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「孫子」を読む

拝啓 奥さんへ

人生というものは、どんなときでも勝負です。「孫子」の場合は戦争ですが、その戦争を別の言葉に置き換えれば、競争ということになります。人生は、競争によって成り立っています。競争に敗ければ、その人の人生はみすぼらしいものになります。その競争に勝つための方法を「孫子」は幾重にも言い換えて論じています。

兵は詭道なり

「孫子」という本を一言で表すのが、この「兵は詭道なり」という言葉だと思います。ここで「兵」というのは戦争で、「詭」はたばかる、つまり騙すということです。その「道」ですから、騙す方法と考えます。

しかし、この解釈を「孫子のねらいは、力づくではなく、心理的な操作によって、無理なく相手をコントロールすることにある。それが、孫子の言う詭道なのだ」という言い方をする人もいます。大体、同じことではないかと思います。

これを一言でいえば「敵の裏をかく」ということですから、戦争で敵の裏をかくのは当然のことで、それに注釈をつける必要はまったくないと思います。要するに商売の道にしても、相手の裏をかく、あるいは同業者の裏をかくということを年中やっていなければ、商売はやっていけません。実業であれ、兵法であれ、すべてが裏をかくことです。

ほとんどのスポーツも騙しあいです。サッカーに至っては完全な騙しあいになっています。ラグビーしかり、テニスしかり、すべて相手の裏をかくことです。

人間が生きているかぎり、このように騙しあいになるのは当然のことで、それを「孫子」がここであえて言っているというのは、その騙しあいに後れをとって引き下がるようなことはあってはならないという意味が込められているのではないでしょうか。

算多きは勝ち、算少なきは勝たず。

算多きは勝ち、算少なきは勝たず。いい言葉ですね。「算」というのがいいです。とにかく占いとか、天地神明に祈るだけではダメだということです。勝てるとか勝てないとか、算盤をたくさんはじいた人は勝ち、はじかない人は負けるということです。当時としては、兵術の基本ではないでしょうか。

兵は拙速を聞く

故に兵は拙速を聞くも、未だ巧久なるを睹ざるなり。
名言ですね。要するに、戦争は速戦即決と相場が決まっているが、戦争が巧みで長く続いたという話は聞いたことがないということです。拙速は戦争の鉄則で、だらだら長引く戦争というものはありません。

勝ちを知るの道

彼れを知りて己を知れば、百戦して殆うからず。
彼れを知らずして己を知れば、一勝一負す。
彼れを知らず己を知らざれば、戦う毎に必らず殆うし。

孫子

これは名言中の名言ですね。
この言葉は孫子の謀攻からの言葉であり、勝つために必要なこととして挙げられています。孫子の謀攻では、敵のことを知らずに味方のことだけを分かっている場合には勝ち負けの割合は半々になり、敵のことも味方のことも分かっていないようでは、ほぼ負けるとされています。肝に銘じておきたい言葉ですね。

故に善く戦う者の勝つや、智名無く、勇功なし

孫子の中ではあまり有名ではありませんが、夫の好きな言葉です。
いつも勝って当たり前のような勝ち方をしているから、目のつかないということで、例えば、大石内蔵助がまさにその標本です。ここにあるところの戦争の上手な人が勝っても、その智謀が優れているという評判もなければ、武勇による功績もありません。というのは、つまり目につきやすい功績は、真の功績にあらずということです。むしろ目立たないところに、優れた人物がいるのだということで、企業であれ、学校であれ、どこにでもそういう人がいるのだと思います。

以上、孫子にまとめてみました。「孫子」が長く読み継がれる理由、それは孫子が単なる兵法書にとどまらず、人々の心と行動を見すえ、勝負の哲学にまで高めたことにあると思います。人の世は常に競争であり、勝負の連続です。また勝負である以上、勝たなければいけません。孫子の戦術をもとに、戦いに勝つための原理原則を身につけたいと思います。多謝。


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