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ライターの自信揺らぐ。優秀な聞き手との2時間を分析した

つい最近のこと。

深夜に雪の積もった静かな街を歩きながら、親しい友人に、電話で人生相談に乗ってもらいました。

とある大先輩に「奢るから」と誘われ、Barで飲んだ帰り道です。

明日の予定もあったのでしょうが、彼女は2時間にわたって、にこやかにそして穏やかに親身に話を聞いてくれ、最後にはしっかりと僕の悩みを解消してくれました。

その2時間に彼女がしてくれたことは、あまりに偉大。

自然な流れで対話が進み、気づけば未来にも過去にも希望がもてるように変化が起きていました。溢れるしあわせな気持ちが、涙になって溢れ出たくらいです。

不思議なことに、マイナス気温の中でだんだんと体が暖かくなるので、「あれ、俺死んじゃうのかな」なんて思ったり・・(いえ、これは誇張です。失敬失敬)

ともかく、こんな表現をしてしまうほど素晴らしい対話だったのです。

一瞬、ライターとしての自信が揺らぐほどに。

しかし、
書くことも、
よりよい対話を求めることも、
僕にとっては生きることそのもの。

ここで圧倒され、打ちひしがれる代わりに、改めて彼女のしてくれたことを分析的に振り返り、学びに変えようと決意いたしました。

振り返り、抽出し、転用する

とまあ、そんなわけで、今日は彼女のしてくれたことを振り返るところから始めようと思います。

まずは、みなさんをその場にお連れするつもりで、どんな対話だったかを再現しましょう。

ただし、配慮することもあり出来事自体はフィクション混じりにしてありますので、そこはご理解を。僕の感じたことを追体験していただきたいので、問題はないと考えております!

続いて、2時間の対話をきゅっと振り返ったら、そこから今度は分析的に、彼女がしてくれたことを理解するに努めてみます。

忙しい方はそこだけを見ていただいてもよいかもしれません。

最後に、これをどう取材の際に応用するか、日常で使っていくかイメトレしてみたいと思います。

ではでは、どうぞお付き合いください。

不安を特定する

右耳にスマホを押し当てながら、僕は相談を開始しました。
相談内容は、とある女性とのコミュニケーションについてです。ややこしいのでAさんとしておきます。

Aさんは、今抑うつ的な状態にあり、以前に比べると覇気や未来への希望がうすれています。人間関係においても孤立してしている状態が続き、家で過ごす時間が増えている。

近い将来(数ヶ月後)には、自身のキャリアに関する大きな変更が迫っているのですが、そのためにできることになかなか手をつけられないでいます。

「だからどうした」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。「放っておけば?」 と。

しかし、自分が深く関わった相手が苦しみにとらわれ、覇気や希望を失う様子を見ていられないのが僕のサガです。いや、エゴ。

その人が生き生きと過ごせていたらできること、救われる周りの人たちが頭に浮かび、その想像はぐんぐん広がっていく。

おまけに、自分には協力できること、教えられそうなこともたくさん思いつく。上手に語りかけ、あっという間に悩みを解決に導く対話の例もたくさん知っています。

そういう“素晴らしい例”と比較すると、できない自分が浮き立ち、焦りが募っていく・・・。

結果、説教じみたアドバイスをしようとしたり、痛い質問を浴びせたりするばかりで、そうすると、Aさんはどんどん殻に閉じこもってしまう。

具体的には、僕が話し始めると怪訝そうな顔をし、不安が募っているとわかるボディランゲージが発せられ、「一人にさせて」などと言われてしまうわけです。

この反応に、僕はパニック。嫌われたのでは。怒らせたのでは。取り返さないと。などの気持ちが渦巻き、さらに舌が回ります。その後の展開は・・・よくなろうはずもありません。

だいたいこのようなことを彼女に伝えました。

前提への疑いが起こる

彼女は否定せず、肯定もせず、「うん…うん…そっか」と適度に相槌を打ち、一区切りしたところで、さらに状況を具体化することや感じていることを促すような質問を投げかけてくれました。

