麻酔無しの虫歯治療は拷問だった話
ある日、歯が痛くなった。
「気のせい、気のせい」とセルフ催眠をかけながら日々を過ごしていたが、遂には素人催眠では誤魔化せない痛みに。
もうどうにもならないので腹を括り歯医者に行くことにした。
歯医者に行くのは小学生ぶりぐらい。
一般的に歯医者は「恐ろしい」と認識されることが多い場所。
しかし私は久しぶり過ぎて歯医者の怖さを忘れていた。
そのうえ病院は明るくて綺麗だし、受付のお姉さんは可愛くて愛想が良いし、なんかもう美容院ぐらいのテンションである。
その油断が命取りになるとも知らずに。
診てもらうとやっぱり虫歯があった。2本も。
1本は軽度な虫歯だが、痛みを感じていたもう1本の方は結構進行している虫歯のよう。
それでなんやかんやあって進行している方の虫歯から治療することに。
虫歯治療において最初にしなければいけないもの。
そう、麻酔である。
先生も当然の如く麻酔を準備を進める。
しかし、ここで私は思い出す。
子供の頃に虫歯治療をしていた時のことを。
歯茎に麻酔の注射を打つの時の痛みと恐怖。
薬が注入される時のとてつもない不快感。
私は麻酔に対する恐怖に震えた。
虫歯治療ではなく只々麻酔に恐怖した。
そして口から自然とこの言葉を発していた。
「先生、僕麻酔いらないっす。」
それを聞いた先生は一瞬意味がわからなかったようで「え?」と言って動きが止まった。
今なら先生の気持ちがわかる。こいつ何言ってんだ?と思ったと。
そしてその直後全力で反対してきたのである。
「いやいや!神経も近い場所ですし絶対麻酔した方が良いですよ!」
しかしこの時の私は麻酔に対する恐怖しかなかった。
「大丈夫です!僕いけるんで!」
馬鹿の天才は紙一重と言うが、私は完全な馬鹿寄りの人間だったようだ。
そして地獄の虫歯治療(自業自得)が。
先生は「痛かったらすぐ手をあげてくださいね」と念押ししてくれたが、それに対して私は「はいは〜い」ぐらいのニュアンスで返事をしていた。
馬鹿は死ななきゃ治らないとはよく言ったもである。
そして遂に治療が始まる。
あの嫌な音がする機械が口の中に入り、歯に当たり始めると…
脳内に閃光走る。
感じたことのない痛み。
脳に直接響くような鮮烈な痛み。
それがコンスタントに連続で訪問してくる。
もうパニックである。
「え?なにこれ?え?なにこれ?」
脳内は既に壊れかけのレディオであった。
あまりに痛いから身体がずっとブルブルとナチュラルに痙攣する
これがマナーモードの原理か。
しかし、私は手を挙げなかった。
そう、可哀想なことにやはり私は馬鹿だったのだ。
そんな危機的状況にいながら「麻酔いらないって大見栄を切ったのにここで手を挙げたらダサい!」と思っていたのだ。
当時はそれを「試合に負けて勝負に勝つ」ことだと思っていた。ただそれはまごうことなき過ちだった。
それは勝負ですらなかったのだ。
完全なる一人相撲。それも土俵外で。
「麻酔はいらない」
そのあまりに愚かな言葉を吐いた時点で私は負けていたのだ。
その後も治療は続き、やたらプルプルする患者だと思われながらもなんとかその歯の治療を終えた。
「やった…やったぞ!私は私は生き延びることが出来たんだ!」(※歯医者)(※負けてる)
そのような晴れ晴れとした気持ちで歯医者を去った。
後日、2本目の歯を治療しにまた歯医者を訪問した。
私「先生お願いします」
先生「今回は麻酔はどうします?前回が大丈夫なようでしたら今回の方が軽度なので痛みは少ないと思いますが…」
私「え…?」
先生「麻酔、します?」
私「全然いらないです」
そして私は再び拷問椅子に腰掛けるのだった…
この体験から何を学んだかと言うと…
見栄っ張りと拷問は相性が悪いということ。
皆様もこのことは是非今後の人生に活かしてほしい。
では