初めてのスポーツ通訳(準備編)
0) エージェントからのメール
2023年6月12日。大学の授業を終えた帰りの電車で、通訳エージェントから案件メールをいただきました。今まで経験がないバスケットボール分野の、それも記者会見通訳でした。シーホース三河というBリーグのプロバスケットボールチームに、アメリカNBAから新監督が就任されるという内容の記者会見です。
会見は三日後の6月15日。バスケットボールのことを全く知らない私は、帰りの電車で早速新監督とバスケットボールの情報を探し始めました。幸い、YouTubeに新監督ライアン・リッチマン氏が話している動画がまず見つかり、帰宅するまでの時間を無駄にすることは避けられました。
それからの三日間というもの、バスケで頭がいっぱいになりました。知識を詰めすぎて頭が痛くなることも。ですが終わった今振り返ると、とても貴重な経験をさせてもらえたなと、また一つ通訳者として成長できたかなと思えます。
この記事では会見当日に至るまでの準備について主に書いていきます。終わった後の感想はFacebookに書いているので、よければご覧ください。
6月12日。案件の知らせを受けて早速、何を調べないといけないか考えました。頭の中で以下のことを調べようと決めました。
1) ライアン氏の研究(英語訛りと速さ、ご経歴、バスケ思想など)
2) バスケの基本ルールとプレイ
3) Bリーグの基本情報
4) シーホース三河の選手・スタッフ情報
5) その他(NBA、JBA、FIBAなど)
1) ライアン氏の研究(英語訛りと速さ、ご経歴、バスケ思想など)
YouTubeで監督の英語に慣れるための耳学習を始めました。印象としては、アメリカ英語なので特に慣れない訛りではなく、比較的聞き取りやすいと思いました。特に以下のpodcastは彼の思想を理解するのにとても役立ちました。火曜日、水曜日、木曜日と朝洗濯物を干す時も、散歩する時も聞き流しして、本質の理解に努めました。
ライアンさんの言葉で印象的だったのは、NBAでは試合を分析するためにビデオルームで映像の分析・編集を徹底的に行うこと「NBAのPhD(博士課程)」だと言っていたことです。これだけでも、ライアンさんの表現力・言語力の高さが想像できます。
2) バスケの基本ルールとプレイ
監督の言っていることを理解するためにも、バスケの基本ルールとプレイを知ることは必須だと考えました。残念ながら、バスケの経験がなくスラムダンクも読んだことがない私は、ゼロからのスタートでした。
そこで子どものご飯を食べさせた月曜夕方、書店に駆け込みこの本を買いました。
中高生のバスケ基本プレーの解説本です。ページごとの文字数も少なめで、写真が沢山あって理解しやすそうなので買いました。この本で基本プレーの名前(レイアップシュート、スクリーナー、ボールハンドリング等)を覚えました。
また見過ごされがちなのですが、こういう本は「ディフェンス網を出し抜く」「間合いを詰める」「当たり負けしない」など、バスケの状況をうまく表現した言葉が随所に見つけられます。こういう表現は素人が通訳しているように見せないためにも大事な要素です。特に「出し抜く」「詰める」などは英語からは直接日本語にはならないと思われるので、要チェックです。この本は当日の会見現場まで持っていきました。
またバスケの基本プレイについてはYouTube動画も非常に発達しており、学ぼうと思えばこんなに豊富な素材があるのだと改めて思います。私は以下の動画が特に参考になりました。各動画が短く、要点だけを映像付きで解説してくれるので、子どもとご飯を食べながら鑑賞したのを覚えています。
3) Bリーグの基本情報
シーホース三河は日本のBリーグに所属しています。そこでBリーグのサイトもチェックし、どんな用語や仕組みがあるのか調べました。
ここでは日程・結果、順位・成績、クラブ・選手などの見出しがあり、いろいろな情報が揃っています。どこから手をつけようか迷いましたが、まずはBリーグに所属するチーム名を押さえました。
ライアン氏はNBA出身なので、NBAのチーム名調べた方がいいかなと一瞬思いましたが、そこまでは手が回らないと判断し、諦めました。ですが当日の会見では一つだけNBAチーム名が出てきまして、「やっておけばよかった・・」と少し後悔しました。通訳の準備はまさに底なし沼で、自分で取捨選択をしないと時間内に終わらないことも往々にしてあります。
そしてこちらはスタッツ用語解説というページからの抜粋です(左ページ)。平均得点数、フリースロー成功率など、非常に統計的な情報が満載で目が回りそうです。出るかもという不安から書き写してはいましたが、「新監督就任の記者会見で、こんな統計的なことを、しかも略語を用いて話すだろうか?」と思い、ここはそこまで深掘りしませんでした。
4) シーホース三河の選手・スタッフ情報
次にシーホース三河の選手・スタッフ情報です。ここは重点的に調べました。チームの公式サイトがとても役に立ちました。
外国人が選手を呼ぶときはファーストネームで呼ぶことが多く、例えば中村太郎という名前でも太郎としか言わないケースも考えられました。ですのでフルネームで覚えるように書きました。プロフィールにある通り、フルネーム、読み方、ポジション(PG, SGなど)、そして念の為背番号もメモしました。また名前だけでなく写真も見ておくと、記憶を呼び出すための手がかりが増えて良いと思います。
また時間に余裕ができたときは、選手の素顔が見れるようなYouTube動画も観ました。動画のクオリティがとても高く、シーホース三河はSNSにも相当力を入れていることが想像できます。
5) その他(NBA、JBA、FIBAなど)
他にはバスケットボール関係団体にどんなものがあるのか、出てきたものを逐一メモするようにしました。こちらは終わりのない調べ物になりそうなので、時間を取られすぎないようにする一方、例えばFIBAはフィバと読むなど、発音で揚げ足を取られないように注意するところは注意しました。
友人に教えを乞うのも大事!
あと忘れてはいけないのは、慣れない分野の通訳をするときに知識習得をスピードアップしてくれる友人の存在です。バスケにおいてはプロでなくてもいいので、プレイしたことがある方の話を聞くだけでもとても勉強になります。
私の場合は大学以来の親友がバスケ指導をしていたので、すぐに連絡しました。幸い、すぐに電話させてくれることになり、用語やルールの解説をお願いしました。親友には後日ご飯を奢る約束をしました(笑)。
以上、当日までの通訳準備を書いてみました。何らかのご参考になれば幸いです。次回は当日通訳するまでの話を書いていきたいと思います。
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