
【読書メモ】博士(心理学)が通俗心理学本を読む 黒川伊保子『コミュニケーション・ストレス』
先日から新しい配信を始めた。通俗心理学本を博士(心理学)である私が読んでツッコミを入れるというものだ。普通であれば、配信の後に注目のポイントを切り抜いたりするのだろうが、私は喋りがさほど達者ではないし、文字にまとめたほうが後で見返しやすいのでnoteに書いてみることとした。内容としては配信で話したことが大半だと思うが、文字にしてみて初めて分かったこともあるので全く同じではない。逆に、あまりにも下らないので配信では話したが記事ではオミットした部分もある。著者の息子が意味不明な理由で母親にキレたくだりとか。
ともあれ、2時間超の配信をいちいち見る時間がない人や、文字でさらに振り返りたい人はぜひ購入していただきたい。そこまでではない人は配信のアーカイブを見返していただきたい。
なお、この配信で取り上げたからと言って、その本が通俗心理学本であるということを断言するものではないことを強調しておく。取り上げた時点では私が疑っているだけだ。訴訟対策。
書誌情報
黒川伊保子 (2020). コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する PHP研究所
なんで黒川伊保子の本を?
まず最初に、本書を選んだ背景を簡単に説明すべきだろう。
著者の黒川伊保子は近年、教育現場や行政などにニューロセクシズム(神経科学の知見を装って性差別を正当化するやつ)を売り込んでいたために批判を浴びている。
特に直近の例は尾道市の夫婦向けのパンフレットだ。まぁ、これはダイレクトに黒川伊保子がかかわったものではないが、尾道市は過去に著者を呼んで講演などをしていたようなので、全くの無関係でもない。
今年度のPTA全国研究大会における黒川伊保子氏の記念講演について、主催団体である日本PTA全国協議会等に対し、5月17日付の公開質問状を提出しました。 pic.twitter.com/UhPG2kc2pb
— PTA全国研究大会を考える会 (@researchPTA) June 1, 2023
また、5月には第71回PTA全国研究集会に著者が登壇するということで騒がれてもいた。PTAが怪しげな「専門家」を読んでしまうことは嘆かわしい限りだが、一方でこうした批判の声があがることに希望も感じる。
このような経緯があるため、時流に乗るために黒川伊保子の著作を取り上げようと考えた。その結果、「通俗心理学本を読む配信」なのに脳科学の本を読んでしまったし、私は脳科学者ではないのでツッコミにくいところが出てしまったりとコンセプトがぶれにぶれたが……多くの発見もある読書となった。
結論から言えば、本書は中年男性を甘やかし、社会の責任の全てを女性と若者に押し付けるステレオタイプ全肯定本であった。
今回の通俗心理学あるある
配信を続けていくにあたって、通俗心理学本によくある内容を収集してみることにした。今回は定番だと目星をつけている3つをまず挙げる。
①「○○大学の研究」って言いがち
『2014年に米国ペンシルバニア大学が発表した男女脳の神経信号図(前ページ)によれば』(p48)とあるが、大学名を気にする専門家はほぼいない。大学名より内容が大事だからだ。大学名を振りかざすのは内容を云々できないからかもしれない。
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