特にどんな状況でその焦りは募るのか。

その人のどんな言葉や反応から、これまでのやり方に問題があると感じるようになったのか

このような質問に促され、説明的にではなく、起きたことそのものを仔細に振り返りながら、過去のいろんな場面を追体験するような心地でした。

一通り話したところで今度は
「どうなったらいいと思っているんだろう?」と
彼女は尋ねます。

その人がこうなってくれたら幸せだ。そのためには今の状態に気づいてもらわないと・・・

この質問に答えるうち、気づきます。

僕の目指していることって、相手の現在を否定し、押し付けるように変化を迫っていることなのではないか。

自分の前提に疑いを向けることができたのです。

眠っているリソースを呼び覚ます

しばらく会話が続いたのち、今度は
「Aさんのどんな部分が好きか教えてほしい」

唐突にこんな質問をしてくれました。ここまで、強張った表情で痛みを伴う記憶を辿りながら話していたのですが、この質問で一気にゆるみました。

自分で言うのもなんですが、僕は人を好きになるのが得意です。誰かの好きなとこなど、いくらでも出てくる。

特に、Aさんの「ここがかわいい」「こんなとき一緒にいられて幸せだなあって思える」という話なんて無限です。

それで「たくさんありすぎるけど、大丈夫?」と笑って聞いたら「ぜんぶ、要約せずに聞かせて」と朗らかな返事が。

勢いに任せて次から次へと語りました。
10分は止まらず続いたんじゃないでしょうか。

話しながら、自分の中で愛情に満ちたエネルギーが高まっていくのがわかりました。そして、これだけ強く相手を想っているんだから、どんなに難しくても、彼女に提案されるであろうことをやり切ろうと覚悟が決まったことに気がつきました。

キリのいいところで、好きなとこ語りは終了。

彼女は、特段なにか指摘することはせず、ただ「その人のこと、すごく好きなんやね」とだけ、ほころんだ表情が想像できる声で伝えてくれました。

相手の内側に入り込む

僕がエネルギー満タンの状態になったところで、彼女は自分の話をしてくれました。おそらく、Aさんが僕に示している反応と、自分が彼氏だけには見せている反応とが似ていると気づいたからです。

「ほんとに唐突に、わけもわからず、心の中がモヤモヤでいっぱいになってしゃべれなくなることってあるんだよね」

楽しい時間の中ですら、突然そうなることがあり、
モヤモヤの原因はあとで冷静になってみてからしかわからないと彼女は教えてくれました。

その状態にあるときは、話しかけないでほしいし、質問もしてほしくないし、優しい言葉すらかけないでほしい(「何言われても否定したくなる」)のだそう。

ただ黙って、手を握るくらいのことをしてくれればいいんですってよ。そこのお兄さん。

「心底信頼しているからこそ、子どもみたいになってしまうんだ」とも教えてくれました。もしモヤモヤパニック状態でも、他の人としゃべらなくてはいけない状況になったらすぐ切り替えられるのがその証拠。

つまり、僕がパニックでいっぱいになるあの状況は、ある種の甘えを見せてくているところだったのです。

なんという展開。僕は何を恐れていたんだ。

そして・・・。

かわいすぎる。

なんてかわいらしい生き物なんだ。

彼女は「めんどくさくて申し訳なくなるんだけどね」と言っていたが、とんでもない。そういう背景を知っていたら、かわいくて仕方なくなるに決まっている。

見方がまるっきり変わった瞬間でした。

同じ状況に今後直面したときに抱くであろう暖かい気持ちと、過去の同じ状況で受け取り損ねた暖かいメッセージが、内側からどっと押し寄せてきて、涙になって溢れ出る。止まらない。

ひさびさに人に泣かされました笑。

感謝を伝える

そんなこんなでボロボロ泣きながら、
あふれ出た気持ちをそのまんま伝えたところ、
彼女は逆に感謝を伝えてくれました。

「自分のめんどくさいと思っていた部分を『かわいい』と、そんなふうに言ってもらえて、私の方が救われた気分」だよと。次回そうなったら落ち込み過ぎずにすみそうだよと。

この感謝により、僕は自分の手に入れた新たな見方をさらに強化することができました。勇気のいることですが、次は黙って見守ろうと思えましたし、それによって自分がまた一つ成長できるんだろうなとも想像できました。

めでたしめでたし。

以降、分析!!

