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それってパクリじゃないですか?第7話

それってパクリじゃないですか?』の第7話が放送されましたので、このnoteでも取り上げたいと思います。

 今回のお話は、今宮食品から乳酸菌の組み合わせに関する特許権(以下「009’特許」といいます。)を2000万円で買い取らないか、という提案があったというところからスタートしました。亜希達は、高額な提示金額に驚いていましたが、この特許技術は、月夜野ドリンクの製品「ぐるっとヨーグル」に使用されている可能性があるということでした。月夜野は、すでに侵害予防調査で、抵触する特許はないとの結果を得ていたようで、リスクは大きくないと判断していました。北脇弁理士も、(自信満々ではないものの)特許性がないという判断をしていましたね。

 しかし、その後、月夜野の製品を取り扱う小売店を始めとして、月夜野が今宮食品の特許権を侵害しているという内容のビラが配られていました。後に、このビラの配布は今宮食品が行っていた(可能性が極めて高い)ことが分かりました。

 権利者が知的財産権の侵害などを発見した場合、実務上、競業者である侵害者に対して警告書を送付するというのが一般的です。他方、単に侵害者に対して警告書を送付するのみでは実効性に欠けることから、侵害者のみならず、侵害者の取引先などに対しても権利侵害の事実や訴訟提起の事実を告知することがあります。
 今回も、今宮食品の立場からすれば、特許権者として侵害品が流通するのは困るので、第三者(侵害者の取引先)に警告することは、正当な行為であるようにも見えます。

 しかし、裁判の結果、特許権が無効と判断されたり、そもそも特許発明の技術的範囲には含まれないとして、特許権侵害が否定される場合もあり得ます。そうすると、「月夜野ドリンクはウチの特許を侵害していますよ!」という警告書の内容は、正しくなかったということになり、むしろ営業妨害のようなものだったということになり得ます。
 そのような場合、今宮食品(権利者)が、月夜野の取引先に警告状を送った行為(侵害告知行為)に、何らかの責任が発生するのでしょうか?

 ここで「不正競争行為」の差止請求権等を規定する不正競争防止法には、虚偽告知を防止するための規定が設けられています。

第2条(定義)
1 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
二十一
 競争関係にある他人営業上の信用を害す虚偽の事実を告知し、又は流布する行為

不正競争防止法第2条第1項第21号

 つまり、そのような権利者(今宮食品)の侵害告知行為は、「競争関係にある他人」である競業者(月夜野ドリンク)の取引先に対して行う場合 、競業者の「営業上の信用を害する」ものであり、かつ、権利侵害の不存在や特許等の無効が判明した以上、「虚偽の事実」を告知したと評価され得るものです。
 他方で、他方、権利者(今宮食品)の側から見ると、権利の侵害性や有効性については微妙な判断を強いられることも多く、事後的に非侵害・無効となった場合に直ちに不正競争と扱われるのは権利者に酷ではないかという問題意識があります。

 かつての裁判例は、裁判の結果、特許権侵害が認められなかった場合には、直ちに上記21号に該当するとしていました(旧傾向)。
旧傾向の下では、まず、不競法3条の差止請求においては、正当行為(違法性阻却事由)の有無は判断されず、結局、虚偽だったのか?という画一的な基準により決定されます。また、不競法4条ないし民法709条の損害賠償請求については、行為者の故意・過失といった事情が要件とされていますが、過失の存在について、告知者に対し厳格な判断がなされる傾向でした。(※不正競争行為が行われた場合、相当の理由がない限り過失があったと認定するのが相当であると判断された事例もありました。)

 その後、事後的に権利侵害が否定され、客観的に虚偽の事実に該当していたことが判明したとしても、特許権者によるその告知行為がその取引先自身に対する特許権等の正当な権利行使の一環としてなされたものであると認められる場合には、違法性が阻却される、と判断する裁判例が現れました(東京地判平成13年9月20日判時1801号113頁およびその控訴審の東京高判平成14年8月29日判時1807号128頁)。同判決では、正当な権利行使かどうかについては、警告に至るまでの競業者との交渉の経緯、警告文書等の配布時期・期間、配布先の数・範囲等の諸般の事情を総合して、社会通念上必要な範囲を超えているかを判断する、ということも示されています。
 このような判断枠組みを新傾向と呼んでおり、かかる新傾向の下では、上記のような「正当な権利行使の一環」であると評価できる事情があれば、過失がないとして不競法4条ないし民法709条の損害賠償請求が否定され、あるいは、違法性が阻却されるとして不正競争行為該当性そのものが否定されました(※後者の場合は、不競法3条の差止請求および不競法4条ないし民法709条の損害賠償請求はいずれも否定されることになります。)。

