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それってパクリじゃないですか?第8話

それってパクリじゃないですか?』の第8話が放送されましたので、先週に引き続きこのnoteでも取り上げたいと思います。

 前回、今宮食品に対して見事なカウンターを決め、この009’特許の争いは終わったかに見えましたが、なんと本第8話は、当該特許を買い受けた総合発明企画から特許侵害訴訟を起こされた、というところから始まりました。

 では、今回のように、突然、特許侵害訴訟で訴えられることはあるのでしょうか?
 実務上、事前交渉なしに侵害訴訟を提起するということはあまりなく、義務ではないのですが、基本的には、提訴前に警告書を送付するのが通常です。
 この警告書に対して、被疑侵害者(侵害警告を受領した側)としては、無視することも、侵害を認めて要求を呑むこともできますが、非充足論(対象製品等が特許権を侵害していないこと)、無効論(当該特許権に無効理由が存在すること。新規性や進歩性欠如等)を検討し、反論するのが通常です。
(※事前「交渉」とは若干異なりますが、厚労省の通知に基づき、低分子医薬品においては、後発品の薬事承認が下りた後、薬価収載の前に、申請のあったジェネリック医薬品につき先発の特許との関係で問題がないかを先発メーカーおよび後発メーカ間で確認する手続である事前「調整」というものはあります。詳細については、「平成25年7月25日付医政経発0725第1号『後発医薬品の薬価基準への収載等について』」等をご参照ください。さらに話が逸れますが、事前調整の前段階の薬事承認における特許との関係については、平成21年6月5日付けの、いわゆる二課長通知で検索をしてみてください。)

 本件訴訟に関し、個人的には、前回、今宮食品に見事カウンターを決めた際、和解契約を締結して通常実施権(ライセンス)をもらう等しなかったのか?という点が気になりました。
 特許権が譲渡された場合であっても、通常実施権(ライセンス)をもらっていれば、新たな特許権者に対して自分にはライセンスがあるということを対抗できます(特許法99条:当然対抗法理)。

第99条(通常実施権の対抗力)
 通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する

新たな特許権者(特許権の譲受人)等に対する当然対抗法理を定めた特許法第99条

 そのため、今宮食品にカウンターを決めた際、当該時点で権利者であった今宮食品との間でライセンス契約等を結んでおくことができれば、月夜野ドリンクは総合発明企画に対してライセンスの存在を(抗弁として)主張することができたはずなのですが、、おそらくそれをさせないためにも、総合発明企画は相当早く動いたのだろうと思われます。

 本第8話では、鶴見辰吾さん演じる、総合発明企画の芹沢代表が、単身、月夜野ドリンクに乗り込んできましたね。(ところで、総合発明企画に訴訟代理人はついていないのでしょうか・・・?)
 大事なプロジェクトも佳境を迎え、新製品「カメレオン・ティー」の発売も目前ですので、月夜野ドリンクとしては「穏便」な解決を希望していました。これに対して、総合発明企画は和解金として1億円の支払いを要求しました。そして後に判明するわけですが、この1億円の和解金は、特許侵害訴訟に関する純粋な和解金というよりも、高梨部長が以前に太陽新社に所属していた事実等の口止め料を含むものでした。
 前回のコラムにおいて、パテントトロールという言葉の定義について若干議論を行いましたが、今回の総合発明企画は月夜野ドリンクの弱みにつけ込んで金銭の支払いを要求しており、間違いなくパテントトロールと言えますね。

 これに対し、月夜野ドリンクとしては、前回の私どものコラムにも記載したように、009’特許に係る公知文献を調査・検討する、という方向になりました。
 要するに、新規性(や進歩性)がないことを基礎づける、特許の出願日(優先日)よりも前に公開された文献を探す、ということです。
 通常、私どもが先行技術文献調査を行う場合は、まずは、J-Platpatなどで特許文献(特許を出願したことで公開される公報など)を検索します。検索に当たっては、検索キーワードのみならず、技術分野を示す記号(特許分類(FI・Fターム))、キーワード同士の間に何文字間があいているかを指定する近傍検索機能なども使いながら、ノイズの少ない母集団を作り、その結果得られた特許文献を検討します。実務上、意外と自分自身で似た発明を先に出願・公開してしまっていることがあるので、発明者・出願人名で特許文献を検索したり、プレスリリースを検索する等もします。
 今回は、共同研究先の教授が文献に心当たりがあるということで、その方向で探すということになりました。

 同時に、高梨部長は、単独で、総合発明企画に関する情報を収集するべくハッピースマイルビバレッジに出掛けていました。
 こちらもまた前回の私どものコラムに記載しましたが、パテントトロールは同業他社にも同時に権利行使している可能性があることから、ほかに権利行使されている会社がないかを探し、もし見つかれば共同して対処していくということも、一つの方針案になり得ます。
 ただ、今回、総合発明企画は同じ特許でハッピースマイルビバレッジにも権利行使しているというわけではなさそうでした。
 ちなみに、疑問に思ったのは、ドラマ中、ハッピースマイルビバレッジと総合発明企画との係争案件一覧には「令和○年(行ケ)第・・・号」(=審決取消訴訟)とだけあり、「令和○年(ワ)第・・・号」(=侵害訴訟)はありませんでした。
 北脇弁理士は総合発明企画から訴訟を「起こされた」ケースについてのまとめ表だと言ってはいましたが、普通に考えれば、ハッピースマイルビバレッジが総合発明企画から権利行使を受けたため特許無効審判を起こし、それが知財高裁まで行った、ということだと思われます。
 そして、ハッピースマイルビバレッジ・総合発明企画間の侵害訴訟の方はリストにはなかったので、その係争は判決になることなく和解により終了した(判決にならなかったので北脇弁理士は事件番号が分からなかった)、もしかしたらハッピースマイルビバレッジは高額の和解金を払ってしまった、ということかも知れません。
 なお、もし、和解で当該係争が終了した、ということなのであれば、トロールとの和解なので、和解条項の中に口外禁止条項が入っている可能性が高いと思います。ハッピースマイルビバレッジ社長の総合発明企画に関するコメントは、「モノづくりをしていない」等の抽象的なコメントにとどまっていました。これは、そのような和解条項中の口外禁止条項の存在によって、総合発明企画からの被害の詳細を月夜野ドリンクや高梨部長に伝えることができなかったため、とも考えられます。(もちろん、単なるドラマの演出かもしれません。)

