見出し画像

記憶にない20万円のシリコンバレー研修とメントスコーラの話

はい、どうぞ。

そう差し出したものが、意図した形で使われるかはわからない。

メントスを発明した人はきっと、それがコーラを大噴火させるために使われるとは思っていなかったはず。

しかし今や、メントスの3割がコーラに落下させられるためだけに購入されているわけです(嘘)。

人間は奇なり。

プレゼントは、意図に反した形で使われ、喜ばれることもあるのです。

今日はそういう、人間の愛らしくて探求しがいのあるところを考えてみたい。

<あぁバスよ、雑な運転であれ>

差し出したものが、意図した形で使われるかはわからない。

メントスコーラのように。

それに、意図した通りに使われていたとしても、推測したとおりの動機から使われているかはわからないし、使ってもらえたとして、良さを感じるポイントは思っているのとずれているかもしれない。

たとえば、修学旅行は「修学」を動機にして行きたがっている人が全然いないサービスです。

たぶん先生たちすらそうなんじゃないか。

僕がいちばん楽しみにしていたのは、バスの移動時間でした。

なにせ、好きな子の隣に座って話に花を咲かせるチャンス。

まあ結局好きな子の隣には座れなかったのですが、友達としょうもないことを話していた時間こそが僕にとっての修学旅行の思い出です。

そんな感じなので、バスガイドの話がもっとうんと短くて、運転がもう少し荒ければもっとバス会社を高評価していたかもしれません。

世の中そんなことばっかりです。

<必要なのはシリコンバレーではなかった?>

もうひとつ身近な例を紹介させてください。

昨年、富山県が未来の起業家を育てるため、すてきな事業を立ち上げていました。それがこちら。

驚くなかれ。なんと、2週間20万円で世界の先端企業が集うシリコンバレーにて実施される『起業・ビジネス研修』できたのです!

そんなラッキーイベントに、僕の3つ下の後輩Yくんが参加していて、彼はそれで人生が変わったとまで感じたんだそうです。

と、ここまで聞くと、「シリコンバレー」や「起業家研修」が彼の人生を変えたように思うかもしれません。

でも、メントスコーラを知る僕らです。
そうかんたんには納得できませんよね。

ほんとにそうか?
と疑いたくもなります。

で、Yくんによくよく話を聞いてみると、まず参加しようと思ったきっかけが県の意図とずれていました。

そもそも、彼はビジネスに興味がなく、いわゆる意識高い系とは縁遠い大学1年生だったんだそう。

「2週間、たった20万円でアメリカで過ごせる」

Yくんはその文言をみて、県が企画した「ポートランド起業・ビジネス研修」の参加者に応募し、当選したのです。

ほほう。まだまだ掘り下げがいがありそうじゃ。

<哲学好きとの寝落ちまでの語り合い>

そもそもYくん、研修で何をしたかをほとんど覚えてもいませんでした。

じゃあ何がきっかけで彼は人生が変わったのか。

彼が一番熱を込めて語ったのは、寝泊まりした部屋が同じだった先輩との寝る前の語り合いの時間についてでした。

この研修、昼間はみんなでシリコンバレーなどを周り、夜は2人ずつに分けられホテルで寝泊まりというものです。

Yくんとたまたま一緒の部屋で過ごすことになったのが、哲学好きで学生ながら経営をしている6歳年上の先輩でした。

その先輩と夜な夜な語りあった時間が彼に変化を生んだのです。

人と話したくても、日本語が通じるのは一緒にいたメンバーくらい。日本にいる友人と話したくても、時差やらスマホの料金やらでそう多くはできない。

街中に出ても大してやれることがなく(外に出るのを伝えるのも面倒だし、行きたいところに行くのも大変)、基本は何もすることがない。

じゃまするものがなく、同じ相手と話を深めるのに集中できる環境が十数日も続いたわけです。

目の前に横たわる暇でひまで仕方ない時間のなかで、自分の人生を、受け止めてくれる相手に向かって、自分の言葉で紡ぎ出す時間。

先輩が先に寝落ちしてから、暗闇の中でじっと一人考える時間。

どうやら、そんな時間が彼の変化を生み出したようなのです。

<新味のメントスを売る努力>

最初の話に戻ります。

差し出したものが、意図した形で使われるかはわからない。

意図した通りに使われていたとしても、推測した通りの動機から使われているかはわからないし、良さを感じるポイントがずれているかもしれない。

メントスコーラ、修学旅行のバス、シリコンバレー研修。

そういう嬉しい誤配みたいなものが、新たなサービスを発明するヒントになっていくんだろうと思います。誤配バンザイ。

でも、誤配が起きているとき、それに気づかずにいると大事な時間を失ってしまうかもしれません。

たとえば、メントスコーラに価値を見出している人たちのために、新味のメントスを開発し、売り付けようとするのは虚しい努力でしょう。

彼らが求めるのは、より激しくコーラが吹き出すメントスであって、新しい味のメントスではないからです。

努力の方向性をまちがえてしまうと、どうしてこんなにやってるのに報われないんだと途方にくれることになりそうですよね。

きっと僕のnoteも的外れな努力をしているから、バズったり、驚愕するような額の投げ銭が入ったりしないんだろうなぁ…。


自分を見つめる時間と、自分や自分が作り出したものを享受する他者の心を深掘り解明していく時間、どっちも大事にしていきたいもんです。それが僕の仕事でもありますしね。

この記事が参加している募集

サポートいただいたお金は、僕自身を作家に育てるため(書籍の購入・新しいことを体験する事など)に使わせていただきます。より良い作品を生み出すことでお返しして参ります。