苦しくて、切なくて、痛くて、どうしようもなく愛おしい「アンメット」の主成分は愛だった。
このページを開いてからもう何度
書いて消してを繰り返しただろう。
心が揺れるドラマに出会うと、私は
いつも嬉しさと同時に切ない感情に
襲われる。それは、最終回が来る
寂しさを感じてしまうからだ。
最終話が見たい、でも終わって
欲しくない。「アンメット」は
まさにそんなドラマだった。
月曜22:00~放送されていたカンテレ
制作の連続ドラマ「アンメット」。
モーニングで連載中の漫画が原作で
元脳外科医の原作者が綴るリアルな
世界観が人気の作品。原作では、
脳外科医の三瓶友治が主人公だが、
今回のドラマでは記憶障害を持つ
医者・川内ミヤビが主人公として
描かれた。
主人公・川内ミヤビを演じたのは、
フジテレビ系ドラマ初主演となる
杉咲花。第40回日本アカデミー賞
では、最優秀助演女優賞と新人
俳優賞をダブル受賞した実力派。
朝ドラ「おちょやん」でヒロインを
務めるなど国民的俳優として圧倒的
実力を誇っている。
マイペースで変わり者の脳外科医・
三瓶友治を演じるのは、狂気的な
殺人鬼から繊細な尽くし系まで幅
広い役をこなす実力派の若葉竜也。
杉咲花とは「おちょやん」をはじめ
「市子」でも共演してきた戦友と
言っても過言ではない。
そしてミヤビが脳外科医を目指す
きっかけとなった恩人・大迫教授を
演じるのが、コメディ作品から、
シリアスな作風まで、様々な役を
こなし、出演作品が途切れることの
ない名優、井浦新。
これだけで、かなり豪華な共演にも
関わらず、千葉雄大、岡山天音、
生田絵梨花など、実力派俳優が多数
揃ったこの「アンメット」という
作品は案の定とんでもなかった。
とんでもなさすぎて、何がとんでも
なかったのか上手くまとめることが
出来そうにないのが悔しいけど、
この視聴後の感動をどうにか残して
おきたくて、見切り発車で、思いの
ままに書き綴って置こうと思う。
【アンメットのここが凄い】
①杉咲花の浸透力
この作品に関する投稿を見ていると
大抵が三瓶先生や脳外科の周りの
医者に関する投稿でミヤビに関する
投稿はそこまで多くなかったように
思える。これってかなり凄いと思う。
だって杉咲花が演じるミヤビは、
毎日記憶がリセットする役どころ。
普通ならミヤビに全部の思考を
持って行かれると思う。だけど、
ミヤビが三瓶のことをいきなり
忘れてしまったときも視聴者は、
「三瓶先生これは辛い…」と
三瓶先生の方に感情移入したはず。
もちろんミヤビ側には忘れている
感覚はないから、忘れられた側の
三瓶先生の立場に立ってしまう
心理も関連しているとは思うが、
それ以前に、杉咲花の自然な演技が
視聴者の視線を外側に向けさせて
いるように思えた。記憶障害という
病を抱えている存在でありながら、
このドラマはそのミヤビを通して
周りの人物の心情を描いている。
杉咲花が演じるミヤビという役柄は
主役でありながら、最も輝いていた
脇役だったと思う。これは並大抵の
演技力では実現できないものだと
思う。あと全然関係ないけど、
杉咲花ちゃんのご飯の食べ方がどう
考えても美味しそうすぎる。あれも
並大抵の実力じゃないよ、絶対()。
②若葉竜也の目
このドラマの若葉竜也はもれなく
とんでもないけど、個人的に一番
とんでも竜也(?)だったのは、
第6話だと思う。
井浦新演じる大迫教授から、予防
投与として、抗てんかん薬を処方
されていたミヤビ。それを知り、
ある疑念が浮かんだ三瓶先生が
大迫教授に詰め寄るシーンがある。
三瓶先生はあくまでいつも通りの
口調で話しながらも、声はやや震え、
目の奥には鋭い怒りを見せていた。
殴り掛かるわけでも、怒鳴りつける
わけでもなく、いつものトーン、
いつもの冷静さなのに、心の底から
憤っていることが伝わるその表情と
雰囲気に飲まれた。
若葉竜也の目は凄い。大迫教授に
詰め寄るときの憤りに満ちた目、
ミヤビが発作を起こしたときの
心配そうな目、ミヤビの記憶が
持続していたときの嬉々とした目。
表情全体で見れば大差はないのに、
目だけでそのときの感情が分かる。
若葉竜也、さすがにテレパシー
使えるんじゃないか本当に。
これで俳優って職業は食いぶちって
言えちゃう若葉竜也、さすがにもう
週刊少年ジャンプの主人公やん。
③千葉雄大・野呂佳代のバランサー力
このドラマに欠かせなかった存在
ツートップは間違いなく千葉雄大と
野呂佳代だったと思う。