彼女は何をしたのかを分析

長い長い振り返りになりましたが、彼女のしてくれたことを僕なりに抽出してみました。

まず、流れはこんな感じ。

①仔細な現状の確認
②どうなりたいのか?どうしたいのか?を確認
③愛に溢れた状態へ移行させる
④例を示し、見え方を変える
⑤相手の見方の変化に対し感謝を伝える

ここからさらにエッセンスを抜き出します。彼女から学べる、相手の話を聞くとき、押さえておくべきことは何か?

・事が起こったその場に立ってもらう
・愛に溢れた状態へ移行させる
・見方を転換し、行動を促す
・感謝で勇気づける

この4つだと思います。

⒈事が起こったその場に立ってもらう

過去のことにせよ、未来のことにせよ、実際にその場が見えるようになるまで詳しく聞いていくことです。

イメージとしてわかりやすくするために喩えを使うなら、報告書を書くつもりで聞くのか、再現VTRを作るつもりで聞くのか、みたいな話です。

その時、自分はどんな語気で、どんな言葉を放ったのか、表情はどうだったのか、相手はどんなことをどんなふうに言ったのか、どんな表情だったのか、動きや姿勢はどうだったか、それを実演も交えてもらいながら聞くのが大事だと学びました。

⒉愛に溢れた状態へ移行させる

解決策を示したり、どうするかを聞く前に、相手をエネルギーに満ちた状態にしておくことって大事なことです。そのプロセスを挟むだけで、やれる気が高まる。

彼女の場合、「Aさんのどんなところが好きか教えて」と聞くことで誘導してくれました。愛の力は絶大です。

コーチングで相手の最高の未来を聞くのもそれに当たるかもしれませんね。理想の状態を想像しているうちにエネルギーに溢れていく。

⒊見方を転換し、行動を促す

相手が安心して話せる関係を築き、愛に満ちた状態に誘導できたら、問題の別の見方や他の手段の可能性にアクセスする手伝いに入ります。

彼女が自分自身の例を伝えてくれたことがそれにあたります。

他に考えられるやり方としては、自分以外の人の事例を紹介したり、なにか裏付けのある知識を紹介したりでしょうか。

もしそれをしなかったらどうなっていたかな?
みたいに尋ねてもいいのかもしれませんね。

⒋感謝で勇気づける

感謝は相手を勇気づけます。
褒められるよりよっぽど行動する力になる。

彼女は、具体的に、あなたのこういう言葉が私をこんな気持ちにさせてくれるきっかけになりましたと伝えてくれました。

彼女はふだんから他者に感謝を伝えることが多く、しかも彼女にしか気づけないようなことを伝えてくれます。

たくさんの人が彼女の周りに集まり、力を貸そうとするのも必然ですね。


最後に〜感謝〜

彼女が深夜に、たった2時間で教えてくれたことは、今後の僕の人生でくり返し活かされることでしょう。

これから数十年にわたって、何度も何度も、目の前のむっつり黙った相手にかわいくて悶絶する機会を得たのです。すごいギフト。

おまけに、僕の中で苦い記憶だった数々の怪訝な顔たちが、今では抱きしめたくなるほど愛おしいものになっています。

はいそこ、気持ち悪いとか言わない。

広大な世界の中の、自分の愛せるスペースが広がった心地です。

最後に。

今後むっつり黙った相手に出会うたび、僕は彼女への感謝の気持ちが湧き、「特許とか著作権とかあったら大変だな」と思うことでしょう。

ここまで読んでくれている人はそういないと思うので、相談に乗ってくれた彼女の名前を出してお礼を述べます。

りえちゃん、いつも僕にたくさんの気づきや勇気を与えてくれてありがとう。今後もどうぞよろしくお願いします。

そして、Aさん、あなたがいなかったら僕はこのことに気づけなかった。こんなにも愛おしい(告白みたいだけどこの言葉しかないので悪しからず)と思える人に出会えたこと、誇りに思います。おかげでたくさん成長できたよ。ありがとう。


今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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久高 諒也(Kudaka Ryoya)|対話で情熱を引き出すライター
サポートいただいたお金は、僕自身を作家に育てるため(書籍の購入・新しいことを体験する事など)に使わせていただきます。より良い作品を生み出すことでお返しして参ります。

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