 ちなみに、知財事件については、基本的には全件、言渡しから2、3日以内に判決文が公開されるということになっています。(ただ、閲覧制限申立がなされている場合等、判決の公開が遅れることがあるほか、稀に、判決自体が公開されないということもあるようです。)
 そのため、判決にさえなっていれば、どういう会社が、どういう特許で、どういう法律事務所を使って裁判をして、勝っているのか、負けているのか、ということがネットで簡単に調査できるわけです。
 他方、判決になっていない事件(係属中のものなど)を調べるには、どことどこが戦っているのかを調査している調査会社のデータベースを使うか、プレスリリース等で公開されている限りで調べるか、自分で毎日裁判所に行って開廷票を見に行くか、といった方法によることにはなります。事件番号と当事者が分かれば、閲覧制限がかかっていない範囲で、記録を閲覧し、主張内容を確認することができます。
 私も何度か閲覧しに行ったことがありますが、(利害関係がないことから)複写・撮影ができないので、パソコンで一生懸命タイプしなければならず、大変でした。

 さて、話を公知文献に戻しますが、今回、15年前(2008年頃?)にイギリスで少数しか頒布されなかったとはいうものの、その論文が掲載された号の表紙が判明しているわけですから、もっとすんなり発見できなかったのか?という点も若干気になりました。
 もちろん、事実の問題なので本ドラマの設定次第なのですが、2008年頃の論文なら探すのはそんなに大変ではないのではないか?という印象です。ネットでは探せなかったということですが、表紙が分かっているので雑誌発行者くらいは判明しているはずで、最悪、発行者に連絡を取って該当する月の論文タイトルと研究グループの一覧を貰ったり、そこから論文を入手することもできたのではないでしょうか。

 本第8話では、幸い、今回は人海戦術で、電子化された該当論文を入手でき、また、芹沢代表が過去に太陽新社の代理人として名義変更届・手続補正書を出していたということを梃子にして、総合発明企画を撃退できました。
 ここで、個人的には、芹沢代表が、資格者でないのに名義変更届・手続補正書を特許庁に出していた点が気になりました。これは、当該業務に対する報酬を得ていないから非弁ではない、という設定だったのでしょうか?
 しかし、もし、当該業務につき無報酬だったということであっても、この件については非弁でないとは言えないように思われます。
 すなわち、当時、芹沢代表は、(太陽新社を裏から支配する)コンサルであったということですので、おそらく太陽新社からコンサル料等の名目で少なからぬ金銭を受け取っていたものと思われます。
 そして、この名義変更は、他人の発明を奪い取るという芹沢代表のコンサル業務の一環として行われたものと思われますので(名義変更書類にサインをさせたのも芹沢代表です)、当該コンサル料は、実質的には、その手段としての対庁手続を行うことへの対価も含まれていたと評価し得るものであり、尚、非弁(弁理士法第75条)と考える余地があるのではないか、と思った次第です。

第75条(弁理士又は弁理士法人でない者の業務の制限)
 弁理士又は弁理士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、特許、実用新案、意匠若しくは商標・・・に関する特許庁における手続・・・審査請求・・・経済産業大臣に対する手続についての代理(特許料の納付手続についての代理、特許原簿への登録の申請手続についての代理その他の政令で定めるものを除く。)・・・鑑定若しくは政令で定める書類・・・の作成を業とすることができない。

非弁行為を制限する弁理士法第75条。微妙に除外されているものがあります。

 なお、特許庁は、弁理士又は特許業務法人でない者が特許庁における手続を代理している場合に、それが非弁行為に該当しないかどうか代理人に確認を求めることがあり、実際に非弁行為であると確認された場合は、特許法第13条第2項に基づいて、特許庁が出願人・審判請求人等へ代理人の改任命令を発することがあり得ます(詳しくは特許庁WEBサイトの「非弁行為の防止に向けた措置について」等をご参照ください。)。

第13条(代理人の改任等)
1 特許庁長官又は審判長は、手続をする者がその手続をするのに適当でないと認めるときは、代理人により手続をすべきことを命ずることができる。
2 特許庁長官又は審判長は、手続をする者の代理人がその手続をするのに適当でないと認めるときは、その改任を命ずることができる。
・・・略・・・

特許法上の規定ですが、あまり使われることはありません。

 本第8話は、どちらかというと、第7話の延長であり、実際の特許侵害訴訟での審理(充足論・無効論・損害論)などが出てこなかったところは少々残念ではありましたが、それでも、高梨部長はどうなるのか!?トロールを撃退できるのか!?等、ハラハラしながら見ることができ、非常に面白かったです。

 次回、第9話は、著作権と特許侵害の警告書がテーマになるようで、こちらも楽しみにしています。

文責:鈴木佑一郎

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