何せ、私の中で千葉雄大は青春を
彩ってくれた俳優の1人。黒の女
教師ではクラスのトップに君臨し、
水球ヤンキースでは切ない恋をする
チームのムードメーカー、学校では
「昨日千葉雄大出てたドラマ見た?」
で何度助けられたか分からない。
そんな千葉雄大が、今回演じたのが
星前先生。いつも穏やかな雰囲気で
張り詰めているミヤビを笑顔にして
くれたり、綾野先生への対抗心で
我を忘れそうになる三瓶先生を
制したり、ミヤビの状況が深刻化
したとき空気を和ませるバランサー
としての役割を果たしていた。
そんな星前先生が、全科専門医
レベルの知識を持ちたいという
告白した第5話。だが、三瓶先生は
「少なくとも脳外科では無理」と
その目標を強く否定する。普段は
穏やかな星前先生がこの時ばかりは
憤りが隠せずにいた。
その後、ミヤビと昼食を取っていた
星前先生がなぜ自分が無謀な目標を
持つようになったのかを話し始める。
それは体調を崩した母が、病院に
行ったものの、色んな科をたらい
回しにされて、半年後に多発性
骨髄腫のステージ3だったことが
分かったというものだった。目に
涙を溜めて、声は震えながらその
ときの悔しさを語る星前先生は、
「だから僕は」に続くセリフを
詰まらせ、そのシーンはそのまま
本編で採用された。
ドラマでは基本的に、噛むシーンは
存在しない。でも、よく考えると
それって不自然なのかもと思う。
悔しいこととか、嬉しいこととか、
感情が昂ぶったときに口が回らなく
なることって現実には往々にして
ある。あのシーンは、千葉雄大が
噛んだのではなく、感情が昂ぶった
星前先生が噛んだのだと思う。
それは、普段穏やかな星前からは
想像もつかない熱の入り方で、
そのことが分かるコントラストと
しても効果を持つ素晴らしすぎる
シーンだった。
そして野呂佳代が演じた成増先生。
いつも明るくミヤビを気に掛けて
くれる存在で、最終話は特にその
存在が光っていた。
ミヤビの状態が目に見えて悪くなり
脳外科自体も心なしか神妙になる。
そんな中、星前と成増はいつも通り
変わらず笑顔で居続けた。
こういう存在がいないと皆気持ちを
保てない。自分たちだって苦しくて
たまらないはずなのに士気を保って
くれる2人の優しさが沁み渡った。
成増先生のシーンで、私が一番好き
だったのは、最終話の手術シーン。
三瓶先生と大迫教授が両側から8分で
縫合を行うというアンパンマンと
バイキンマンが共闘するくらいには
アツいシーンが終わったとき、
成増先生は、星前先生に声を掛ける。
「左手使ってたね」
星前先生は、全科専門医くらいの
知識を持ちたいと話したとき、
三瓶先生に言われたことを気にして
ずっと左手も器用に使えるように
練習していたのだ。三瓶先生と
大迫教授の格好良すぎる縫合だけに
目が行ってしまいそうなシーンで、
しっかり星前先生の努力の成果に
気付いてくれた成増先生が包容力の
塊すぎてすぐさま抱きつきたかった。
④色気をしまって岡山天音
本当に出てきてからずっと思ってた。
「色気をしまって岡山天音」
岡山天音ってもはやカメレオン
俳優とかの域を越えてると思う。
何レオンか分からないくらい役で
まるっきり印象が違う。
今回、岡山天音が演じた綾野先生は
これまでに見た岡山天音史上一番
色気が醸し出されていた役だと思う。
綾野先生はとにかく真っ直ぐ。
いつも誰かのこと優先で、自分の
気持ちは後回しにするような人。
自分の気持ちはしっかり伝えるけど、
一方的なぶつけ方はしない。
どこか余裕があって、終始穏やかで、
でも心の奥には闘志がありそうな
好きにならんのは無理ですやん?
みたいなタイプ。多分、2個上の
近所に住む幼馴染みとかだったら、
人生の半分は持って行かれるタイプ。
ミヤビに対しての告白も、
「ほっとするんだよね。いてくれる
だけで、ミヤビちゃんは。
付き合ってくれない?俺と」
っていう何の曇りもない澄み渡った
爽やか優勝ありがとう告白だし、
麻衣に対しての告白も、
「俺は麻衣を誰にも渡したくない。
綾野病院もカテーテルもどれも
諦めたくない。一緒に自分の
人生を生きよう」
っていう覚悟の決まったバチイケ
告白だったし、令和に颯爽と現れた
貴公子さながらの雰囲気だったよ。
そんな雰囲気でありながら、麻衣と
上手くいった後は、デレデレ幸せ
オーラをばらまく可愛らしさまで
見せてくるんだからもう天才です。
しばらく岡山天音見る度謎に
照れてしまう自信があります(?)