 なお、近時、後に権利侵害でないことが明らかになった場合には虚偽告知に該当すると判断し、旧傾向を採用したとも読めるような裁判例(大阪地判平成29年6月15日等)も散見されています。

 今回のストーリーでは、月夜野が009’特許を侵害しているかどうかはわかりませんでしたので特に問題にはなっていませんでしたが、紛争になると不正競争防止法第2条第1項第21号の該当性(虚偽告知の該当性)も議論になることが多いことから、紹介いたしました。

 また、今回のお話しでは、特許の怪物(パテント・トロール)のお話も出ていましたね。
 パテント・トロールという言葉は、特許権を濫用的に使用しているというような、ネガティブな意味合いで使用される言葉だと理解しています。
 今回のように、騒動が起きるように仕向け、これ抑えるために本来の損害賠償額よりも高い和解金を支払わせるという権利行使は、特許権を濫用的に使用していると評価できるものと思われます。

 ただ、特許権も財産権であるため、購入した特許権を権利行使して収益を上げるというビジネス自体は、そもそも憲法で保障された「財産権」の行使として正当なものであるはずです。
 特許権を自由に販売できるということ自体は、むしろ好ましいこととも言えます。たとえば、過去に携帯電話やパソコン等において極めて優れた技術、特許を有していたものの、今現在は、携帯電話やパソコンを製造販売していないという企業があったとします。その企業としては、特許権を売ってお金にすれば、それを元に、別の業態へ転換するための資金にできます。しかし、もし、買ってきた特許は権利行使できないという世の中であった場合、特許権を買う人がいなくなるか安くしか売ることができず、別の分野に資本を注入することが妨げられてしまいます。
 また、大学や研究開発法人などは、自らは事業活動を行っていませんが、特許を取って、場合によっては権利行使をしています。そのような活動がネガティブに捉えられるべき理由もありません。
 そこで、基本的には、パテントトロールというのは、単に他者から特許権を買い取って権利行使する者というよりは、事業も研究開発もせずに、他者から特許権を買い取ってきて、かつ、これを濫用的に行使している者、をいうと考えられています。

 パテントトロールは、どちらかと言えば外国においてよく見られ、日本では少ないと言われてきました。
 その理由として、日本における知的財産権侵害の賠償金額は、米国等に比べると低く、パテントトロールをやっても収益が上げられないからではないか、とも考えられています。(日本では懲罰的損害賠償といった制度がなく、権利者に生じた損害の填補を主眼としていることから、そのような制度を採用している法域に比べれば、賠償額が低くなりがちであると考えられます。)
 パテントトロールが出てきにくいという利点があるものの、権利者への救済として不十分であるとか、あるいは侵害予防の観点から、近時、懲罰的損害賠償制度の導入を含め、損害賠償額を上げるべきではないか、といった議論もなされています。

 パテントトロールといえども、特許権の権利者であり、これに抵触する技術を利用してビジネスを行っている場合、大きな障害となり得ます。紛争が長期化して交渉費用が大きくなってしまうリスクや、差止請求・損害賠償請求による事業へのリスク等を考慮し、この騒動を抑えるためとして、パテントトロールに対して和解金を支払って解決してしまうという例も散見されます。

 対応策としては、本第7話でもあったように、まずは侵害予防調査をしっかりと行い、パテントトロールに目を付けられないようにすること、そして、万が一、目をつけられてしまったら、その特許を無効にできるような先行文献等がないかを調査することなどが考えられます(特に、パテントトロールの場合、自らが発明者ではないため、有効な文献が見つかれば十分な反論が出てこないといったこともあり得ます。)。また、パテントトロールは、同業他社にも同時に権利行使している可能性があることから、ほかに権利行使されている会社がないかを探し、もし見つかれば共同して対処していくということも考えられるとは思います。

 本第7話では、今宮食品が製造・販売する青汁が、「青山製薬堂」の保有する特許権に抵触するということを見出し、月夜野が青山製薬堂からこの特許権を買い取ることで、むしろ今宮食品の特許権侵害を突くことができました(今回、今宮食品は特許を実施してはいないものの事業活動自体は行っていたため、このようなカウンターが使えましたが、前述のように、通常、パテントトロールは事業を行っておらず、カウンターを打てないということが多いです。)。

 さらには、今宮食品が、消費者をだましていることを認めるような発言をしているとこを抑えた映像を消費者に向けて上映することで、完全に押しのけることができました。

 さいごに、五木さんに彼女(秋元真夏さんが演じていた女性)がいたのには驚きました。
 私の実家で飼っている猫が「リリィ」にそっくりで、本話を見て、可愛い首輪を買ってあげたいなと思いました。
 次回の第8話は、月夜野が009’特許に基づく特許権侵害訴訟を提起されたところから話が展開するようで、こちらも非常に楽しみです。

文責:鈴木佑一郎山田康太

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