その価値観を手放した時、ずっとそこにあった宝物に気付いた…。
悩みが生じた時、
今握りしめているその思いを
一度手放してみる…。
世界を俯瞰して見た時
ああ、私は
この思い込みや偏見、価値観によって
苦しんでいたんだなと気付く…。
そして、
さっきまでの
イライラや不安は消え
そこには
軽やかなまでに
素晴らしい世界が広がっている…。
さて、
学校の夏休みが終わり
小中学校のボランティア活動が
再開しました。
2学期最初の活動は
小学校3年生の習字学習支援でした。
その日は
夏休み前に持ち帰った習字道具を
まだ持って来ていない子が
大勢いたので
急きょ
教科書やプリントを使った学習に
変更になりました。
1学期は
比較的穏なクラスでしたが、
この日は、
開始の挨拶が終わっても
席を立ち、
大騒ぎしている子が
2、3人いて、
教室の中がざわざわしていました。
こんな風に
誰か一人の言動によって
まるで化学変化が起きたかのよう
クラス全体の雰囲気が
がらっと変わることは
よくあることではあるのですが…。
先生の注意も
この日は
全く効き目がありませんでした。
学校モードに
切り替えられないのか…
それとも
これが本来の姿なのか…
それとも
原因はもっと別なところにあるのか…
想像するには
私はあまりにも
子どもたち一人一人のことを
知らなすぎました。
どうしたものか…。
戸惑いながらも
私は少し
イライラしてきました。
そんな自分に気付き、
はっとして、
すぐに乱れた心を
落ち着けました。
一番目に付いたのは
一番後ろの席のH君でした。
私はH君の側に立ち
そこから
しばらく様子を
見守ることにしました。
先生は
最初こそ注意をしましたが
あとは、
授業を進めていきました。
H 君の様子をしばらく見ていて
あることに気付きました。
大騒ぎして
授業を妨害しているように見えて
実は先生の言葉に
しっかり反応しているのです。
気持ちは授業に向いている…
きっと大丈夫…
そう思いました。
「プリントに
日にちと名前を書きましょう」
先生が言いました。
なかなか書かずにいるH君に
尋ねました。
「あれっ、
今日って何日だったっけ?」
すると、H君は
俺はちゃんと知っているよ
とでも言うように
「○○日だよ」
と得意気に日にちを書き始めました。
その日の学習は
右はらい、左はらいといった
『はらい』の学習でした。
先生の指示に従って
H君もプリントに
書き込みを始めました。
この頃には
立ち歩いたり
大声をあげることが
だいぶ少なくなっていました。
また、H君の言葉から
H君が授業の内容を
良く理解していることも
分かりました。
習った漢字も
ちゃんと使っていました。
その中には
少し難しい字もありました。
私はそのことを褒めました。
プリント学習の後半に
先生が言いました。
「『はらい』のある字を
思いつくままに書いてみましょう」
H君は、
おもむろに机の中から
国語の漢字練習帳を取り出して
その中から
『はらい』のある漢字を
必死に探し始めました。
先生としては
自分で考えて
書いてほしかったのかもしれませんが、
これも一つの意欲の表れとして
大切にしたいと思い
その姿をそのまま
受け止めることにしました。
さて、H君は、
見つけた漢字を
次々に空欄に書き込んでいきました。
あっという間に、
空欄は埋まりました。
しばらくして、先生が
「どんな漢字がありましたか」
とみんなに尋ねました。
次々に手が上がり
それぞれ思いついた漢字を
発表していきました。
その都度、
先生は黒板にその字を書き、
『はらい』の部分を○で囲みました。
H君も
手を挙げて発表しました。
H君は、
自分が書いた字の中でも
一番画数が多い
「祭」という字を発表しました。
先生は
「祭」の『はらい』の部分を
○で囲みました。
「祭」には、
『はらい』が3カ所もありました。
「たくさんはらいがあったね」
私はH君に言いました。
実はH君の名前の中にも
『はらい』のある漢字が
2文字もあったのですが
本人はそのことに
気付いていないようでした。
「H 君の名前の中には
『はらい』のある字が、
2つもあるんだね」
私がそう言うと、
H君は自分の書いた名前を
驚いたように眺めました。
そして、
さっき書き込んだうちの2文字を消して
自分の名前の漢字に書き替えました。
そうして
誇らしげに
プリントを眺めました。
いつの間にか
立ち歩くことも
大声を上げることもなくなっていて
みんなと一緒に
楽しく授業を受けていました。
すぐに気持ちを
切り替えられなかっただけで
H君の中には
好奇心や意欲
キラキラした宝物が
あったのです。
授業は静かに受けるべき
みんなに迷惑をかけてはいけない
そんな思い込みや偏見を
一旦手放して
その子の姿をまるごと受け止め
気持ちに寄り添っていった時、
そこにずっとあった
素晴らしい宝物に
気付くことが出来ました。
それは
思い込みや偏見に縛られた世界にいたら
きっと見つけられなかった宝物。
本当はどの子もみんな
キラキラした宝物を
持っているのですね。
H君のように。
一人一人の心の中にある
大切な宝物が
キラキラと輝いていったら
ステキだな…。
そして、もしも、
これから先、
誰かの大切な宝物が
輝きを失っていることに気付いたら
その輝きを
覆い隠しているもの、
その痛みや傷に、
思いを寄せてあげられたら…
そんな風に思います。