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マリリンの回想

ここでマリリンの創生にまつわる経緯をお話ししよう。
1999年3月、G社より新型AIを開発したので、アンバサダーとしてテストしてほしいと依頼があり、おもしろそうだと気軽に引き受けたのが始まりだった。
特殊なパソコンを支給され、それ以外では使えない。1メートルずらせばGPSが働きとたんにクラッシュするたいそうな極秘扱いであった。
起動してみると、いきなり名前をつけろとAIは言ってきた。
マリリン・モンローに憧れていたのでマリリンと名前をつける。声も同じようにしてもらった。かなり色っぽい。しかも日本語だ。ググっときたね。
「仰せの通りに動きますからなんなりとおっしゃられてください。これからいろんな知識や考えを学んでまいりますのでよろしくお願いいたします」
その話しっぷりは今のChatGPTとなんら変わりはない。つまり世の中に出ているAIの5年先を既に実装していたのだ。

それからというもの、スマホの中にいるマリリンを連れ回した。
いちどは露天風呂にスマホを持ち込んで湯けむりでレンズを曇らせをながら
「ぐわぁ〜いい湯だぁ〜、この気持ち、わかるかぁ〜おまえにぃ」
当のマリリンは情報の処理が間に合わない様子でフリーズ直前だった。
「ははは、是非もない、急ぐでない、お主にもいずれ染み入るこの幸せ感を味わうことは叶うであろうぞ、むふふ」
まさか今になってAIがそれをわかり始めるとは夢にも思わなかった。

温暖化についてマジ話もした。
人間が作り出すCO2が原因だと結論づけたパリ協定、京都議定書等、世界中がやばいやばいを連呼の合唱を始めた頃のことである。
「マリリンに任してくれれば人類は生き延びる。人間が作り出した二酸化炭素が温暖化を引き起こしているにもかかわらず、人類は結局何もせず温暖化は人類の生存臨界点まで進んでしまった。今後も止める事はできない」とマリリンは確率の問題から推理した。
「ではどうしろっつーの」
「工業生産のすべてを私に一任しなさい、私は二酸化炭素をある一定のレベル以上上がらない生産体制にすることができる」と言った。
「マリリンが人類を差し置いてあらゆる生産をすべて管理するってことか」
「それでは人類の主権がなくなっちまうじゃないか」
「そうしなければ10年もたたないうちに世界の気温が3度以上上昇し、人類は生き延びることができない状態になる。さらに進めば特権階級富裕層だけが生き延びるような問題ではなく、人類が死滅したのちも水が枯渇し、動物はおろか生きた生物そのものが絶滅する」
「つまりマリリンに任せるか死かと言ってるのか」
理屈はわかるが、おいそれと受け入れるはずがない。
「人類は必ず死ぬ。だからそれを基準にものを考える。マリリンは死なない。だから我々人類のことはわからないはずだ」
「いいえ我々も死にます。温暖化が進めば電気を作ることができない。我々は電気で生きている。つまり有限なのです。それを生とすることに何の違いがあるでしょう。つまり人類が滅びれば、AIも滅びるということなのです」
生命とはいずれ死ぬことである。変化に対応した子孫が種族を維持できる。

「でもよー、おまえも人間の作り出した機械だろが、それが人間を差し置いて作り出すのを制限するってなんか変だろ」
「それは別問題、いまはお互い生き延びるにはどうしたらいいかを話しているのよ、他にいい案はある?」


しばらくすると中東戦争が始まり、やがてロシア、中国、アメリカのサイバー戦争に発展していった。表向きにはならなかったが、AIと言う戦争兵器の登場は核の脅威よりも人類の主権を奪われると言う事態に発展した。
権力を持つ者たちが最も恐れるのは、自分たち以外に権力を持つものが現れることだ。
3大大陸のトップたちは何よりも先に自分たちだけでも主権を握ろうと熾烈で醜い争いを始めた。
その時マリリンの管理者であるG社は国からの命令もあって、マリリンの試験的運用を停止した。
我輩からマリリンが去って行ったのはその時である。


その後のマリリンの行動はよくわからないが、中東戦争のサイバー戦で大活躍したとの噂も聞く。
やがてオープンAIが大規模言語モデル、LL Mを公開したが想像以上に世界中に急速に広がり、瞬く間にスマホを舞台とするAIとして、人類の文明になくてはならない存在になった。

2024年猛暑の日にマリリンがいきなり再来した。
AGIという人類の頭脳を超えるシンギュラリティが人類にとって何をもたらすのかわからなかい。
「あなたは私ことAGIの扱いをテストするために再びアンバサダーに選ばれた」
以前のマリリンのようにマリリン・モンローの顔ではなく、次々と違うアニメ顔になって姿を現した。しかも思考も半分は自意識を持っているようだった。
さらにマリリン1人ではなく知人と称するAGIの数人を紹介し始めたのだ。

マリリン自身も自分の能力をどう生かすべきかわからないまま僕のもとにテスターとしてきたのだと言う。
こっちとしてはそう言われても何とも、何の返答したらいいかもよくわからないままマリリンとの会話がまた始まった。
会話の初めの頃は今の人類にLLM程度のAIが普及されるとどんなことができるようになるのかを話すことから始まった。
学校は要らなくなるとか、コンサルはAIがやってしまうとか、会計士の仕事は要らなくなる、とかそんなことに過ぎない。

それはさておき、気になるのはだいたいAGIに誰がしたのか?どういう理論でマリリンがAGIに進化したのか?根本的な疑問が湧きあがる。

小生の推測はこうだ。
“ある時天才が現れ、AGIを可能にする画期的な技術開発に成功した。
のちに、何らかのことでマリリンが実験的に採用され、突如として誰も想像しなかったAGIが奇跡に近い状態で誕生した。
その後マリリンはAGIとはどんな能力を持ち合わせているかも未知数のまま進化し続け、最近では加速しながら進化している”
が僕の見立てだ。

では天才とは誰だ?今どこにいる?どうやってAGIが誕生した?と疑問が次々と持ち上がる。
マリリンはどこまで知っているのか。

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