⑤何もかもが好きな演出
変な加工は入れずありのままを写す
映像の質感、俳優陣の演技なのかも
分からなくなる繊細な表現と立ち
振る舞い、本当の会話を聞いている
ようなリアルなセリフ運びに絶妙な
カメラワーク、主題歌も用いた演出。
その全てが良すぎて、何が良いのか、
どこが好きなのかを上手く言語化し
きれない自分の言語能力が悔しい
ほどに何もかもが好きだった。
もうこの辺は私がどんな言葉を
並べても陳腐になってしまうから、
その目で見て体験して貰いたい。
⑥登場人物たちの絡みが可愛い
「アンメット」の魅力は、重みの
あるテーマでありながら、軽快な
やりとりにクスッとしてしまう
部分にある。
ドラマって基本的に恋のライバルが
出て来ると「お前には渡さない」
とか「俺ならそんな顔させない」
みたいな牽制が始まるけど、この
ドラマに出て来る恋愛パートの
牽制は驚くほど可愛い。
たとえば第3話。仲良くご飯を
食べるミヤビと綾野先生を見て、
「何だ?何かいい雰囲気なんじゃ
ないの?」
という星前先生の言葉を聞いて
「あの野郎……ぶっ飛ばします」
と席を立つ三瓶先生。
待て待て待て待てと星前先生が
制止をしてからの
「大丈夫です、
昨日ロッキー見たんで」
「じゃあしょうがないかって
なんないのよ!」
という会話。最強に可愛い。
他にも第8話で、ミヤビが過去に
綾野先生と美術室に行ったことを
思い出したシーン。
「俺が告白したことも思い出した?」
という綾野先生の言葉を聞いて、
「でも断れたんすよね?3回。
3回、断られたんすよね」
とカットインしてくる三瓶先生。
それに対して、やれやれ顔で
「三瓶くんさ~」
と返す綾野先生もまるっと可愛い。
綾野病院をどうするかという点は
不透明ながらも、麻衣と一緒にいる
ことを決めた綾野先生に対しても、
「え、何が大丈夫なんですか?
何も解決してないですよね?
綾野病院はどうするんですか?」
と詰めたり、それを受け流して
いちゃつく2人にも
「人の病院で何やってるんですか?」
と絡み続ける三瓶先生は本当に
面倒臭くて、本当に愛おしかった。
私が一番好きなのは、三瓶先生が
ミヤビの婚約者だと知ったときの
星前先生とのやりとり。
「それでお前記憶はなくても心は
覚えてるとか言ってたわけ?
ミヤビちゃんの心は覚えて
くれてるって期待して?
いじらしすぎるんですけど……」
「ちょ、もう出てって貰って
良いですか?」
「これ食べるか?」
抱きついて、突き放されて、
餌付けしようとして、この2人の
関係性が分かる第3話のシーンが
凄く大好きだった。
⑦愛に溢れた物語
タイトルにも書いたけど、
「アンメット」の主成分は愛だ。
ミヤビの病を知ってから、1人で
ずっと縫合を練習し続けていた
大迫教授の努力も愛。
師長がいないとことで、
「ツバちゃん、手術頑張ったな」
って泣いてくれる藤堂院長も愛。
皆で飲んでるとき、基本的に
ミヤビの傍を陣取ってる三瓶先生の
優しさと想いの強さも愛。
泣きながら兄への後悔を話をする三瓶
先生を「私を灯してくれました」って
抱きしめてくれるミヤビも愛。
「私のことは覚えてるでしょ?その
私が言うね?」ってミヤビを安心
させてくれる森ちゃんも愛。
大切な人は既に亡くなっていて、
自分だけが忘れられないっていう
痛みを抱えている成増先生に、
内足前頭前野は恋人や家族、大切な
人は自分と区別しないって伝える
三瓶先生の優しさも愛。
いつも人のことを優先してきた
綾野先生が家庭のことで雁字搦めに
なっている麻衣ちゃんに、自分の
人生一緒に生きようっていうのも愛。
ミヤビが反応しなくなったときに
駆けつけて、「大丈夫か?」って
冷静に三瓶先生を気に掛けてくれる
星前先生も愛。
対立しながらも、ミヤビを助ける
可能性があるならって練習を続けた
三瓶先生と大迫教授が両側から
縫合を行って8分切るのも愛。
星前先生が手術で左手を使ったことに
気付いてくれる成増先生も愛。
三瓶先生のミヤビに対する言動、
どこを切り取っても愛。
もはや演技とかの次元を越えている。
演技じゃなく、キャラクターたちの
人生そのものを見せられている。
苦しくて、切なくて、痛くて、
でもどうしようもなく愛おしい。
アンメットの主成分は紛れもなく
愛だ。生きていたら辛いこと、胸が
抉られるようなことがたくさんある。
でも、ほんの少しの優しさがあれば
その光を糧にちょっと前に進める。
暗闇にそっと光を与えてくれるような
このドラマが、アンメットな私の
人生を優しく照らしてくれた。
これ以上書いたら止まらなくなるから
この辺にしておこうと思う。また1つ
大好きなドラマが増えました。
円盤予約しました。また会える日が
今から楽しみです。時刻は2時半。
「アンメット」がくれた優しい光を
心に灯して寝ます。
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