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初スポーツ記者会見通訳で学んだこと4つ

これまで2回、初めてのスポーツ記者会見通訳について書いてきました。最初は通訳当日までの準備について、そして2回目は当日、通訳前の移動やコンディショニングについて書きました。こちらの記事では当日の通訳を振り返り、この仕事で何を学んだかについて書いていきたいと思います。

ちなみに最初の記事はこちらです。

こちらが2回目の記事です。

さて、実際の記者会見ですが、YouTubeにその一部が上がっています。ライアン氏がご挨拶をされるところの動画で、私の通訳もついています。実際にどんな雰囲気だったのかがこの動画からも感じていただけるかと思います。

そして後日、自分の通訳を分析した動画も撮ってみました。まさに記者会見通訳というお仕事からいろんな記事や動画が生まれた感じです。40分ほどの長い解説動画になってしまいましたが、通訳のノートテイキングや実際の通訳で起こるいろいろなことについて話しています。動画には通訳志望の方がコメントをくださり、撮影して良かったなと思います。よければご覧ください。

ここまでアウトプットをしてみて、改めて通訳という仕事は奥が深いなと思います。自分が通訳者であること、そして学生や社会人に通訳を教えられていることは、僕にとってかけがえの無い人生の喜びです。そこでそんな通訳の仕事で学んだことを4つ、ご紹介したいと思います。今から書いていくことはスポーツ記者会見の通訳のみならず、仕事全般にも言えることではないかと思います。

学んだこと1:最後は一対一

学んだことその1は、「最後は一対一」ということです。今回の記者会見では総勢百人ほどいたのではないかと思うくらい、多くの方が会場にいました。ですが記者会見が始まったら、最後は一人の人の話す内容を訳すのみです。記者からの質問もありますが、それも最後は記者一人の質問をライアン氏一人に伝えるのみです。そういう意味では、極端な話、記者会見も雑談も一緒なのだと思いました。

一対一だと思うまでには、会場の雰囲気に飲み込まれてしまうこともあるかと思います。ですがそこで負けては折角の実力も発揮できません。どんなお偉いさんが何人集まろうが、最後は一人の人が話している内容を、一人の人に伝えていくだけなんだ。そのように考えると大人数のプレッシャーに打ち勝てるかもしれません。

学んだこと2:自己満足度と顧客満足度を混同しない

今回のお仕事を大学の後輩にプレゼンした時に、ある学生が「今回のお仕事で満足できましたか?」という質問がありました。その時YESと答えた記憶がありますが、仕事には二つの満足度が関係すると思います。

まずはお客様の満足度、つまり顧客満足度です。記者会見の通訳をお願いしたいというクライアントの要望があり、それに対して言語化できていなくとも、「こんな感じで通訳してほしい」という要望があると思います。それをお客様から直接聞き出すのは現実的ではありません。ですが仕事が終わった後に「あの通訳良かったよ」や「また依頼させてください」と言って下さる場合は、顧客を満足させられたと認識しても良いと思います。

一方で自分の仕事にどれだけ満足しているかという、自己満足度なるものもあります。例えば今回のお仕事で言うと「お客様には喜んでいただいたが、あの箇所は満足にノートテイキングできなかった」「あそこで詰まってしまって、ライアン氏を困らせてしまったかもしれない」などという反省があるはずです。動画を振り返ると、そのような場面がいくつかありました。

ここで大切だと思うのは、顧客満足度と自己満足度は異なるということを認識しておくことです。もちろん、これら二つが同じ水準の時もあります。ですが通訳者としてより高みを目指すのであれば、自己満足度が常に顧客満足度よりも高く設定されていることが望ましいと思います。

しかし自己満足度がなんでも高ければ良いというのでもありません。自己満足度つまり理想が高すぎると、いつまでも自分を満足させられないかもしれません。100%の満足は難しいかもしれませんが、「この箇所は満足している」「ここはもう少し改善したい」というように、仕事を全体で捉えすぎず、いくつかの部分に分けて、良いところは自分を認めてあげるという優しさを持ち合わせても良いのではないかと思います。

通訳という職業は完璧を求めればどこまでも終わりがありません。もちろんそのように考えることも大事ですが、それで完璧にやるのは無理と諦観して努力することを止めてしまい、本領発揮できなくなるのは本末転倒ではないかと思います。メンタルの浮き沈みが激しい職業だからこそ、自分で自分を受け入れる姿勢は大切なのかもしれません。

学んだこと3:学び方を学ぶ

今回のお仕事は月曜日の夕方にご依頼いただき、木曜日の昼に本番を迎えました。実質二日半ほどしかなかった訳ですが、その間に通訳するために必要な知識は何かを自分なりに考え、YouTubeや本、ウェブサイトそして友人を頼ったりして知識獲得に努めました。

私の大好きなスピーカーにJim Kwikがいます。彼は何十もの数字をメモせずに暗記し、しかも覚えた数字を逆から再生できるという恐るべき能力を持つ方です。そのJimが言うには、In schools, we were taught what to learn, but not how to learn. (学校では何を学ぶかは教わっても、学び方は教わっていない)ということです。全くその通りだなと思います。ちなみにJimの英語は高速ですがとても綺麗で、上級英語学習におすすめです。

通訳者は新しい分野の知識を短期間で獲得する必要があります。その時に「どうやって学ぼうかな」と迷ってしまうようでは、大切な時間は過ぎてしまいます。案件照会があった時すぐに「これこれこうしよう」と学習計画が立てられる通訳者になることは決定的に重要です。

社会人に通訳を教える際にも、通訳準備プロセスについては色々と言います。資料が渡された日からレッスン当日まで何日あって、その間いつまでに何をしようと計画したか、そしてその計画は達成できたのか、または計画倒れになったのか。それはなぜそうなったのか。通訳の結果(プロダクト)だけを見るのなら通訳学校の出番なのですが、私の通訳レッスンでは「学び方を学ぶ」ことも重視していますし、それが私のレッスンの売りだとも感じます。

学んだこと4:Learn, Earn, and Return.

そしてJimのもう一つの信条、それはLearn, Earn, and Return.という発想です。何かを学んだらそれで稼ぐ。稼いだらその経験を周りに還元する。私の場合、大学の授業でMy job last weekというコーナーを設けて仕事の話をします。

通訳の動画を見ている学生。

今回は特に学生の反応はよく、苦労話なども笑いながら聞いてくれました。こうして通訳準備で学んだことが仕事で活かされて、後日大学で教えるときに学生に還元できる。私はこのサイクルをとても気に入っています。合理的ですし、全て自分の為になっています。

サステイナビリティという言葉が日常生活にだいぶ浸透していますが、通訳という職業のサステイナビリティも非常に重要です。どうすれば無理し過ぎず、持続可能な形で通訳という仕事ができるか。仕事のみならず、それが教育や家庭にも還元していくなど、自分なりのサイクルを作り出すことはとても有意義であると思います。いつか通訳者のサステイナビリティという題で本が書けたら良いなと思うくらいです(笑)。

以上、初めてのスポーツ記者会見通訳で学んだことを4つお伝えしました。どれも通訳という職業でのみ通用するというものではないはずです。私もこれらを常に意識しながら、最高の通訳パフォーマンスでお客様に満足いただきつつ、還元することで自分と周りの人の人生も豊かにしていけたらと思います。


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