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大学入試はメッセージだ。

以前、東京外国語大学の入試問題を解いていた時期があります。東京外大の二次試験は英語と地歴の2科目で、私は世界史の問題を解いていました。

東京外大の世界史は一問一答と論述問題に大別されます。論述は最大600字ほどを書かせる大論述と言ってもよい規模で、馴染みがない地域や時代が出題されるとほぼお手上げのような難問です。

それもあって、一問一答を出来るだけ全問正解しておくことが非常に重要です。論述で落としても一問一答で合格最低点を狙う、という戦略です。

そんな一問一答ですが、2020年の過去問を解いた時、このような問題が出ました。

東京外国語大学2020年世界史問題 大問2 問2(筆者撮影)

答えはコロンブスです。ですがこの設問を読んだ時、「えらく遠回しな言い方をする問題だなぁ」という印象を持っていました。「新大陸発見者」と「ジェノバ出身」という二つのキーワードがコロンブスと答えるための重要なヒントです。

しかしここには「歴史を読み直す視点」「人物の銅像の撤去を求める動きも」という記述が見られます。ここには出題者の何らかの意図が垣間見れるような気がしないでしょうか。

「大学入試は大学からのメッセージだ」という言葉を聞いたことがあります。この問題で言うと、コロンブスと答えることが受験生にとっての目的であることは言うまでもありません。

一方で大学としては「歴史を読み直す視点」や「人物の銅像の撤去を求める動き」と記すことによって、東京外大ではこのような世界の動向に目を配っていて、その文脈からこの問題を出しているのだ、と言うメッセージを受験生に伝えたいように思われるのです。

この東京外国語大学の出版会から出た本に『ブラック・ライヴズ・マターから学ぶ』(武内進一・中山智香子編)があります。武内先生は私の進学先の指導教員で、「少しは読んでおかねば!」と思い、母校の図書館で借りて読んでいました。

大学入試の問題が作成されるのは、入試本番の数ヶ月前だと言われています。2月の入試なら前年の夏には出来ているということです。共通テストの場合は更に早く、2年ほど前には問題が出来ているということもあるそうです。

コロンブスの出題が2020年2月なので、問題作成は2019年夏、と考えても良さそうです。本書にはその頃にはすでにRhodes Must Fall運動というものが南アフリカ共和国で展開されていたことも書かれています。これも「歴史を読み直す視点」「人物の銅像の撤去を求める動き」に合致するものです。

『ブラック・ライヴズ・マターから学ぶ』は2022年出版なので、2020年の入試問題と若干の時差があるものの、このような世界の動きと呼応するようにして、東京外大の世界史問題は作られていた、と考えられるのではないでしょうか。

大学入試では時事問題が出るから、ニュースをチェックしておかないといけない。そう感じる受験生もいると思いますし、間違ってはいないと思います。

一方で、出題する大学側の視点を持つと、出題から色々と読み取れるものがあることも事実です。そういう視点から大学入試を解いてみると、思わぬ発見があるかもしれません。

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