先生の自宅兼神社を
訪れていました。
一年前
ある有名な宮大工に
出会うことが出来たのも
先生との出会いが
あったからこそ。
息子は
先生への
感謝の気持ちを
こんな形で
表現していました。
それは…
手作りの鉛筆立て。
その息子からの贈り物を
先生はとても喜んでくれて。
その時
こんなお願いを
してきたと言います。
「先生さ、
たくさんペン持っているから
もっと大きいものを
もう一つ作って欲しい」と。
息子が贈った鉛筆立ては
指物という
手法で作ったもの。
指物とは、
釘を使わずに
ホゾや継ぎ手で木材を組んで、
外側に
組み手を見せない
細工を施すこと。
手の込んだ
作業の後は
綺麗に隠れてしまい
見えなくなってしまいます。
「こんなに頑張ったのに
この一番凄いところが
見えなくなるなんて
何だか勿体ないね」
私がそう言うと
「そこがいいんだよ」
息子は
誇らしげに言いました。
まるで
家の基礎や
木の根、
空気みたいだな
と思いました。
どれも
目に見えないけれど
とても大事なもの。
優しさや愛、
感謝の気持ちもそう。
大事なものは
どれ一つのして
目に見えない…
息子が
先生に贈った鉛筆立ては
苦労の末に
ようやく
完成させたものでした。
だからこそ
先生に喜んでもらえて
嬉しかったでしょうし、
嬉しかったからこそ
さらに大きいものを
もう一つという
先生のお願いにも
即、承諾したのでしょう。
それから
作業場にこもり
黙々と木と向き合う日々が
続きました。
時には
作業場から
ため息のような
落胆のような声が
聞こえてくることもありました。
一日の終わりに
浮かない顔で
作業場を後にすることも
ありました。
何度も何度も
失敗を繰り返し
4月の終わりになって
ようやく
満足のいくものが
出来上がりました。
早速先生に連絡をして
5月の始めに、
友だちと
届けに行きました。
その日は
朝から青空が広がり
とてもいい天気でした。
10時の電車で出掛け、
家に戻って来たのは、
夕方6時過ぎでした。
ちょうど
先生の住む街は
年に一度のお祭りの時期でした。
そんなこともあって
先生に会った後に
お祭りにでも行って
楽しんできたのだろうと
思っていました。
そしたら…
ずっと
先生のところにいた
というのです。
お昼をご馳走になり
その後に、
薪割りを手伝ってきたのだと。
なんとバイト代も
ちゃんと貰ったようで。
「お昼ご馳走になった後にさ、
『薪割り手伝ってくれない?』
って言われてさ、
さすがに断れないよね」
そう言いながら
息子はとても嬉しそうでした。
「薪割り機があったけど
俺は
斧でやってみた」
最初は
力任せにやっていて
うまくいかなかったけれど
何度かやっているうちに
ただ振り下ろせばいい
ということが分かったのだと
言います。
実は私の実家も
薪ストーブなのですが、
薪割りは
大きな機械を使っていて
息子が手伝うのは
いつも
薪割りではなくて
薪運びの方でした。
薪割り
しかも
斧を使って薪を割るのは
初めての経験でした。
その日
息子の靴下を
手洗いしたら
水が
みるみるうちに
茶色に濁って。
濁りがなくなるまで
随分と時間がかかりました。
たくさんたくさん
働いてきたんだな…
そう思いました。
息子の身近に
こんなにステキな大人がいる
そのことが
嬉しくて有り難くて…
胸がいっぱいになりました。
この日は
ゴールデンウィーク真っ只中で
しかも
お祭り期間中でもあったので、
お昼を食べに
連れて行ってもらった
近所のお店は
長蛇の列だったのだそう。
でも、
先生が前もって
予約をしてくれていたおかげで
すぐに席に着くことが
出来たのだと言います。
先生は、
この日会いに来た息子たちに
お昼をご馳走することを
最初から
決めていたのでしょう。
息子たちに
お昼をご馳走して
薪割りを頼み
働いた代償として
バイト代を支払う。
全てを。
そもそも
息子に
大きな鉛筆立てを
お願いしたのも
(もちろん、本当に
欲しかったのかもしれませんが)
宮大工になりたいという
息子の夢を思ってのことに
違いなくて。
自らが生ける教材でありたい
いつか
先生が
そう話していたことが
ありました。
先生は
学校だけではなく
こうして
日々の暮らしや
自分の生き方を通して
子どもたちに
大切なことを
伝えているのでしょう。
教師であり
宮司であり
サッカーのコーチであり
父親であり
旅や自然を
こよなく愛している
そんな一人の大人として
未来を生きる
子どもたちに…。
自分のやりたいこと
好きなことには
とことんこだわって
人に頼るところは頼って
いきいきと楽しく生きている…
そんな先生のことを
息子は
ステキだなと
感じているようです。
ふとした時に
会いに行ける、
会いたくなる、
そんな大人が、
身近にいるということは
本当に幸せなことだなと
思います。
きっと息子は
先生をはじめ
親以外のたくさんの大人から
こんな風に
人生で大切なことを
学んでいるに違いなくて。
親だけでは
出来ないことが
たくさんあります。
改めて
先生との出会いに
感謝したいと
思いました。
と同時に
私もまた
誰かにとって
生ける教材なのかもしれない…
そう思いました。
私が精一杯生きる姿が
幸せに生きる姿が
誰かの生きる力となって
未来に続いていくのだとしたら…
この命を
子どもたちのために
日本のために
世界のために
精一杯輝かせていきたい…
そう強く思いました。