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残業中、社畜が幽霊に文句言った話

かつて私が働いていた職場はホーンテッドオフィス。
なんか聞こえたり見えたりするエンターテイメント性に富んだ職場だった。

或る日のこと。
私は上司と残業をしていた。時間は22時過ぎ。
オフィスには私と上司だけ。他のフロアの人達も全員帰宅。
会社に残っているのは私達2人だけだった。

仕事の目処も付いたのでそろそろ帰ろうかと思っていたその時、


「うぅぅ…あああぁ…」

上から男の呻き声が聞こえてきた。


当然、上の階にはもう誰もいない。
というか上の階の声が下まで聞こえてくるはずがない。

「マジか」と思って上司の方を見ると、上司も「マジか」と言いながらこっちを見てた。

目と目が合うその瞬間に生まれたのはトキメキではなく恐怖。
「ぎゃ〜怖ぇ〜!」と言いながらその日はそそくさ逃げ帰った。



それから数日後。私はまた残業をしていた。
今回は隣の部署の先輩も残っていた。
他のフロアは全員帰っていたので今回も2人きりの残業。

先日の呻き声の件は翌日上司と一緒に「もうわかったから」と言われるぐらい会社中に言いふらしまくっていたので、その先輩も幽霊の件は知っている。


先輩「お前と一緒に残業するのやだよ。なんかまた何か出そうじゃん」

私「そんな簡単に出ませんよ。それともフリですか?笑」
なんてキャッキャしてたら


「うぅぅ…あああぁ…」

また出た。


先輩は!?聞こえた!?
ああ…その表情絶対聞こえてるわ。

そして情緒が混乱する先輩。
「おい!ふざけんなよ!ホントに出たじゃねぇか!お前もう怖ぇな!」
と怒りの矛先をぶん回す先輩。

ひとしきり情緒ぶん回した後、先輩は私に対してこう言った。
「もう早く帰ろう!」と。

うむ、この状況下に於いて至極真っ当な提案である。

しかし私は即答出来なかった。

なぜならこの仕事を今日中に終わらせたかったから。


逡巡した結果、私は先輩の「マジかよ…」という言葉を背に受けつつ1人で残業を続けることに決めた。

幽霊は怖いっちゃ怖いけど遭遇したところでどうなるかわからない。
けどこの仕事を終えることができなかったらどうなるかは明確に想像出来る。
それは幽霊より遥かに怖かった。

社畜は霊をも恐れぬのだ。


その後、声は定期的に聞こえてきた。
それどころか「ぎぃぃ…ぎぃぃ…」と何かを引きずっているような音も追加演奏してきたので、これはもうアトラクションか何かと言っても過言ではない。

それに対して私は恐怖を感じていた。

が、次第に鬱陶しくなってきた。

嫌々宿題やろうとしてるのに、その横でオカンが掃除機かけ始めたあの「あー!もう!」感。

そのイライラは当然幽霊に向けられ、私は幽霊は愚痴を言うようになった。


「人の邪魔して楽しんすか?」

「あ〜あ〜う〜う〜好き勝手喘いでいいご身分ですね」

「はよ帰らせたいなら静かにしててもらえます?」


こんなことを幽霊に語りかけていた。
側から見れば誰もいない部屋で1人ブツブツ言ってる私の方がヤバいと思われるかもしれないが、社畜とはこういう生き物なのだ(語弊)

そうした熱く静かな戦いの結果、私は無事残業をやり遂げた。
呻き声は気が付いたら聞こえなくなっていたから判定は私の勝ちとしていいだろう。

社畜として非常に誇らしい勝利を収めた。


後日、会社に行くと先輩がその時の話に尾ひれはひれ付けまくってて、何故か私が幽霊を召喚したことになっていた。

そして、幽霊に喧嘩売ってしまったからか、その後も何度も霊的イベントに遭遇することになってしまったがそれはまた別のお話。


まぁ何が言いたいかというと
幽霊じゃ社畜は止められねぇということです。
※諸説有り。
※むしろ諸説しかない。
※たぶん止まった方がいい。

なにわともあれ、さぁ、皆さん!今日も明日も明後日も頑張って社会の歯車になりましょう!


というわけで社畜ホラー小説を置いておきますね。

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